来訪者 二(に)
魔族の拠点、ラグナグーンは、王の誕生からある程度の落ち着きを取り戻していた。
王城 アスタリシア
城の一室、四柱斎の1人、アスラスの書斎の扉をノックもせず、息良いよく音をたてて開ける者がいた。
ルカイン「アスラス。じゃまするぜ。」
ルカインは部屋の主の了解も無しにズカズカと入り、部屋の主 アスラスの居る、机の前まで歩く。
ギリル「はぁ。ノックくらいはしろよ、礼儀がなって無いぞルカイン。」
ギリルは大きな溜息をつきながら、ルカインが開け広げた扉に軽くノックを7回いれ、一礼して入室する。
ルカイン「ギリルは固すぎんだよ、嫁がかわいそうだ。」
ルカインはギリルは軽く返す。
アスラス「ギリルの言う通りだな。他の四柱斎には、同じ事をするなよ。」
書斎で書類を片付けていたアスラスは、ルカインに言及する。
ルカイン「あーはいはい。分かってるっつーの。」
ルカインは面倒くさそうに答える。
アスラス「で?ルカイン、ギリル。何の用でコチラに?」
アスラスはルカインらが来た理由をたずねた。
ギリル「迷いの森での調査報告をさせていただく為です、アスラス様。」
ギリルはルカインの左隣まで来ると、一礼してから発言した。
アスラス「ああ。まだだったな。しかし、調査依頼はユーバッハがしたろ、何故私に?」
ルカイン「内容がお前にした方が良いと判断したからだ。」
ルカインの言葉にアスラスは顔をしかめる。
ルカイン「遅すぎた報告だが、王が目覚めてない状況も一応落ち着いたし、今が良いタイミングだろ。」
ギリル「迷いの森からの魔王様の不規則な魔力感知確認ですが、魔力の出所が分かりました。」
アスラス「ほう?」
アスラスは書類を確認する手を止め、ルカインとギリルを見る。
ルカイン「出所はガキだ。迷いの森に住んでるな。」
アスラス「迷いの森に住む?魔族の捨て子か何かか?」
ギリル「いえ、その…」
ルカイン「ガキは人間だ。それに魔王の目の色してて、"黒炎"を使いやがる。」
ルカインの言葉にアスラスは驚愕する。
アスラス「"黒炎"⁈ 其れはどういう…」
ルカイン「さぁな。使った本人も分からんらしぃし。」
ギリル「我々が帰城した際、王が御誕生されていて、目覚めてない状況。それに人の形と、今迄と違い異例であったので、わざと報告を遅らせました。」
ルカイン「あのガキには、ちっと恩があってな。」
アスラスは2人の報告を聞きながら少し俯き、考える。
ルカイン「あと、治癒魔法に似た黒い光を出す。俺らはアイツに危害を加えたくねぇ、どうするよ。」
ルカインはアスラスに問うた。
アスラス「…まず、四柱斎で話し合うべき案件だ。私が安易に決めることでは無い。」
アスラスはしばし考え、言う。だが、ルカインとギリルはそれを避けたかった。
ルカイン「待てよ!あのチビ自身も色々と理解出来てねぇー!」
アスラス「王 御誕生の今、その人間の子は放って置けない。四柱斎で話し合い、恐らく連れてくるよう話しが進むだろう。」
ギリル「我々はそれを避けたいのです。」
身を乗り出すように机に手を付き、ギリルが訴える。
ルカイン「ユーバッハの事だ、誕生した王から力を盗んだとかで、チビを殺すんだろ?」
ギリル「迷いの森のヌシがその子を保護しております。それではいけませんか?」
ギリルの言葉にアスラスが反応する。
アスラス「ヌシ様が?…あの方は魔王様の友であったと聞く。あの方が人間の子を保護…」
アスラスはまた考えだす。
ルカイン「魔王のことで、ヌシが黙っとく訳ねぇだろ?他の四柱斎に話す前に、お前の目で確認しねーか?」
ルカインはアスラスに提案する。
魔族にとって、魔王の復活は悲願であり、魔王に関係した事は、些細なことであれ最優先すべき事。
人間という、長きにわたる最悪な敵を撃ち、地上を魔族の手に奪還する為、魔王の力は必要不可欠で有るのはルカインとギリルにも理解している事。
だが、フィリルは人間の幼子にしては聡く理解が早く魔力を魔法を使いこなしている。
魔王の強力で禍々しい魔力を人間が手に入れたなら、魔族に未来はないが、魔王の魔力自体、人間が生まれながらに持てるモノでもない。
それにフィリルは魔族を嫌っておらず、自身の所為だとルカインの負った傷を治したのだ。
殺すには惜しい、もしかしたらフィリルが魔王の可能性もある。
げんに誕生した 王 は、目覚めておらず、魔力すら人間の魔法を使えない一般人程度しか感じられない。
異例が起こっている以上、フィリルを無下に扱いたくないと、ルカインとギリルは考えた。
アスラス、ルカイン、ギリルの間に長い沈黙が落ちる。
その沈黙を切ったのはアスラスだった。
アスラス「…迷いの森に確認しに行く、その子が持つに相応しく無いのであれば、城に連れて来る。そうで無いならば、その場で考える。これで良いか?」
ルカインとギリルはアスラスの言葉に少し安堵する。
ルカイン「ああ、構わねぇ。」
ギリル「我々もアスラス様に同行させて頂いてもよろしいでしょうか。」
アスラス「ああ、頼む。」
アスラスは迷いの森に行く日時を2人に伝え、2人を退席させた。
アスラス『魔王様がお二人…異常にも程があるな。』
アスラスは1人思う。
誕生した 王 からは、微量な魔力ながら、しかと魔王の魔力質を感じ取れたと報告があったのだ。
これは四柱斎のみが知る事であり、他の魔族は 王 を診た医療班の長 プリシラしか知らない。
魔王の魔力は、魔王封印後、迷いの森から漏れる微量の魔力から代々魔王の魔力を認知してきた。
魔力探知に正確なプリシラが間違える事はあり得ないという程、プリシラの魔力探知は正確。故にアスラスはその人間の子に危機感を感じつつ、魔王の友であったと聞き伝えられたヌシが、保護していることに興味を抱いた。
アスラス「魔王様の魔力を持ち、魔王様の魔法を使い、治癒魔法に似た黒い光を出す人間の子か…」
アスラスはボソッと、誰に言うまでもなく呟いた。
これから会う、人間の子を思い描いて…