3 ボス戦
それにしてもウサギがこんなに弱いだなんてな。狼化して棒で2、3回殴るだけで戦闘が終わる。苦戦する要素がどこにもない。この調子ならこの草原の主にも挑めるかもしれない。
この草原のボスは巨大ウサギだ。草原の地下に巣を構えており、多くのウサギを操って襲ってくる。草原のウサギは群れることはないが、巨大ウサギの下ではある程度統率された動きをとる。初心者の登竜門と呼ばれているボスだ。
対集団戦をいかにしてこなすかというわけだ。
無視をして先に進んでもよいのだが、ウサギ一体一体がこの程度ならば速攻戦術でボスを狩れないこともないのではないかと思う。素材も売れば金稼ぎにもなる。
大量のウサギが出て来ることから、パーティーで攻略するのがセオリーと言われているがソロで倒せないわけでもないという。そのソロでの倒し方の典型例は高火力の魔法でボスごt焼き払うか、速攻戦術のどちらかだ。
人狼のステータスの補正値なら狩れる。
《チュートリアルクエスト『野に出てウサギを5匹狩ろう』を達成しました。報酬:500G》
《種族レベルが上がりました。ステータスを振り分けてください》
《職業レベルが上がりました。スキルポイントを1獲得しました》
《【キープアンデッド】を習得しました》
《【死霊魔法】がレベルアップしました》
《【魔法装】がレベルアップしました》
《【直感】がレベルアップしました》
《【精神力強化】がレベルアップしました》
名前:ダイチ
種族:人狼 Lv.5
職業:死霊術師 Lv.5
体力 :50
筋力 :50
耐久力:40
魔力 :50
精神力:55(+18)(+30)
敏捷 :50
器用 :60
スキル
【死霊魔法Lv.3】【魔法装Lv.3】【直感Lv.2】【精神力強化Lv.3】【キープアンデッドLv.1】
アクションスキル
[狼化][魔法装][クリエイトアンデッド]
レベルが5になるまで無心でウサギを狩る作業。相手の突進の勢いを上手く利用して首の骨を折ってやるとクリティカルがでる。威嚇中に距離を取るとその距離を詰めるために確定で突進攻撃をしてくる。これさえ覚えておけばただのカモだ。ウサギだけどな。
ボス戦では混戦になるだろうから、こんな風にカウンターは狙えないだろうから何か方法を考えなければいかない。死霊魔法の魔法装は試してみたが、ウサギが弱すぎて確認できなかった。殴ったら一発で死んでしまうのは変わらないし、わざわざ苦戦をするのは癪だ。もう少し先に行ってから確認すればいい。
草原のボスの巣穴がある場所は小高い丘になっている。この丘の周りにはウサギはいないようだ。そしてプレイヤーもいない。どこに巣穴への入り口があるのかとぐるりと丘の周りを歩いていると、穴を見つけた。そしてその穴のすぐ上にはタバコを吸っている剣士がいた。
すぐ横には日本刀が置かれている。鎧などは身につけておらず、革ジャンにジーンズと軽装だ。髪はボサボサで無精髭のオプションつき。こんなアウトローな人間を気取っている奴にロクなのはいないだろう。こんなところで一体何をしているのか。
「よぉ、ニュービー。ここのボスに挑むんならパーティーがオススメだぜ」
間違いなく変人だ。新人のことをニュービーと呼ぶやつが現実に存在していたことが驚きだ。
その男がタバコを放り投げると小さな火の玉がそれを空中でキャッチし、燃やし尽くした。鬼火だ。人間に見えるが、正体はキツネだろう。種族の一つで幻影魔法を得意とする。これがわかっている俺がかかることはないだろうが、警戒はしておこう。
しかし無視をして不興を買うのは俺の本意ではない。
「余計なお世話だ」
俺の言葉にその男はフッと笑う。
「良いねぇ。自信のあるやつは嫌いじゃないぜ」
種族がキツネで、刀を持っていて、アウトロー気取りと変人なのはわかるが、厄介な人間ではないようだ。
ボス戦前にキープアンデッドの効果を試してみるか。職業レベルが5になって習得できたスキルだ。説明によると死骸が勝手に消滅しなくなるというが。
アイテムストレージからウサギの死骸をだしてクリエイトアンデッドを発動させる。
アンデッドを作る時のMP消費は何も変わっていないが、大きな負担だった維持するために使っていたMP消費はなくなっている。これは大きい。これならば2体以上のアンデッドを作り出すことも可能となるだろう。
「死霊魔法とキープアンデッド。2つでようやく実戦で運用するにたる効果だな。死霊魔術師レベル5でキープアンデッドをわざわざ習得させるぐらいなら、元から維持するためのMPいらなかったんじゃないか?」
あの維持するために必要なMPは必要だったのだろうか。ただでさえ立場が弱くて使いづらいとされてるんだから、なくしても良さそうなのに。もしや運営の中では死霊魔法は強魔法扱いされているのか?
ポイント消費20ポイントだしなぁ。その可能性はある。
「珍しいな、ネクロマンサーか。ソロなわけだ」
人の職業に好き勝手なこと言ってくれるな。暇人なのか。
「あんたは一体ここで何をしてるんだ」
「ん? ああ、警備さ」
警備?
「低レベルプレイヤーが大量に入ってくると快楽目的での殺人も増える。特にボスを倒して消耗している、達成感に満ち溢れたいる新規組を狙っての犯行が増えるってボスが言っててさ。金もらって、ここで突っ立ってるってわけよ」
PKというやつか。確かに抵抗できない相手を一方的に攻撃したいと思うようなプレイヤーもいるだろう。悪趣味極まりないな。
「ま、PKも運営から禁じられてるわけじゃないしな。何をやるにしても自由ってわけだ」
俺もそんなプレイヤーがいることを念頭において活動しなきゃいけないな。
「お前、一番乗りだぜ。ここにこんな早くくるやつはいないから、もっと後の時間からでも良いってボスに言ったんだが、俺が間違ってたわけだ。……ネクロマンサーならソロでもクリアできるかもな。頑張れよ」
「ああ、ありがとう」
俺が1番乗りか。ここで初めて新規プレイヤーとしてソロでボスを撃破し、名前を残すのもよいな。さぞかし目立つだろう。
俺は時間をかけ、ウサギゾンビを15匹作り出した。ここで気づいたのだが、前に一度ゾンビにしたウサギはゾンビにできないということだ。どうやら死骸は使い捨て。ゾンビ状態で死亡するともう一度ゾンビとして使うことはできない。第二の生は謳歌できるが、三回目は無理だということか。
強力な死骸を手に入れても使い捨てとは厳しいな。いつ、どの死骸を使うかということが重要になるだろう。今はウサギしかいないので考える必要はないだろうが。
俺が考えるべきなのは高い戦闘力を持つ良質な死骸の量産方法だろう。
「お前らは雑魚どもの足止めをしろ。俺はボスをやる」
ここのボスが強いのは数で押してくるからだ。だからパーティーでの戦闘が推奨されている。ボス本体はそこまでの強さではないとも言われているのは俺は知っている。
雑魚を全て無視をして狼化し、タイマンで殴り倒し。それが作戦だ。雑魚の一部がゾンビどもと戦ってくれればさらに良い。こちらには15匹もいる。楽勝とは言わないが、この勝負勝てるだろう。
「いってらっしゃーい」
警備のキツネ男に見送られて、俺はウサギの穴を降りていった。綺麗に踏み固められたトンネルを降りていくと、天井の割れ目から光が射している広間にでた。少々薄暗いが、戦闘に支障はないだろう。
『チッチッチッチッチッチ』
奥に見える穴から2メートルほどの大きさのウサギが現れた。
「出たか」
その巨大ウサギが鳴きながら足で地面を叩くと広間の周りにある小さな穴からウサギ達がゾロゾロと現れた。しかし数はそこまで多くはない。俺が狙うのはボスだけ。速攻で片をつける!
「行くぞ、ゾンビども!」
俺のボスとしての力とお前のボスとしての力、どちらが強いか。オオカミを相手にしたウサギがどうなるのかを思い知らせてやろう。
ありがとうございました。