第一幕 炎の魔王
「9km先に魔獣の反応を察知しました!」
並行宇宙から突如現れた魔獣、そして魔獣らを率いる魔王。奴らはこの宇宙を征服しようとしているらしいってよく聞くけど、本当かどうかはわからない。
僕は魔獣に対抗する組織『エンデル』に所属している稲原博斗。
「9km…え?9km走るの……?」
9km先は遊園地だったはずだ。遊園地を襲撃する魔獣……うーん、全く思い浮かばない。
というか9kmも先の魔獣とエンデルが戦うのか……
「戦える奴は準備しろ!早く向かうぞ!」
「稲原さん、これを!」
え?鎌?僕はいつも銃を使っていたはずだけど……?
「いつもの、僕の銃は?」
「気にしないでください、それだって使えますよね?」
「え、ああ、まあ使えないことは…ないけど……」
エンデルのみんなが走り始めた。それに続き、僕も走り始める。既に疲れてる。
―――30分後
「はぁ、はぁ、はぁ、づがれだ……ちょま、はぁ、はぁ、」
「稲原くん、早く!魔獣を暴れさせたら大変だよ!というかもう暴れてるよ!」
彼女は町野舞衣さん。1年前からエンデルに所属している。僕は8ヶ月ほど前に所属したから、一応先輩かな。
使用武器は槍らしいけど、槍を使っているところは見たことがない。
「ま、まぢのざぁん、もう、づがれまじだ……」
「ああもう早くしてよ!私先行ってるからね!」
「ぢょっど……おいでがないでぇぇ……」
僕は倒れ込んだ。もう体力の限界だ。というか鎌重すぎ。
相手が水の魔獣だったらいいな……水の魔獣と戦うのは楽だから。
というかおかしくない?なんで9km走るのよ……
―――更に50分後
「や、やっと着いた……」
完全に遅れた。他の人達は既に戦っている。相手は……
「炎の魔獣……!?」
炎の魔獣。数は少ないものの、それぞれが強力すぎる。
それに炎の魔獣を率いる魔王『炎の魔王』は、『九王』の第八位に位置する者だ。運良く魔王が現れないことを祈るしかない。
「ッッ……!」
何ヶ月か前に聞いたことのある声だ。
「この声は……ナヤくん?まさか…!!」
ナヤくんが戦っているんだ。魔王がいるに違いない。
僕は唾を飲み込んだ。魔王と戦うなんて何ヶ月ぶりだろう。
心臓の音が聞こえる。僕は武器を構えた。しかしまだ魔王の姿を確認していない。
「稲原くん、やっと着いたんだね!相手は炎の魔獣……それに、炎の魔王。気を抜かないでね。」
声が聞こえた方を振り向くと、そこには槍を構えた町野さんの姿があった。
「やっぱり…魔王がいるんですね。」
ナヤくんに槍を構えた町野さん。炎の魔王が非常に強力だということがすぐにわかる状況だった。
「あの奥に炎の魔王がいるはず。すぐに向か……」
魔獣だ。僕たちを魔王に近づけさせないためだろう。
「くっ、邪魔しに来たね…」
「さっさとやっちゃいましょう、町野さん」
町野さんは小さく頷き、魔獣に槍を向けた。
早くこいつらを倒してナヤくんのところに向かわないと。