報告
リシリー「ヌシー。たっだいまー。」
ヌシ「おかえり。怪我は無い?上手くいったかい?」
リシリー「……ヌシ…それが……」
リシリーは先ほどおきたことについて、どのように説明すべきかと考えた。
リシリー「ヌシ…フィリルの身体が…」
リシリーの落ち込んだ様子に何かあったのかと、ヌシが不安に思った中
フィリル「たっだいまー。」
ヌシ「?! フィ…リル…?」
フィリルは異形の姿のまま、担いでいた[ウルフェン]の死骸をいつも捕まえた獲物を置く場所に置く為、ヌシの前に姿を出した。
ヌシはやはり驚いた様子をみせる。
フィリルの魔力を感じるのにもかかわらず、目視している者の姿は、闇を纏う化物にしか見えない。
ヌシは異物だと本能が其れから放たれる恐怖に判断し、拒みそうになるのを理性で抑え、フィリルの魔力をたどり その者をフィリルだと認識した。
ヌシ「……。フィリル、その姿はどうした?何があったんだ?」
ヌシが困惑しながらも問いかける
フィリル「んー。?」
フィリル自身も何故こうなったのか理解出来てない以上、説明しようもなく、小首を傾げるだけになる。
そんなフィリルの様子をみて、リシリーが口を開ける。
リシリー「ボクたちも分かって無いんだよ…ヌシなら何が分かるかなっておもってさ…」
そう言って、リシリーがことの顛末をヌシに伝えた。
[ウルフェン]を追って捕まえようとした時、[ディビノス]が現れ、対峙したこと。
その対峙していた中で戦闘になり、窮地に陥った時、フィリルの姿や魔力量がこの様になってしまったこと。
変形して、フィリルが "黒い炎" を使用したこと。
これらの説明を聞き、ヌシは何か考えこんだ後、口を開いた。
ヌシ「フィリル。あまり驚いて無い様だけど、その姿、受け入れているのかい?」
フィリル「んー。僕に見えてるのは、胸から下だし、目線が高いなーって。これでも案外ショック受けてるよ?」
[ウルフェン]の死骸を、石で作ったナイフ状のもので皮を剥ぎ出したフィリルは、ヌシの問いにのんびり作業を止めること無く答えた。
リシリー「わー、呆れた。自分自身のことだよ?もっと真剣に考えなよ!」
そんなフィリルの様子にリシリーは呆れて発言する。
ヌシ『急激な変化に、思考が追いついて無いのかな?』
フィリルが現状の急激な変化に追いつけてないのだろうと、ヌシは察し
ヌシ「ふむ。それは、変化魔法の一つだと思うが、フィリル。人の姿に戻るよう魔力を込めて思い浮かべてみてくれるか。」
先ずは、人の姿に戻れるか、確認してみた。
ヌシの言葉を聞き、フィリルは皮剥ぎの作業を止め、実行してみる。
すると、纏っていた闇が身体を覆い、ものの数秒で闇が小さくなり、闇が消えるとそこには変わる前、人の、フィリルの姿に戻っていた。
リシリー「おお!戻った!戻ったよフィリル!!」
嬉しそうなリシリーの声に、フィリルは己の身体を見る。確かに目線は低くいつもの高さに、身体は右上半身が黒いいつもの、人の姿だ。
フィリル「! すげぇ!戻れた!」
フィリルは何度も手を握ったり伸ばしたり、身体中を触ったりして確認している。
フィリル「ヌシ!ありがとう‼︎ 人じゃないまま生きなくちゃいけないのかって思ってたんだ!」
フィリルはヌシにお礼を言った。どうやら思いの外身体の変化にショックを受けていたようで、人の姿に戻れたことを心底安堵していた。
が、ヌシの表情はあまり良くない。
フィリルとリシリーはそんなヌシの様子が気になった。
リシリー「ヌシ?どうかした?」
ヌシ「いや…。ふむ。」
なんとも歯切れが悪い。
ヌシのそんな反応にフィリルは不安になった。
フィリル「何か引っかかることでもあるの?もしかして、戻れたのがマズかったの?」
ヌシに少し近づきながらフィリルが不安そうに聞く。
ヌシ『あの姿はやはり、変化魔法か…だがあの姿…それに………。』
ヌシはフィリルをじっと見つめ、優しい声色で言葉を紡いだ。
ヌシ「すまない。戻ってよかったんだよ。 ただね、闇を纏う姿がね、我の…。 昔の友に似ていたのが気になっただけだよ。」
フィリルはそれを聞き、安堵したが、同時にヌシの友が気になった。
友とは、と フィリルが聞こうと口を開けようとしたが、ヌシは続けて更に気になることを言った。
ヌシ「リシリー、フィリル。黒い炎をフィリルが使ったと言ったね?フィリル。もう一度、その人の姿でだせるかい?」
リシリーもフィリルもお互い見つめ合い、 ? が浮かんだが、黒い炎が出せるか試してみた。
何時も火魔法を出すようにフィリルは挑戦する。が、黒い炎は出ず、赤い火が手の上に現れる。
何度も火を出しては消し、出しては消しと繰り返してみるが、黒い炎ではなく、赤い火か炎のみが現れる。
うーん。うーん と唸るフィリルに、ヌシが助言する。
ヌシ「手の上にある、空気か、魔力を燃やすと意識してみたらどうだい?」
フィリルはヌシの助言のとうりに試みた。
両手を前に出し、 手ひらの上の空気を燃やす と。
これは魔法なのだろうか、詠唱を思い浮かべている訳でも、唱えている訳でもない。
しかし、其れは現れた。両手に出るよう思い浮かべたのだが、何故が左手の上のみで、フィリルの頭位の大きさのが現れた。
リシリーとフィリルが うお! と驚いている中、ヌシは冷静にその黒い炎を見つめていた。
ヌシ『この炎、それに炎から感じるこの魔力の質は…』
ヌシ「フィリル。」
フィリル「ん?」
出た!すげぇ!黒い!っと感激していたフィリルは、ヌシの呼びかけに顔をヌシに向ける。
そこには真剣な顔をしたヌシがいて
ヌシ「その黒い炎は"黒炎"という。"黒炎"はこの世界でただ一人しか使えない、生まれ持った特別な魔法なんだ。」
フィリル「特別…?」
ヌシの真剣な顔付きに少し不安になりかけるフィリル。ヌシは更に言う
ヌシ「ああ、この世界でただ一人。魔族の王。魔王しか使えないものだ。」