暗闇の中
俺『井本 麗華』は、
自殺 を選んだ
この田舎では有名な自殺の名所。海沿いにある断崖絶壁 崖の下は荒々しい岩肌があり、海は潮の流れが激しく、落ちた者はなかなか海上に上がらない。
田舎で有名とはいえ 自殺志願者には金の掛からない最適な場所。
俺は 飛び降り自殺をする事に決めた。
仕事はしていたが一週間前に辞めた。
所詮長く生きるつもりも無かった為、バイト程度にしていてよかった。人手にも困っていなかったためすぐに辞める事ができた。
家族…は 居た。 でも こんな俺をこの世に産んだ償いだと死後処理の担当ぐらいにしか思ってない。
父、母、兄、の家族。
子孫だなんだは、兄がいるから問題ないだろう。
30になったばかりの歳だけ大人な人間。
無駄にダラダラと生き、辛いなどと嘆くより 30という区切りで終わらせよう。
そう 決め行動した。
死ぬ当日
朝6時に起き、布団の上に居た。
何も食べず、飲まず、動かず。夜が来るまで己に呪いをかけながら待った。
『不細工でもいい、男として生まれ変わる。 不幸でもいい、俺として人間の人生をやり直す。』
こう唱え続けた。
夜が来て、田舎では人気の無くなる時間帯に目的の名所まで歩いて行った。
そして 家で唱え続けた文句を叫びながら
断崖絶壁の底へとこの身を投げた
ここまでが俺が覚えていた前世の記憶。
気がついたら 真っ暗な暗闇の中にいた。
飛び降りて、岩に顔面がぶつかった映像はあるが、
パッと周りが真っ暗になり、何も見えない状況になって
死んだんだよな?
一瞬の出来事すぎて この暗闇がよく分からない
長い間、ボーっとしていたと思う
自身が感じた体感時間では、長い間だ
だが、このままじゃ何も分からない。
とにかく行動してみた
手 の感覚がある 指 腕 の感覚
足 の感覚もある 曲がる 跳ねる 出来てる
歩いてみる 地面の感触は感じられ無いが、歩いている、前進している感覚はある
何もしないよりマシなので、歩いてみることにした。
暗闇…いや 瞼が開いているのかさえ分からないほど黒しか分からないが まず ただ歩いた。
歩いた 歩いた 歩いた ひたすら歩いた
何もない
何時間?何日?何ヶ月?
わからない
腹は減らないようだが、疲労感はあり、休み休みだが歩き続けた
何かに触れるかもしれないと、手を前に突き出して歩いたりもした だが
なにもない
黒 それ以外ない それ以外分からない
前進しているはずなのに 空気の流れも分からない
多少 不安になる
ふと、今動かしているカラダについて気になった
立ち止まり 手を胸に置いてみた
愕然とした
乳房がある
下は? 生殖器は?
確認しなければよかった
男の生殖器は無かった。
このカラダは女だった。
なんの為に死んだんだ⁈
死んでなお何故女のカラダなんだ⁈
自殺だから駄目なのか
あのまま心を殺して病死か事故死でもしなければ意味がなかったのか
死ねば肉体のしがらみから解放されるのでは無いのか
今ある"俺"は男なのに 何故⁈
虚無感と絶望感 この感情が同時に襲ってきた。
黒しか分からない空間で、ただボーっと突っ立ってる事しか出来なくなった。
妄想や物語のような 神様の声もない
不思議な空間にいるわけでもない
なにもない 黒い 何処に 俺独りしかいない
呪いをかけた意味も
死んだ意味も
ない
なにも
ない
消えたい