2話 「邂逅─協力」
……無理だ。
俺はあの美女を探していた。
まさか『神眼』も奪われていたとは…。
あまつさえ、気配を感じることも出来なくなっていた。
いや、完全に感じられないわけではないが効力はせいぜい半径2メートルほど。
皆無である。
気配とはその者の力量であり、体内を巡るマナだ。
彼女と出会った時に気配を覚え、その方に出向いた。
しかし、そこにいたのは魔物の群れだった。
どうやらこの森の霧が妨害しているらしいな。
加えて、あの美女の気配がその魔物と似ているという可能性がある。
もしそうならまずいな。
気配が似ているということは力量が拮抗しているということだ。
果たしてまだ生きているのか。
俺は今、霧の影響がない洞窟の中で休息している。
魔物の群れを『神成』や『神怒』といった、雷を落とす神技を連発し駆逐したことに加え、この霧はろくに進むことも出来ん。
近くには気配などしないしな。
さて、どうしたものか。
いっそ、この霧を一掃するか。
……ん?この気配…
その刹那、背後から俺の首筋に冷たい感覚が走る。
その正体は刀だ。俺の首に突きつけられている。
だが、こんな鈍では俺の体に傷一つつかない。
だから、避けなかった……だけでは無い。
俺はこの気配を知っていたのだ。
「良かった。生きていたのだな」
「なっ……!貴方さっきの」
そう言い目の前のパステルイエローの髪を持つ美女は即座に俺と距離をとる。
警戒しているな。
構えを崩さず、微かではあるが殺気も感じる。
「何故、そこまで怯える?」
「……。貴方を警戒してるからよ」
「そうか。それはすまない。だが、安心して欲しい。俺は貴様に危害を加えるつもりは無い。むしろ有効な関係を築きたい」
「信用できないわ」
「ならば、信用させてみよう。何か望みでも叶えてやろうか?」
大きく出たが、今の俺、力を奪われてしまった俺に出来ることはあるだろうか。
単純な力では今の俺でも下界一の実力だと思うのだが。
「じゃあ、このダンジョンをクリアして、その報酬の八割を私に譲ってよ」
「容易い。だが、ダンジョンとは何だ?そもそも、俺はここがどこか分からん。教えてはくれんか?」
「えっ……。貴方、神なんでしょ?」
「神ではあるが全能神でも、最高神でもない。下界の情報は知らんのだ。故に教えてくれ」
「……わかったわ」
そこで俺は、この森がダンジョンと呼ばれる場所であり、この森を支配している魔獣…ボスと言ったか、それを倒すことでそこに眠る宝を得る事ができると聞いた。
つまり、こやつは危険な場と知りながら一人で来たのか?
そう思い質問をする。否、愚問であった。
「他の仲間はいないのか?」
「……貴方に殺されたわ」
「……」
やはり、着地時の衝撃に巻き込まれた下民共の中か…。
なるほど、道理で俺を恐れる訳か…。
「それは申し訳ない」
「別にいいわ。心からの仲間ってわけじゃないし、この霧のせいで誰が仲間かなんて分からなくなったわ。それにあそこには霧で錯乱して襲ってきたパーティもいたわ。だから、貴方には助けらもしたわ」
誰か仲間か分からなくなった。
それは、霧のせいで仲間の死体が分からなくなったという意味ではあるまい。
恐らくこの霧の錯乱効果で仲間割れでもしたのだろう。
上で見た時何かから、逃げているように感じたのはそれか。
彼女はここの魔物と比べても強いとは言えんが俺はこの美女に惚れているのだ。
傍に居たいのだ。守りたいのだ。
ならばやることは一つだ。
「では、俺が仲間になろう」
「……?臨時パーティを組むってこと?」
「よく分からんが、そうだ。いや、臨時と言ったか?では違う。永遠にだ」
「えっ……。まっ、まあ、貴方が本当にここのボスを倒せて、報酬も7割くれるなら考えてもいいわ」
「分かった。ならば、行こう」
「えっ、あっさりね。てか行こうって場所分かるの?」
「ボスとは一番強いもであろう。それなら落ちてくる時に禍々しい気配を感じた場所があった。恐らくそれだ。着いてこい!」
「おっ、落ちてきた??それに気配を感じるって何よ。そんなこと出来るの?」
「何度も言わせるな、俺は神だ。不可能はない」
「……それが信用ならないんだってば」
「何か言ったか?」
「い、いえ、何にも。あっ、私の名前はルミカよ」
「ルミカ、か。いい名前だなよろしく頼むぞ。さあ、戦慄せよ。我が力に」
決め台詞を言ったがどうやら響いていないようだ。
下民と俺とでは感性が違うのやもしれん。
後ろの方で小さなため息が聞こえた気がする。
読んでいただいてありがとうごさいます。
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