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5 墓標

 ウサギを探してウロウロしていると変なものを見つけた。

 いや、見たことはあるが……。そこにあったのは墓だ。


 人工物など何もない草原にぽつんと墓がある。日本風の墓。よくよく見たらただの四角い石なのだが。横に看板も立てられている。そっちには文字が書いてあった。


「ゾンビの墓」


 ゾンビの墓? いや、ゾンビが死ぬものか。何の冗談だ。


「狼化」

 蹴り飛ばしてやると墓石は横に転がった。罰当たりも何もない。ゾンビを埋めるほうが罰当たりだ。本当にゾンビが埋まっているのならば俺には用事がある。


 しばらく見ていると何かが地面の中にいるように土が蠢きだし、地面の上に人の手がでてきた。


「ふふふふ、はーはっはっはっはっは。俺は運が良い!」

 何故地面に埋まっていたのかはわからないが、こんなところでゾンビに出会えるとは実についている。アンデッド種族最弱のゾンビといえども文句は言わない。アンデッド種族に出会えたのが奇跡だ。


「あたたた、酷い目にあいましたよ……うぇ!」

 後々あの奇声の訳を聞くと満月をバックに狼男が高笑いをしていて非常に怖かったとのことだ。



「どうも、初めまして。私の名前はシトミです。助けてくれてありがとうございました。シトミちゃんって呼んでね」

 シトミと名乗るその少女……と言っても俺より少し背が高い。170cmはあるのではないだろうか。もっさりとした灰色のショートカット。目はキラキラとしていてゾンビにしては元気がよい。



「俺はダイチだ。何で埋められてたんだ?」

「いやぁ……実は……」


 聞けばこのゲームの権利は商店街の500円くじで当選してしまったのだという。最初は売る気だったんだけど、弟にすごい羨ましがられてつい初めてしまったんだと。そして何となく選んだ種族がゾンビ。チュートリアルでパーティーを組むのがいいって言われたからパーティーを組もうとしたが、全く組んでくれる人を見つけることはできなかったという。


「そりゃ、ゾンビは人気ない種族だからな。ゾンビ選ぶぐらいならもっと良い種族がある」

「でも埋めるのってひどくないですか?」

「はいはい。じゃあ、俺とパーティーを組むのはどうだ?」

「簡単に流さないでくださいよー……え?」

 なんかこいつさっきから驚いてばっかりだな。


「いやいやいや、自分で人気ないとか、もっと良い種族があるって言ったばかりじゃないですか!」

「いや、俺は死霊魔術師なんだ。他の大多数には必要はないかもしれないが、俺にはお前が必要だ」

 ふいに雲が月にかかり、あたりが真っ暗になった。ふと彼女の目を見ると赤く光っており、思わず後ずさりした。これが人型モンスターってやつか。


「良いですよ」

 雲が晴れた時にはさっきまでの気迫はなかった。にっこりと笑った顔が可愛い。


「笑うと可愛いな。ではステータスを送ってもらおう。俺のも送る」

「か、か、か、可愛い!?」

 俺はアバターを褒めただけなんだが、この調子だと不安になるな。



 名前:シトミ

 種族:ゾンビ レベル1

 職業:肉壁 レベル1

 恩寵:月神の加護

 体力 :80

 筋力 :70

 耐久力:70

 魔力 :27

 精神力:9

 敏捷 :36

 器用 :27


スキル

【日光耐性Lv.1】【頑丈Lv.1】【熱感知Lv.1】【瘴気Lv.1】【威圧Lv.1】【自己回復】【限界突破】 

アクションスキル

[自爆]


 ゾンビが10ポイントで肉壁が30ポイント。そして残りの70ポイントを全てスキルに使ったのか……?


「これどうやって決めたんだ?」

「ゾンビが良いですーって言ったらオススメなのを教えてくれて、それを選んだ」


 まずはゾンビは弱いという認識を共有しておこう。ステータスを見ればわかると思うが、魔力と精神力が極めて低い。そしてボスは大抵魔法を使ってくる。ここでもうわかるだろう。いかに優秀な体力、耐久力を持っていても魔法相手には一瞬で溶ける。そして魔法を避けようにも敏捷も低いという体たらく。もちろんゾンビにも良いところはあり、種族特性として【自己再生】と【死霊】を備えているので非常に死ににくいというのがある。ちょっとの傷なら簡単に自己再生で治り、死霊によって全体的な物理攻撃への耐性を備えている。盾職に向いていると言いたいが、魔法で溶けるので向いてはいない。


 どうしてもゾンビを使いたいなら軽戦士になり、魔法を避けながら戦うというものがオススメされていたのが記憶にある。ゾンビという時点で期待していなかったが、職業が肉壁とは……。


 肉壁についても説明しておこう。ネタ職でキャラメイク時には就けない隠し職業でもあったと思うのだが、アプデで選べるようになったのだろう。ステータスの一部を下げる代わりにHPを3倍まで跳ね上げるという職業だ。しかし肉壁の名の通り、鎧も盾も装備不可能なデメリットがあり重戦士の方が盾役としては安定する。何より魔法に役割が持てない。挑発系のスキルも習得できない。破格の補正だといえるが、結局重戦士の方が安定していて強い。

 防御貫通攻撃をしてくる相手には強いが、そんな敵なんて数えるほどしかいない。そもそも防御貫通攻撃って大体魔法だからゾンビじゃどっちにしろ死んでしまう。


 ちなみにシトミのHPが843。俺の狼時のHPが363だ。魔法に晒されたら一瞬で溶けるという欠点はあるが、今の状況じゃ有利に進むだろう。


 次にスキルだ。

 日光耐性はゾンビ必須スキルだから問題ない。頑丈は部位欠損がされにくくなり各種物理攻撃への耐性が上がり、熱感知は熱源を感知することのできるスキル。威圧は自分よりレベルの低い相手のステータスを下げる効果がある。

 自爆を習得しているのは中々に良い。というか職業が肉壁で自爆持ちってかなりの高火力がだせるのではないかと思う。自爆は残っているHPが多ければ多いほど火力がでるアクションスキル。もちろん死んでしまい、ペナルティーもあるが侮れない火力が出る。良いことを思いついたが、後で考えよう。


 限界突破は聞いたことがある。MPが10%を切った時に派手なエフェクトと共に様々なスキルの効果が現れ、筋力と魔力と敏捷が上がる。派手なエフェクトの割に補正値がしょぼい。まあ、ネタスキルだ。ステータス補正スキルの方が無条件で補正が高い。


 自己回復は種族特性の自己再生のしょぼいバージョンだ。過剰だとは思うが、無駄ではないだろう。



 俺が最も注目したところは恩寵にある月神の加護だ。これがアップデート後に追加された新要素。俺もしっかり見たのだが、どこに隠されていたのだろうか。いや、これはおまかせにしたから現れた要素か?

 月神の加護……恩寵専用スレまで立ってるな。


 王都の神殿で得ることのできる新要素……見る限りここで取っておく必要はなさそうだ。称号とは違い、誰でも得られるらしいし、俺が王都にたどり着くまでに情報も出揃うだろう。


「この月神の加護って何ポイントだ?」

「さ、30ポイントだけど……」

 職業と同じか。これはゾンビだからこそ取得できたのだろうな。月神の加護がどういったものかはわからないが、様々なことを考えると彼女は非常に強い可能性もあるな。いや、死霊魔法などという今まで不遇と言われ続けていて、今のところ何か修正がされている様子が見えない死霊魔法に比べるとずっとマシだ。

 魔法を使う相手がいない序盤では特に。


「ねえねえ、私どう?」

 急に何を言っているんだろう。


「どうとは……うん。よくできているな。赤い目に銀色の髪。ショートカットがよく似合っている。吸血鬼感もあるが体についた土とボロい服でゾンビらしさがでている。笑った時に見える八重歯というのもよく考えられているな。非常に可愛らしい。胸が大きいのが戦闘には邪魔だが、なくせというのも無粋だろう……ん?」

 気づいたらシトミはさっきまで自分が入っていた穴に逆さまに突き刺さっていた。

 なんだこいつ。



 ネット開いたついでに瘴気について調べてみると接触した相手を瘴気状態にしてダメージを与え続けるスキルなようだ。毒などの状態異常よりも弱いらしいが、接触だけでよいというのは手軽だ。防御力が高い相手へのダメージソースになるだろう。



 うん。予想以上の戦力になりそうだ。

 俺は運が良い。



 しかしこいつは一体何なのだろう。アバターを褒めた……もしやこいつVR慣れしていないのか?

 確か商店街で手に入れたとか言ってたし、そうかもしれない。可愛いですね、カッコいいですねが飛び交うVR世界の人物ではなく褒められ慣れしていないのだろう。しかし早く慣れさせた方が良いだろう。言われるのが面倒ならそんな凝ったアバターではなく、俺のような地味アバターにすればいいんだ。

 そのアバターを使っているのならば可愛いと言われるのは避けられないこと。


 シトミを穴から引っこ抜くとジタバタ暴れている。

「あわあわわわわ、穴に隠れさせてくださいー」

「落ち着け。俺は可愛いものを見て、可愛いと言っているだけで他意はない。お前は可愛いんだから諦めろ」

 顔を真っ赤にしている。これは矯正に時間がかかりそうだ。


 俺が手の力を緩めた瞬間、また穴の中に顔を隠した。


「ど、どうしてそんな……」

 どうしても何もないだろう。

「お前が可愛いからに決まってるからだろう。可愛いという発言に理由を求めるのか?」

「ああー!!」

 前途多難と言ったところか。



 落ち着くまでしばらく待っていたが、穴から顔を引っこ抜いてもすごいソワソワしている。

 こちらをチラチラ見て顔を赤らめては顔を覆い隠して悶絶している。このままではプレイングにも支障がでるだろう。人間関係というものは近づきすぎてもダメ、離れすぎてもダメなものだ。

 パーティーでやっていける程度に熱を冷ましてやらなければいけないが、やりすぎるとパーティー解散という自体になってしまう。それは避けたい。



 ここで勘違いしないで欲しいのだが、俺は女子からモテたくないわけじゃない。もちろんモテたい。女の子にチヤホヤされたいという感情は当たり前にある。


 攻略可能キャラ12人、様々なヒロイン達が貴方の前に現れるどきどき♡学園生活、貴方は誰を選ぶ? といった謳い文句のエロゲーでハーレムエンドを経験したことがある。ちなみに俺はツンデレ系小悪魔後輩のみりあちゃんが大好きだ。このゲームが発売される前はみりあちゃんルートをひたすら繰りかえしていた。


 悲しいことだが、可愛いなとは思ってもそれ以上の存在がいるのだ。いわゆる俺には嫁がいるってやつだ。確かにシトミは可愛い。可愛いがそれはあくまでもアバター的な可愛さであって、みりあちゃんには敵わないということだ。



 しかしこんなことを言ってドン引きされてパーティー解散などとなったら目も当てられない。よし、ビジネスライクに行こう。元からそういうつもりだったし。


「確かに可愛いが、それでどうなるというわけでもない。さて、まずは少しレベル上げがてらウサギと戦ってみよう。ほら、行くぞ」

ありがとうございました。楽しかったです。

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