遭遇そして異変
空は青く気持ちの良い晴れ間。昼時きであろう時間帯
静寂な森の一角。突然 木々の凪ぎ倒れる激しい音が響き渡る。
リシリー「コラ!無闇に魔法使わない!植物が可哀想でしょ!ちゃんとアレに当てて‼︎」
フィリル「分かってるって! もー 動く的に当てる練習もっとしたほうが良かったかなー。」
フィリルは今、黒い毛並みの、牛より一回りは有ろう狼タイプの魔物 [ウルフェン] を狩ろうと、追いかけていた。
魔法・魔力のコントロールが出来る様になり、まず、小型のウサギの様な魔物を対象に狩りと魔物の肉に3ヶ月かけて身体を馴染ませ、中型の今追っている魔物に狩りのレベルを上げていた。
小型の魔物には中型や大型から身を守るために、毒を持つ物が多くいる。中型からだと毒を持つタイプは少ないので、その肉をメインにして行こうと中型の比較的狩りやすく、毒を持たない[ウルフェン]狩りをしている。
中型は小型よりも移動速度が速く、図体が大きいため目標よりも広範囲に圧縮魔法を使うと周りの木々にまで攻撃が及んでしまう。植物にあまり被害が無い様にと、ヌシにキツく注意を受けているので、火属性魔法は使えない。
フィリルは自身の足に脚力強化の魔法を使っているおかげで、4歳とは思えない程の速度を出している。
しかし、追いかけている[ウルフェン]には、追いつけない。5メートル以上の距離が圧縮魔法を使用する際、ネックになっていた。
フィリル『前か、後ろの足を潰して転倒させればいけるかな…?』
眼前の[ウルフェン]は、一匹。本来十数頭の群をなして行動する魔物なので、群が有るなら戻る前に、群が無いなら損壊を少なくする為に、早めに狩猟したい。
フィリルは[ウルフェン]の足の動きに集中し、左前脚を狙って圧縮魔法を使用した。
目標位置に左前脚ではなく、左後脚がきたが圧縮には成功。[ウルフェン]は大勢を大きく崩して転げる様に前方に倒れた。
フィリル「っしゃー‼︎」
リシリー「はいはい、まだ油断しちゃダメだから!」
倒れた[ウルフェン]まであと3メートルと近づいた瞬間
ドゴォォォォン‼︎
大きな音が辺りに響く
探さずともフィリルとリシリーは音の元凶が何か、すぐに気付いてしまう。
フィリルが転ばせた[ウルフェン]を、10トントラック位の巨大な魔物が踏み潰した音だった。
その巨大な魔物の2メートル程前で、フィリルはピタリと脚を止めれたが、その魔物の放つ魔力の質はとても濃く、ここ1年と5ヶ月生活した中で体験した事もない程の濃さだった。
魔力の量で強さは決まる。が、魔力の質は他者を威圧することも出来る。
魔力の質が濃ければ濃いほど、魔力量も高い可能性があり、フィリルは瞬時に己と比較し、その魔物より劣っていると、悟ってしまった。
フィリル『やばいな。このFFシリーズのヘビモスみたいな奴の方が、僕より強い。こっちだけが認識していたら逃げれたけど、ここが少し開けた場所のせいか、近すぎたせいか、あっちにも認識されてしまっている。』
今 フィリルとリシリーの前に佇んでいる魔物は [ディビノス] 紺色の身体で、馬の様な短い立髪。猫と犬を合わせたかの様な顔。2本の上牙が口の外に出る程大きく、とても筋肉質でガッチリとした体格をしている。
[ディビノス]は、フィリルに視点を当てている。
よって、フィリルは今[ディビノス]と睨み合い状態だ。
リシリーはフィリルの右下 足下で「シャーー‼︎」っと威嚇していたが、[ディビノス]は動じていない様子。
もしかしたらリシリーも敵わない相手かもしれないと、フィリルはこの後の動きをどうするか考えていた。
数分いや数十分だろうか、睨み合いは続き、お互い微動だにしない。
フィリル『コイツの魔力が増している気がする。どちらかが動けば、確実にコチラが負ける。なんとか逃げるようにしないと、僕の体力が持たない。』
しかし、思案しているフィリルとは裏腹に、先に動いたのは[ディビノス]だった。
[ウルフェン]を踏み潰していた右足を、フィリルに向けて振りかぶる。[ウルフェン]をヤツが踏み潰した所は浅いし小さめだが、地面が凹む程の威力だ。咄嗟に身体能力の魔法と重力軽減魔法を自身にかけ、フィリルは間一髪で避ける。
しかし、空ぶった[ディビノス]の足が、地面に着く間際、[ディビノス]の口に冷気が漏れるのが見えた。
足が地面に着いた途端、フィリル リシリーに向け、吹雪の様な魔法が放たれた。
リシリーが瞬時に魔法攻撃に対しての盾魔法 シェルを出して防ぐことが出来たが、今度はフィリルが回避して浮き上がっていた脚が地面に着くと同時に、口を大きく開け、牙を剥き出しにした[ディビノス]の顔が1メートルも無い目の前に迫ってきた。
『このままじゃ喰われる。此処で死ねるか‼︎』
[ディビノス]の口が、フィリルの眼前数センチという距離で異変が起こった。
ガッ ガシ‼︎
リシリーは目の前で起こった出来事についていけなかった。
目の前には、先ほどまでいたフィリルの姿は無く、黒く 大きな 闇そのものと呼ぶべき 化物がいたのだ
人の様だが明らかに人で無い。[ディビノス]の口を掴み、対峙しているこれは…
其れは異形だった。
手や身体つきはガタイの良い人のそれなのに、頭は狼かドラゴンの様でいて、羊の様な角があり、足は犬猫の後脚。腕は長く、体格の割にかなり細い。全身が漆黒の毛で覆われ、太く長い鱗の生えた尻尾。そして何より其れは闇を纏っていた。
だが、其れはフィリル本人だ。
[ディビノス]はまだ喰わんと牙を向け、フィリルは押され気味だが、踏ん張っている。
フィリル『…ぐっ、腕力が足りない。このままじゃ手を喰われる。コイツだけ…コイツだけを燃やしたい。
』
フィリルが強く[ディビノス]のみを燃やしたいと思うと、左手から黒いモヤがうまれはじめた。
さらに、フィリルの魔力質が濃くなり、フィリルの中で何かが目覚める。
燃えろ。地獄の業火に焼かれ 我が糧となれ
フィリルの左手の黒いモヤが黒い炎に変わり、掴んでいた口から[ディビノス]の全身へと炎が広がる。
[ディビノス]は口を掴まれながら 低く地鳴りでもする様な断末魔をあげ、フィリルの手から逃れようと全身で抵抗するがフィリルは手を離さない。
燃えろ 消炭となれ
フィリルの思いに反応する様に、黒い炎は威力を増し、数分で[ディビノス]は跡形もなく燃え尽きていた。
フィリル「リシリー!大丈夫⁈ なんなんだよアイツ! あんなのが居るなら前もって言ってよ!死ぬかと思ったわ‼︎」
フィリルは息つく暇も無く、リシリーの居る右後ろに向きかえり、リシリーの安否と質問を問うた。
リシリー「 ‥……………………。」
フィリル「 ?? リシリー?」
先ほどまで一緒に走っていたリシリーが小さく、そして低い位置にいる。
そんなリシリーはというと、何度呼びかけてもポカーンとしていて反応がない。
そう距離はないが、一歩近づいてしゃがみながら呼んでみる。
フィリル「リシリーってばー。生きてる?」
が、しゃがむという動きで自身の変化に気付いた。
目に入る手足の色 形 大きさが、4歳になった人の子の形でないのだ。
フィリル「うっわ⁈ ナニコレ⁈ 僕どうなってんの!?」
フィリルが身体の変化に驚いて大声を出したところで、ようやくリシリーがハッと我に帰った様で
リシリー「! そ そそそ、そうだよ⁈どうなってんの!フィリル フィリルだよね⁈ 魔力が濃いけどフィリルの魔力だし…なんなのその姿?!」
リシリーはリシリーで混乱していたらしいが、フィリルを質問攻めにするにはお互い、フィリルの今の身体の変化に理解が追いついていない。
フィリルとリシリーはしばしの間、混乱が解けなかった。
リシリー「はーー。此処であたふたしてても意味無いし、ヌシのとこに戻ろう。ヌシならなにか分かるかも知れないしさ。」
先に冷静さを取り戻したのはリシリーだった。
フィリル「…うん。」
フィリルは人ならざる者となった己の姿にショックを受けていて、リシリーの言葉に従うしか思考できない。
拠点に歩きだしたリシリーを追って、足を一歩だした時
リシリー「あっ、それ!フィリルの食糧!持ってくの忘れちゃダメだよ?ボクが運ばなくても、今のフィリルなら運べるでしょ。」
その言葉にゆっくりと後ろを見る。
そこには、[ディビノス]に踏み潰された[ウルフェン]の死骸が有った。
どうやらあの炎は、本当に[ディビノス]しか燃やしておらず、あの時近くにあった植物や死骸、地面にさえ燃えた様子や焦げ跡さえ無かった。
[ディビノス]を燃やした炎は、いつも使っている火属性の炎魔法とは違っていた。そりれに、詠唱やこの魔法を使いたいと考えた訳でも無いのに発動した。
ぼやっと 黒い炎について疑問を浮かべながら、[ウルフェン]の死骸を担ぎ、リシリーの後をとぽとぽついて行った。