スキルある日常〜新たな力に目覚めた僕の成り上がり〜
学園物は初めてなので上手く書けているかわかりませんがよろしくお願いします!
この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
スキル、それは突如この世界に現れた精霊と呼ばれる超常の存在が人間に授ける寵愛である。
その寵愛の力は多種多様であり、あらゆる用途で活躍する。ある者は火を操る者、高速で移動する者、自然に干渉する力を持つ者も居た。
だがその力はただ正しいことのみには使われず、ある場所では犯罪者集団の鉄砲玉にされる者がおり、一部の地域では悪魔の使徒だと暴行を受けて力を暴走させ多数の死者を出したこともあった。
中には精霊そのものを捕獲しようと試みる者も居たが成功した例は一件もなく、大抵がロクな結果にならなかった。
そのため、寵愛の力をどうにか奪おうと誘拐、非人道的な研究に手を染める者も居た。それだけ寵愛は貴重であり、スキルを持つ者は少なかったためだ。
世界各国は彼らを最優先に保護、力を上手く扱えるようにサポートし国のために役立てられるように管理するためいくつもの施設を作った。
ここは極東の島国。全国にたった一つしかないスキル保持者を集め、育成、教育する機関―――その高等学校。通称、学園。
まだ、春が始まり新たな学園生活に誰もが慣れていないはずのその日学園の人通りの少ない場所で生徒が4人何か言い争っている。
一人は特に特徴のない出で立ちだ。黒髪黒目で平均よりやや低い身長の、中性的な顔立ち以外特に特筆すべきところのない少年だ。名前は『表裏 彼方』。
それを三人の少年が取り囲んでいる。
一人は制服を着崩したヤンチャな雰囲気のある茶髪、長身の少年。名前は『和達 狂弥』。
もう一人は紙袋を持った腹の出たの少年。名前は『針目 拓也』。
最後は前髪が長く目の見えない少年。名前は『他家 みる』。
三人はニヤニヤしながら彼方を囲んで監視の行き届かない裏の道へと追い込んでいた。
「ねぇ、彼方ちゃん…ちょうどいい物が手に入ってさぁ……ちょっとこれ着てくれないかなぁ?」
「そうそう、これ、俺の『裁縫』で作ったやつだからさ、絶対気にいるって!」
狂弥と針目の酷く耳障りな笑い声と共にそんなねっとりした言葉を発する。
「え?やだよ、そんなの…。」
狂弥達が渡して来た物を確認した彼方はそんな狂弥達の要求を拒否しようとする。だが、それはすぐ後悔に変わる。
「は?何言ってんのさFクラスの分際で俺らの命令が聞けないっての?」
最初に話しかけて来た狂弥は彼方の態度に青筋を浮かべながら憤怒の表情を露わにする。それと同時に彼の身体から黒い霧が発生した。
スキル名『恐怖』
それが狂弥の持つスキルだ。そのスキル名の通り発生させた霧には対象の恐怖心を煽る効果がある。
そのスキルに当てられた彼方は恐怖に身を竦ませ、肩を震えさせた。口からは小さく「ひっ」と引き攣った声が漏れた。
「その辺に更衣室とかあるからさぁ…。とりあえずこれ着て来いや?」
「わ、わかったよ…。」
彼方は恐怖から逃げたい一心で狂弥から受け取った物を抱えて近くの更衣室に駆け込んで行く。
「あ!それと勿論、男じゃない方でお願いね!」
ゲラゲラと周りを不愉快にさせるような笑い声を上げる狂弥達に彼方は何も言わずに更衣室へと消えて行った。
「おい、誰も見てないだろうな?」
狂弥は彼方が更衣室に消えていったのを見届けると他家に話しかける。
「ん?おう、今のところ誰の視線も感じないぞ」
他家のスキルは『視界の察知』。
自分に視線を向けている者の視界を見ることの出来るスキルだ。この力は他人に見られるとそれを察知することもできる。つまり、見張り役だ。
「そうか、それにしても彼方のやつもなんで抵抗しようとするかね?俺らのスキルはランクが全てだろうに。」
狂弥はそう言って心底不思議だと言わんばかりの顔をする。
この学園はそれぞれのスキル保持者にランクを設定している。それは社会に貢献出来る可能性、それ以外にも有用性を表した物だった。
勿論、ランクが低いと言ってもそれで人の価値が決まることはない。だが、彼らはそのランクをそのまま自分達の価値として見ていた。思春期特有の感情もあるだろうが自分達は特別なんだと言う身勝手な自負からだった。
そのまましばらく談話を続けていた狂弥達は更衣室のドアの開く音に目を向ける。
そこにはメイド服を着た少女が立っていた。
身長は低く150cm半ば程度しかない。腰近くまでもある黒く長い髪に、不機嫌を隠そうともしない人形のように整った顔、黒い瞳はジトっとしている。
「ほら、着てきてやったぞ」
少女から鈴のように凛とした声が発せられるがやはり不機嫌さを隠そうとしていない。
「おぉ、流石は彼方ちゃんよく似合ってんじゃん!」
狂弥達はそう囃し立てる。
彼女が今着ている服は狂弥達が彼方に渡した物だった。そして、その服を彼方と呼ばれる少女が着ている。
そう、狂弥達の前にいる少女こそ彼方本人だった。
彼の能力は『TS』。
自身の身体を男から女へと変える能力がある。多少身体の一部の大きさを変える能力はあるがあくまで本人の身体をベースとするため大きく身体を変えることは出来ず他人に能力を使うことも出来ない。ほとんど役に立たないスキルだった。
「お前らに褒められても嬉しくない」
彼方はそうやって最大限にドスの効いた声を出すが狂弥達には大した効果はない。
「いやー是非俺らのお相手して欲しいもんだ!」
下卑た笑みを浮かべながら狂弥ら彼方に触れようとするがその身体は一瞬でグシャリと歪む。
「うぉ⁈」
すぐ間近でそれを見た狂弥は悲鳴を上げて離れるとそこには男に戻った彼方の姿があった。
彼方の使う『TS』はすぐに身体を変えることが出来るがその間中身体の肉が蠢き非常に気味の悪い姿になる。そのため人前ではあまり使わないし本人の意識的に使えない。
つまり、今のは彼方からの嫌がらせだった。
「てめぇ!」
そんな姿を見せられた狂弥は怒りを覚え彼方に殴りかかる。
その様子を側で見ていた2人も同じように参加する。
だが、しばらくしてやったりと言った顔をしてほぼ無抵抗だった彼方に蹴っていた他家はその身体をビクリと震わせる。スキルに反応があったからだ。しかし、その顔は不味い所を見られたと言うより何か恐怖に駆られたような顔をしている。
「まずい、狂弥!妖精が来る!」
その言葉を聞いた狂弥達は一斉に血相を変える。
「何⁈ちぃっ!いくぞ!」
狂弥達はそのまま彼方を置いて急いで走り去って行く。それを見届けた彼方は壁を背にしてこちらへとヒラヒラ飛んでくるソレを見ていた。
まるで草や花で作られたようなドレスを見に纏い。髪は似たような花の飾りで止められ後ろへと流れている。その顔は可愛らしく絵本から飛び出て来ましたと言われても違和感なく受け入れられる程だろう。身長は20cm程だろうか。
それが狂弥達が恐れた妖精の姿だった。
妖精……それは精霊に成る前の存在。世界各地に現れただ徘徊するだけの存在だった。それは特に何か意思があるわけでもなくそこら中を飛び回り満足すると去って行く。一般人には特に害もなく放っておいても問題ない存在だった。
しかし、唯一害を齎される存在がある。それが彼方達スキル保持者だった。妖精にはスキルを変質、下手をすれば消去する力があったからだ。
実際、毎年のように妖精にスキルを変えられたりスキルを使用出来なくされる事案が発生していた。
だが、政府は特に何か対策を立てることはしなかった。と、言うより出来なかった。捕らえようにも超常に近い存在であり、物理的な捕縛は出来ない上に、下手に干渉すればスキルのような力を使い周りを引っ掻き回して去って行く。
どうしようもなかった。
出来ることはスキルホルダーはなるべく妖精に近寄らず、出来るなら興味を持たれないように警告するくらいだった。妖精はスキルホルダーにのみ能動的なのだ。
だからこそ狂弥達はすぐ逃げた。妖精は気紛れで不規則に動き回るが、進行方向から逸れれば大抵それで干渉されることはなかった。スキルを弄るにしても直接触れる必要があるためだ。
だが、彼方といえば真っ直ぐ此方へと向かって来ている妖精を見ても逃げようとはしなかった。
「来るなら、くればいい……」
狂弥達からのいじめを受けて精神的に弱っている彼方にはもう、どうでもよくなっていたのだ。
妖精に興味を持たれ、スキルを変質されても良い、それともスキルを使えなくされてもそれでもよかった。
今のような使えないスキルがあるくらいなら要らないし変質するなら今よりも使えないスキルになることはほぼないと考えたからだ。
彼方はしばらく座り込んで妖精の様子を窺っていると妖精はそのまま彼方の肩に着地するとそのまま座り込む。
彼方はただ動かず妖精の様子を見続けた。やるならやれ、と。
妖精はしばらく肩から足を下ろしてパタパタ振っていたがまるでつい先程気付いたとでもいいたげに彼方の顔をみた。
「フーン、ソッカー」
片言のような可愛らしい声が彼方の耳に届く。
「チカラ、ホシイ?」
彼方はその言葉の意味をよく理解出来ず小さな妖精の顔を凝視する。
だが、妖精は特に気にした様子もなく無表情に微笑むという半ば恐ろしげな顔をしながら彼方を見ている。
「チカラ、ホシイ?」
先程と変わらない声色、顔で同じことを愉しそうに聞いてくる妖精。今までそんな行動をとる妖精は聞いたことがなかった。
だが、彼方にとってそんなことはどうでもよかった。
「欲しい……欲しいさ。あいつらを見返す力が、馬鹿にされない力が、欲しいさ……」
殴られ、蹴られた痛みに呻きながらも彼方はハッキリと答えた。
その答えを聞いた妖精はより一層面白そうに笑った。口は三日月形に裂け、瞳のみの目が細められる。
妖精の愉しそうな笑い声だけが響いた。
「いいよ、力を貸したげる」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「彼方ちゃん⁈こんな所に居た!」
彼方が校舎裏の壁に座り込んでいると1人の少女が走って来る。
既に妖精の姿は近くになかった。
「大丈夫⁈また狂弥達の仕業⁈」
そう驚き憤る少女の名前は『桐山 瑞樹』。この学園に通う彼方の幼馴染みであり、何かと彼方に世話を焼く存在だった。
綺麗な栗色の髪を肩程まで伸ばし、大きな瞳の活発そうな印象で世話焼きなお姉さん気質である、彼方と同じく学園に通うスキルホルダーだった。
「ちょっと待っててね?」
そう座り込む彼方に声をかけると肩から下げている水筒の蓋を開ける瑞樹。すると中から水が浮かび出てくる。
スキル『水操作』。文字通り水を操るスキルである。ただし、効果範囲は本人から半径5m以内に最低でも100ml以上集まっている水でなければ動かすことが出来ない欠点がある。
そのため本人は絶えず水筒に水を入れて持ち歩いていたりする。操作した水は効果範囲内ならば高圧洗浄機よりも強く打ち出すことも、手足のように操作することができた。
瑞樹が操作した水は彼方の周りを漂い傷についた砂や汚れを落としていく。
「うん、これでとりあえずは大丈夫だと思う……」
彼方を綺麗にすると水筒に水を戻す。その際、汚れた水を綺麗にして戻す辺りそれなりに使い手でもあるのだろう。
実際瑞樹のランクはC+であり、スキルの能力は学園でも上位に入っている。戦闘にも使用できる上、水を操る能力は汎用性がそれなりに高かった。
ちなみにだが狂弥達はギリギリでD−に入っている。
「別に頼んでない」
ぶっきらぼうに彼方は言い放つが瑞樹は気にした様子もなく寄り添うように歩き出す。
「もー、素直じゃないなぁ。そんなんじゃ将来は私しか貰ってくれる人いないよ?まぁ、私が予約してるって周りに言いふらしてるからでもあるんだけどね!」
そう、クスクス笑いながら瑞樹は彼方の腕に絡みながら楽しそうに歩く。
彼方と瑞樹の関係は幼馴染みだ。しかし、周りから見れば彼らの関係は恋人のそれと映るだろう。
実際、瑞樹は彼方と結婚すると言って憚らないし、彼らの近しい者達もそう思っている節がある。
それは瑞樹と彼方の過去にある。
気の小さい彼方を瑞樹が引っ張る形で彼方と瑞樹は小さい頃から常に共にいた。幼い頃から同じ学校に通い、近い家に住み、毎日のように遊んでいた。それが彼らにも周りにも当たり前の光景だった。
互いに子供ながらも意識しあっていたし、それこそ将来を誓い合う関係になりあうこに違和感がなかった。
だが、それは中学に上がるとすぐに変化することになる。それも、それぞれが真反対な形に。
精霊の寵愛が齎されたのだ。
精霊が寵愛を齎すのは思春期の間が多く。スキルホルダーとなるの歳は中高生に多かった。
2人がスキルホルダーになったのも同時期だ。それどころか、同じ日、同じ時、同じ場所、同じ精霊により寵愛を与えられた。
その時は共にそれを運命だと思ったし、周りで見ていた者もそう思った。だが、そこから決定的に変わったことがあった。それはスキルである。
同じ精霊から寵愛を授かったから同じスキルが発現するかと言われればそうでもない。実際、同じであろう精霊からスキルを授けられた者達もそれぞれ違うスキルをもらっていた。
だから彼方と瑞樹が違うスキルを持っていることそのものには違和感はなかった。せいぜい、同じスキルじゃなくて残念だったと冗談を言って笑う程度の軽いものだ。
だが、そのスキルには大きく差があった。『TS』と『水操作』。FランクとC+ランク。これは決定的な違いとなり現れた。
瑞樹は期待され、彼方は半ば同情の視線に晒された。
それが2人の関係を大きく動かした。彼方は瑞樹から距離を取ろうとし、瑞樹は彼方とより距離を縮めようとした。
彼方の行動は理解出来る。例え幼馴染みだろうと、いや、幼馴染みであり昔から共に居たからそここれだけ差がつけばどうしても距離を置こうとするだろう。
なら瑞樹は何故、より彼方との関係を深くしようとしたのかと言えばそれは瑞樹の好みの問題だった。
瑞樹は……両刀。男女ともイケる口だった。
他人からすれば、それはあまり理解し難いものではあったが本人は至って真剣だった。
実際、瑞樹の友人は瑞樹からセクハラに近い行為を受けたことは何度もあったし、熱い視線を向けられたことも何度かあった。
そして瑞樹本人もそんな自分のことを嫌っていなかった。
幼馴染みであり、将来を誓い合うような仲の彼方が男にも女にもなれるスキルを持っている。より深みにハマるのは当然の摂理だろう。
勿論、女性化した彼方が美少女だったのは関係ない。少なくとも本人はそう言っていた。
だからこそ、彼方がぶっきらぼうに突き放そうとしても瑞樹は笑顔で受け流していた。
結局は一緒に帰る羽目になる彼方はため息を吐くが瑞樹はそれでも気にしたりしない。
だが、この日この時だけは実は彼方にとっては好都合な状況だった。
「なぁ瑞樹?」
「なぁに彼方ちゃん?」
「キスしていいか?」
「ん?いいよ?……ん?」
唐突に告げられた言葉に半ば反射的に答えた瑞樹だがよく考えてみればおかしなことに気づく。だが、既に返事してしまった。
腕を引っ張られた瑞樹は彼方の胸の中に収まる。
が、それと同時に女性特有の柔らかさを感じた瑞樹は彼方の顔を見るとそれは少女の顔へと変わり身体も既に変化し終えていた。
「え?あの、ちょっと?彼方ちゃん?ね、少し、少しだけ待って」
突然のことに生返事返した自分を呪いながら慌てふためく瑞樹と違い、既に彼方の顔は瑞樹の唇向けて動き出していた。
「あっ、ちょっ、ん…!」
そしてそのまま唇は塞がれる。
そのまましばらく静止していた2人はおよそ10秒程経って彼方から顔を離したことで動き出す。
瑞樹は顔を沈んで行く夕日と同じほど紅くし、彼方はどこか達成した高揚感に包まれていた。
「えっと!今夜はベットでお待ちしていればよろしいのでしょうか!」
テンパってしまっている瑞樹は今よりも遥かに大人の階段を駆け上がりそうな発言をするが彼方は聞こえていないのか何かしらブツブツ呟きながら微笑んでいる。
それを見て多少混乱が収まった瑞樹は何気に自分の唇をなぞりながら彼方に声をかける。
「ねぇ、彼方ちゃん?急にどうしたの?確かに、お嫁さんになってあげるって言ってるけどいつもはこんなに積極的にこないじゃん?」
なんとか冷静を装いながらもドキドキしながら顔を覗き込むが彼方は心此処にあらずと言った様子だ。
「彼方ちゃん?」
「瑞樹、水筒貸して?」
また急に動き出した彼方に反射的に水筒を渡してしまう瑞樹。だが、その顔はすぐ驚きに変わる。開けられた水筒から水が溢れ出てきたのだ。いや、溢れ出たのではなく、浮いて出てきたのだ。
「彼方ちゃん⁈それなに⁈」
瑞樹は混乱する。彼方のスキルにはない、自分と同じ能力。
世界には複数の寵愛を受けた人物も存在しているが少なくとも彼方にはそんな報告はなかった。
「あぁ、ありがとう瑞樹。これで、俺はやっと」
そう嬉しそうに呟く彼方。瑞樹はただそれを不安げに見つめているしかなかった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「わかった!悪かったから!許してくれ頼む!」
恐怖で顔を歪ませる狂弥。そのすぐ後ろの壁にいくつもの穴が開く。
「ひぃ!」
狂弥は情けない声を上げながらへたり込む。
それをただ冷めた目で見ている彼方。その周りにはいくつもの水がフワフワ浮いている。
彼方は無言でもう何発か当てないように近くに水を着弾させる。
「悪かった!もうしない!スキルに誓うよ!」
完全に力関係の変わってしまった2人。
それは先日、彼方が新しく手に入れた力の能力だった。
「謝るくらいなら最初からするなよ」
冷たい声で言い放ちながら狂弥の周りを囲むように水を移動させる彼方。
もう狂弥には謝ることしか出来なかった。
狂弥のスキルは対象が離れる程効力は薄くなる。スキルの力は効果の外へ出ようと慣性等の物理法則は残るため、相手スキルの範囲外から一方的に攻撃していた。
「彼方ちゃん?もうその辺で…」
瑞樹がおずおずと声をかけると彼方は微笑みながら瑞樹を見る。
「あぁ、瑞樹が言うならこうするよ。付き合わせてわるかった」
そう言うや否や水の操作を解き狂弥への敵意を霧散させる。
そのまま歩き去る2人が見えなくなるまで狂弥は震えているしかなかった。
「ありがとう瑞樹、お前が居てくれれば俺はもう馬鹿にされないよ」
そう穏やかな表情を浮かべながら彼方は瑞樹を抱きしめる。その姿は狂弥を冷めた目で見ていた少女のままだ。
彼方が新たに手に入れたスキルの名はまだ決まっていないが、あえて名前を当て嵌めるなら
スキル『口移し』だろうか。
スキルホルダーからの同意の上で10秒間キスを交わすことで対象のスキルをコピーできる。コピーできるスキルは5つまでストックできるがTS状態でなければ発動せず、尚且つスキルを使って男に戻るとストックが1つ失われる。
このスキルを使い彼方は瑞樹のスキルをコピーしていた。
「彼方ちゃんがスッキリしたならいいけど、あんまり危ないこととかしちゃダメだよ?」
瑞樹にとって彼方の新たなスキルは歓迎すべきことだった。能力的にも、能力によるランクの上昇的にも。おそらくだがCランクを下回ることはなくなり、彼方の居心地も悪くなくなるだろう。そうすれば、昔のような関係に戻れるかもしれないからだ。
「これなら、アレにも出られるかもしれないな!」
彼方は可愛い顔のまま無邪気に笑う。
アレとは、『バトルファイト』と呼ばれる競技だ。
現実世界にファンタジーのようなスキルが発現したのだ。そうなれば、誰でもやはり求めるのものの中に戦闘が含まれるのは道理だろう。
バトルファイトはそんな願いが実現した、つまりスキルホルダー同士での戦闘競技だった。安直な名前なのは、これを始めたのが大人ではなく、力を持て余した子供達だったからだ。
そして、それは今では一大ムーブメントとなっている。
彼方もやはり男であり、新しく手に入れたスキルも戦闘にも応用できる。出場を夢みるのは性だった。
「えー、危ないよ?それよりも彼方ちゃん、キスしてあげたんだからデートしようよ?」
だがそんなことは女性であり、あまりそう言った書籍を読まない瑞樹にはわからない。何気なく否定するがそれでも彼方は怯んだ様子はない。
2人はつい先程までいじめの元凶と会っていたとは思えない雰囲気で道を歩く。それは側から見れば青春と呼ばれるような光景だろう。
「瑞樹!これからよ協力頼むな!」
「えー、普通のキスならしてあげてもいいよ?」
容姿だけなら少女2人、手を繋ぎながら歩く。若干すれ違いながらも2人は仲睦まじく談話しながら去って行く。
ここまで読んでいただきありがとうございました!
途中から学園物じゃなくなった、と言うか学園属性消えた気がしますが、気にしたら負けです……。