これから
フィリルはヌシの元に戻る道中リシリーを質問攻めにした。
迷いの森の南や西の区切りとは何か。どんな魔物が居るのか、遺跡は何処にあるのか、魔王の封印のことなどを聴いた。
リシリーは、順番に応えていった。
まず、4つの区切りが有り、それぞれ南・北・西・東に分かれている。その区切りにそれぞれ大型の魔物が2種類居、10種類の中型、30種類の小型と、数が決まっており、今まで変動は無く、それぞれの種を保てて居るらしい。
それぞれの区切りには特徴があり、南は遺跡があり、比較的暖かく、[ディビノス]などの気性が荒い魔物が多い。
北には森唯一の大きな湖があり、魔力や死体から出る瘴気が濃く、[アリイーデ]という巨大なヘビの魔物が居て、爬虫類系の魔物が多い。毒が濃い場所が有り、危険だとリシリーは付け足す。
この南と北は、人間の国に隣接していて、たまに密猟者が来るんだとか。
西は、岩などが多く、植物は他の区切りより少ない。[ゲーベム]という巨大昆虫の魔物が居て、虫系統の魔物が多く、のんびり屋が多いが反応すると、過剰になるから危ないと。
東は北からの川があり、湿気が多い区切り。翼を持つ魔物が多く、[ベリシオラス]というイタチの様なムササビの良いな巨大な魔物が居る。こちらは海に面して居る為、海賊がたまに来るが、[シャナシーダ]という巨大で真っ白な翼と鷲の頭、鳥の前脚、胴体と後脚は馬で、鳥の尾の姿の魔物が縄張りを張っており、海賊はその餌になるらしい。
その中心にヌシが居り、森を管理している。
遺跡は南にしか無く、そこからフィリルの着ている布や、石板を持って来ていたと、リシリーは語る。
魔王の封印は2000年前、人間と魔族の戦争が、この森が有る場所で繰り広げられ、人間の 『巫女』 の命を使って、異空間の何処かに封印したと言う。
その戦争の後、ヌシが森を生み出し、今に至ると語られた。
そうやって話を聞いて居るうちに、夜は明け、朝日が上り、ヌシの居る拠点に着いていた。
リシリーはヌシに南であったことを話す。
ゾンビ化した[ビッグツィ]の捜索途中で、魔族と遭遇した事。
魔族と対峙しているなか、フィリルが現れ、魔族は魔王の魔力の調査をしに来ていたらしい事。
フィリルともに魔族を対峙していた中で、ゾンビ化した[ビッグツィ]が現れ、これと戦闘になった事。
[ビッグツィ]を倒せたが、その後、フィリルが戦闘で怪我をした魔族に、治癒を使用した事。
この治癒は、黒い光を放っていた事を伝えた。
ヌシは話を聞き、フィリルを咎めた。フィリルの行動は、リシリーを助ける為の行為であっても、不用意に魔族に"黒炎"を知られたのはまずい行為だ。
それに、魔力不足になったことも、一歩間違えば死んでいたかもしれない。
ヌシはフィリルに、己の力を慢心し無いこと、人として生きるのならば"黒炎"を無闇やたらに使用し無い事、己の限度を理解し、無理なことはし無い事を誓わせた。
それからヌシはフィリルに問う。
黒い光は本当に治癒の効果があり、魔法なのかと。フィリルは、あの感覚をヌシに覚えているかぎりで伝える。
"黒炎"を使用した感覚に似ているが、魔法かと問われると分からない。ただ、自分の魔力ではなく、あの場の魔力を使った様な、変な感覚であった事を
ヌシはそれを聞き、考えるが、思い当たる魔法が無い。 ヌシは2000年の時を生きている。人間の事にも、魔族の事にも詳しいが、分からなかった。
故に、その治癒魔法に似たものも、ヌシの縄張りでの練習は認めるが、"黒炎"同様。滅多に使わない様にフィリルに言及する。
それから、フィリルはヌシの所で、"黒炎"、黒い光の練習をした。黒い光は、フィリルが怪我をした時しか使えない。怪我などの負傷カ所が無いと発動せず、そして、フィリルの魔力では無く、フィリルの周りの草木から魔力を得て使用している事がわかった。
フィリルの魔力、魔法の成長もあり、今までリシリーがしていた、密猟者狩りも手伝う様になっていった。
一方 異空間 魔族の本拠地 『ラグナグーン』では
ルカイン、ギリルが迷いの森での報告の為、王城『アスタリシア』に来ていた。
ドタバタと城のなかは、騒がしく、2人は何ごとかと、玄関ホールにいた、近くの城付き召使に声を掛ける。
ギリル「おい。一体何事だ?」
声を掛けられた召使の魔族は、ギリル、ルカインに一礼をし、説明する。
召使「つい今し方『タマゴ』が孵ったんです!しかし、息はしているものの、泣かれなくて…。それに、真っ黒な人の型を成されているので、部屋の支度や医療班にかけあっている状況なんです。」
召使は 失礼します。 と言い、足早に兵士寮の方向に向かって行った。
ギリル、ルカインの2人は四柱斎の所、玉座広間まで急ぐ。
玉座広間
では、四柱斎の4人の魔族と、九組ある各兵士長が集まって、話し合いをしていた。
ルカイン「アスラス、王が生まれたって?黒い人の型っつーの聞いたが、どっちなん?」
ルカインは話し合いをしている魔族に向かって声を掛ける。
アスラスと呼ばれた、人の姿だが首や手に鱗があり、ドラゴンの様な翼と、馬の様な尾が生え、金色の髪の男性魔族は、ルカインに顔を向け、口を開く。
アスラス「戻ったか……。我々にもまだ判断出来ていない。医療長のプリシラに診てもらっている。」
ギリル「それで、今 王は医療室ですか?」
アスラス「いや、王の私室に移動させた。」
ルカイン「黒ってのは良いとして、人の型ってのがなぁ。」
???「伝承の魔王様は、人の姿にドラゴンの翼であるといいます。我らの悲願が叶ったのではないですか?」
ルカインの言葉に 額に角があり、クリーム色の長髪で、眼鏡をかけ、狐の耳と尾が有る人型の男性魔族が言う。
アスラス「ユーバッハ、彼は翼を持ってない。それに眠ったままが異常だ。」
アスラスが、先ほどの魔族に発言する。
ユーバッハと呼ばれた魔族は、アスラスの言葉に少し沈黙し、
ユーバッハ「確かに。魔力を感じられないのも問題ですし。」
と、呟く。
ギリル「魔力を感じない?本当ですか⁈」
ギリルは、ユーバッハの呟きに驚きを隠せない。
魔族は、魔法を使える位の魔力を、最低限でも持って生まれる。
魔族で有るのに、魔力がないのは異常であり、それが『タマゴ』から生まれた 王 ならば、余計に有り得ない事だった。
???「今、プリシラの診断待ちだ。そうせくな。」
赤いフードのロングコートを着た女性魔族が言う。
???「我々には、感じ取れなかっただけだ。アレから生まれたにしては、子供くらいの大きさしかなかったし、弱ってお出でやもしれん。」
続いて、角が付いた大柄の銀の鎧を着た男性魔族が言った。
玉座の前に有る魔王召喚の為の祭壇には、人間の成人男性が3人入れるほどの大きな『タマゴ』がある。その真ん中は上から下に裂けており、中の液が外に漏れ出ていた。
王は、コレから生まれるが、小さくても成人の魔族程の大きさは有る。
しかし今回は、人間の子供ほど。異常事態以外表現しようがなかった。
ルカインは内容を聴き、迷いの森での事はまだ言うべきでないと判断し、ギリルに目線を向ける。
ギリルも同様に考えていた様で、軽く頷き四柱斎と兵士長らに言う。
ギリル「俺たちはこれで失礼する。森の調査の件は落ち着き次第報告致します。」
ユーバッハ「分かりました。もし、急ぎでしたら構わず言って下さい。」
2人は広間を後にした。
城を出て、周りに誰もいない事を確認し、ルカインが呟く。
ルカイン「王が生まれたってのもだが、色々異常事態すぎんだろ。」
ギリル「今、あの子の事を言えば、殺されるのが想像つく。」
ルカイン「ああ。強くなれっつったし、いっときは言えねぇなぁ。」
ギリル「報告するなら、アスラス様か?」
ルカイン「アイツしか穏便に事、運べねぇーだろ。」
ギリル「承知した。あの子は無下に扱いたくない。」
ルカイン「ヤッサシー!氷血のギリルが珍しい。」
ギリル「茶化すな。[ビッグツィ]の件の恩が有る。アンタもあの雷鳴のルカインが人間と約束するとはな。」
ルカイン「ッ!あ、アレはあのチビに利用価値があっかもって、森で死なれちゃ困んだろーが!!」
ギリル「クックク。ヌシに守られているから、死にはしないと思うがな。」
ルカインとギリルはフィリルを気にかけ、ラグナグーンの街中に消えていった。