2年間で
魔族、ルカインとギリルとの再会から2年が経ち、フィリルは6歳ほどになっていた。
迷いの森に居る魔物より強くなり、魔法や"黒炎"、黒い光の治癒も魔力を切らす事なく、上手く使える様になっていた。
外見の事については、ルカインらと会い、ヌシに叱られた後にすぐ確認した。
ヌシの魔法で、鏡代わりのミラージュを使って。
フィリルの姿は、醜いと呼ぶべき姿で、右の胸から上は黒く染まっており、皮膚はやはり鉄の様に光っていた。
顔は、右側が黒く、右目の上、額には角の様な大きめのものが生えていた。
髪は黒く、月明かりに照らされた所や毛先は薄っすら青が混じっている様だ。それがより顔の右半分と同化している様で醜くさを増していた。
フィリルはその姿を見てショックを受ける。醜くてもいいと思った、願った。しかし、それは人と呼ぶにはあまりにも醜く成り果てていたのだ。
落ち込むフィリルをヌシとリシリーが見、その姿の説明をする。
見つけた時は黒く変色しておらず、目覚めるまでの3年間で変色していったのだと言う。
魔力の濃い場所に、人間が長い間居ると、肉体に変化が出ると言うのだ。ある者は身体の一部が変形し、ある者は身体の一部が黒く変色する。
フィリルは変色の方で、額の角も魔力の濃い場所に居たせいとの事。
フィリルはまた自身の姿を見る。
よく見ると顔の形は整っている。目はオッドアイで、右目が黄色で、左目は赤紫色をしている。
確か、ルカインと言う魔族は、魔王の目の色と言っていた。ヌシに確認すると魔王もこの色のオッドアイらしい。
フィリルはまじまじと自身の顔を見た後、ヌシを見て言う。
フィリル「あの大きくなる変化魔法みたいに、人間の姿になる変化魔法って無いの?」
ヌシはあまり考える仕草もせず、答えた。
ヌシ「存在するが、難しいぞ? 変化魔法自体、上級の魔法だからな。」
フィリル「有るなら、難しくても覚えたい!」
フィリルは強く答え、ヌシはリシリーを見やり
ヌシ「リシリー、遺跡に無いか探してくれ。無い時はみんなで編み出そう。」
こうして、姿変化魔法を探し、遺跡からリシリーは見つけ、フィリルは8ヶ月で習得した。
人から離れた姿では、前世の記憶にある限り平穏に生きるのは難しい。恐らくこの世界でも同じであるとフィリルは考えた。 人の姿で暮らせるように、変化魔法を長時間使用出来るようになるまでは中々に大変だった。
フィリルの魔力量が多かったおかげで、人間の子供にしては早く習得し、半日維持するという、大人でも大変な魔法維持を可能とした。
ヌシはそんなフィリルを見て思う。
人間、それに子供にしては余りにも魔力が多い。その事が、人間や魔族にどんな脅威とならんとも知れない。恐らくフィリルはこの先、苦労や災難ばかりが襲ってくるだろう。
しかし 偶然か必然か、巡り会えた人の子ならば、幸せに平穏に生きてほしい。その為には厳しく、余計な世話をしてやろうと。
ヌシの友、魔王に目の色が似ているから優しくするのでは無い、1人でも生きようと足掻く捨てられた人の子に、ヌシは親心を抱いていた。
フィリルはこの2年間で様々なことを体験した。
迷いの森には密猟者の人間が頻繁にやってくる。目覚めてからの2年は、ただガムシャラに生きる為に必要なことを覚えたり、身につけたりと周りの動きを気にする暇が無かった。
リシリーが密猟者を自身の面倒を見る傍、片付けていた事を3年目にしてしる。
リシリーの手伝いを兼ねて、人間がどんなものか、迷いの森の全体を知る為、1年間リシリーに付いて周ったり、魔法の練習をし続けてきた。
密猟者は、ガラが悪いものばかりだ。
大抵4、5人で森に入って来て、迷いの森にしか無い薬草や、魔石、魔物の皮や角などを狩っていく。
野盗と人間には呼ばれていたりするらしく、中型の魔物の狩りは中々のものだった。
しかし、生態系を管理し、維持するヌシやリシリーにとっては迷惑でしかなく、排除しなければならない。
排除は、密猟者を殺す事。しかし、必ず1人は軽傷または中傷程度にし、逃すのだ。
逃げ延びた者の口伝えで、迷いの森がどんなに恐ろしいかを人間に思い知らせる為なんだとか。
それでも、金の為、力自慢の為に迷いの森に入って来る密猟者は多い。
コレを千年近く続いていると、ヌシは言う。
何時迄も愚か者は消えんな。
とヌシはボヤいた。
フィリルはリシリーの手伝い、つまり密猟者殺しをやっていたが最初は人を殺すのに抵抗があった。
前世では、簡単に人を殺せると軽く思っていたが、実際目の前の人を殺す、と言うのは自尊心か、理性かが働いて迷いが生まれる。
魔物は生きる為だと 殺せたのに、人の形をしているだけでこうなるのかと…
フィリルは自身の生きる為と、森を守る為と言い聞かせ、黒い化物の姿になり、密猟者を殺した。
魔物と余り変わりない感触と感覚。だが、その日はただ、後味の悪い1日となった。
それから2週間後にまた密猟者が来て、リシリーと共に殺したが、慣れたのか 意識の違いか、胸がモヤつく感覚は無い。が、殺した密猟者を愚かだと、馬鹿だと思った。
密猟なんてしなければ、死ぬ事は無かったのに
フィリルは彼らの遺体を中型の魔物の巣近くまで運び、遺体を処分した。
森で火はそうそう使えない、土葬よりも魔物の餌になった方がいいと、フィリルなりの埋葬をする様になった。
迷いの森には、密猟者以外に人間が来る事がある。
旅商人だったり、運搬屋だったり、旅人だったり…
彼らは迷いの森のルールに従って森を通過するだけ、もしルールを破れば密猟者とおんなじ運命を辿る事になる。
ルールとは、森に入る前の日に鐘を鳴らし、何名はいるか大声でいい、整備されている道のみ通る。
整備されていても、中型の魔物が出る事もあるので、商人などは、護衛などを連れて居たりする。
密猟者や商人達の格好は、前世の中世ヨーロッパ的な感じでなく、20世紀頃の革命時代っぽい格好が多い。
商人達はスーツの様な物を着て、密猟者や護衛はラフな洋服に胸や手足などに鎧の一部の様な装備をしている。
馬車で荷を運ぶのが主だが、たまに商人の中には魔物の様な獣が荷を引いているのが居たりした。
リシリーに聞くと、馬より速く、かなりの量を運べる、人間に慣らした魔獣だと言う。
魔獣は魔物と違い、人間を食わないが気性が荒く、魔力の濃い所に生きる様進化した大型の動物。
魔力の濃い所に長くい続けると変形したり、色が変わったり、大きくなったりする。
迷いの森のルールを破らない限り、害は与えない。
こうして、人間の様子を観察したり、森のルールを知ったりして、フィリルはヌシの次に迷いの森で強い存在となっていった。
そんな日々を送る折、いつもとは違う来訪者が来た。