2 死霊魔法
空にはGOD WORLD ONLINEと書かれており、風と共に消えていった。深呼吸をすると気持ちの良い潮風が肺に満ちてくるのが感じられる。ワクワクしてきた。ここが魔法が満ちた神の世界。
「よし!」
《ようこそダイチ様。チュートリアルを開始します》
このダイチという名前は俺の本名だ。わざわざ他の名前をつけることを俺はしない。俺が佐藤太郎とか小島佑介とかいう名前ならば流石に他の名前を考えるが、ダイチだ。カタカナでも違和感はない。
キャラメイクを担当してくれたのはエルフの女性。ここでキャラメイクをどんな種族が担当するかはランダムらしいが、俺は特にアドバイスを貰わなかったので話すのはここが初めてだ。
「よろしく頼む」
まだ始まるまでは少し時間がある。チュートリアルを終わらせる時間もあるだろう。チュートリアルで言われることなど既に把握しているが、アイテムと初期武器がもらえるのでやっておいて損はない。
《メニューを開いて武器を装備しましょう》
指示されるままチュートリアルをこなしていく。
一応チュートリアルの内容を記しておくと、装備の仕方、アイテムの使い方、ステータスの読み方、そして簡単な戦闘で終わりだ。
ステータスの読み方ぐらい簡単に解説しておこうか。俺も完璧に把握しているわけではないし。
体力値はそのまま、スタミナやHPに関係する数値。これが少ないと簡単に息切れしたりする。激しい戦闘をするなら必須の項目。筋力値も同じようなものだが、こちらは継続戦闘よりも瞬間的な力強さに影響を与える。もちろんこれを上げてもHPやスタミナは上がる。
耐久値。筋力値よりもHPの伸びは良いが。スタミナは伸びない。物理的な攻撃、魔法敵な攻撃の両方の耐性に大きく影響する。
魔力は筋力の魔法攻撃バージョン。こちらはMPが少し伸びる。
精神力は魔法攻撃、精神攻撃への耐性。そしてMPが大きく伸びる。スタミナも精神力で少し伸びる。
敏捷値。足の速さに関係する。これはそれだけだ。敏捷値ばっかり上げても脳が追いつけなければ意味がないが、ある程度はあったほうが便利なステータスだ。
そして最後が器用値。細かな動作に補正が入る。生産職ならこれを上げれば良いのだが、戦闘職はいらないというわけではない。盾で相手の攻撃をはじいたり、遠距離攻撃を当てたりするのに使う。
《では、いってらっしゃい》
目の前に白い扉が現れる。サービス開始。一刻も早く俺は上に行く。先行プレイ組に追いつけるように。
俺は扉の中の光の中に歩んでいった。そして光が収まるとそこは人で賑わう広場だった。
《始まりの町 ノルセア》
インフォメーションが流れていった。
そうか、ここがプレイヤーの町、ノルセアか!
テンションが上がってくる。多くのプレイヤーがここを拠点として、プレイヤーの店がたくさんある。今も発展を続けているプレイヤーの創り上げた町だ。突然の鐘の音に上を見上げると大きな時計台が広場の中心にあり、俺と同じような新規プレイヤーが次々と光の中から現れている。
「すっげー」
様々な種族の初期装備衣装のプレイヤーがいる中、きっちりとした鎧や洋服を着ているのは先行プレイヤーだろう。ギルドの勧誘か。まずはあそこに追いつくのが目標だ。獣人ばかりのギルドに赤い鎧に身を包んだドワーフの集団。勧誘をしていない先行プレイヤーもいる。アンドロイドの少女を肩に乗せている樹人の男などはかなり目立っているが、どこ吹く風といった様子で人混みで何かを探している。
《[クリエイトアンデッド]を習得しました》
《チュートリアルクエスト『野にでてウサギを5匹狩ろう』報酬:500G》
《チュートリアルクエスト『パーティーを組もう』報酬:1000G》
チュートリアルクエストか。さっきチュートリアルを済ませたのに親切だな。
パーティーを組んで戦うことを推奨するのはわかるが、今はまだその必要性は感じない。ソロプレイをしている人だっているのだから、パーティー前提の難易度だとしても攻略はできないわけではないはずだ。
さっさとレベルを上げて追いつかなければ。
人の群れに流されるまま、町の外に出るとそこはどこまでも広がる草原だった。地平線の先までずっと緑色。天気は晴れだが、陽射しは強いわけではなく風が心地よい。
そしてプレイヤーの数も多い。生えている草を採取している人、魔法の試し打ちをしている人、さっそくウサギと戦っている人もいる。不気味なのが何もしていない先行プレイヤー達。プレイヤーズギルドの人がスカウト狙いで見ているのだろうか。
死霊魔術師をお情けでいれてくれるようなギルドに所属するつもりはない。入るならば死霊術師の価値を認めてくれるギルドでなければ。
この草原に生息するウサギは低レベルのプレイヤーにとっては脅威になる。動きに素早く慣れるまでに時間がかかる……と言われているがしょせん初心者が慣れるためのフィールドだ。俺の敵ではない。
自分より下のレベルのプレイヤーに積極的に襲い掛かってくるという仕様であるこのウサギ。万全を期すのならばウサギに襲いかかられなくなるまでレベルを上げると良いという。
ウサギを狩るにしてもプレイヤーが多すぎてどうしようもない。襲いかかってくるウサギもいない。このまま北の街道方面へ向かうか。街道に近づくにつれウサギのレベルが上がるというが、どうとでもなるだろう。
と、町から離れるように移動をしているとさっそくウサギに遭遇した。肉食のせいなのか、ギザギザの犬歯をむき出しにしてこちらを威嚇している。それ以外は普通の可愛らしい野うさぎそのものなのだが、歯のせいで台無しだ。可愛くない。
「食物連鎖って知ってっか?」
先程、クリエイトアンデッドという呪文を覚えたものの、狩りには役立たないだろう。どう考えても攻撃魔法じゃない。さて、この哀れなウサギ相手にオオカミに喧嘩を売るとどうなるのか思い知らせてやろう。
「狼化」
鏡がないので俺がどんな姿になっているのかはわからない。だが、腕はどんどん太くなり鋭い爪が生えてきている。体の奥底から力がみなぎっている。鼻は伸びていき、オオカミのような毛が生えてきた。
二本足のオオカミのようになっているのではないだろうか。体が一回り大きくなったので洋服がパツパツになっている。装備を作る時にこのことも考えなければな。
「さて、ステータスは?」
名前:ダイチ
種族:人狼
職業:死霊術師
体力 :90
筋力 :120
耐久力:80
魔力 :120
精神力:50(+3)
敏捷 :150
器用 :50
器用値が下がるのか。それにしても時間が限定されているとはいえ凄まじい上昇量だな。序盤人気なわけがよくわかる。このステータスでなら苦労することはないだろう。
「ほら、こいよ」
威嚇モーションが終わり、こちらに突進してくるのにカウンターを狙う。俺が手に持っているのはチュートリアルで手に入れた木の棒だ。
「せやぁ!」
俺の振った棒は正確にウサギの頭に当たり、ウサギは吹っ飛んでいった。
吹っ飛んでいった先に駆け寄り、棒を何回か振り下ろすとウサギは動かなくなった。楽勝だな。やはりウサギなどオオカミに狩られるだけの存在。しょせん俺の敵ではない。
「狼化が解けないうちに……[クリエイトアンデッド]」
首の骨が折れているが、無事にゾンビが作れた。クリエイトアンデッドにもMPを消費するのだが、維持するのにもMPを消費する。このMP消費が意外と大きい。みるみるうちにMPが減っていく。アンデッドを操っている最中に他の魔法を使うのは厳しいだろう。
「ちょうど良いところに獲物が。ほら、ウサギゾンビ。戦ってこい」
《種族レベルが上がりました。ステータスを振り分けてください》
《職業レベルが上がりました。スキルポイントを1取得しました》
《【死霊魔法】がレベルアップしました》
《【精神力強化】がレベルアップしました》
名前:ダイチ
種族:人狼 Lv.2
職業:死霊術師 Lv.2
体力 :50
筋力 :50
耐久力:40
魔力 :50
精神力:50(+6)(+5)
敏捷 :50
器用 :60
スキル
【死霊魔法Lv.2】【魔法装Lv.1】【直感Lv.1】【精神力強化Lv.2】
アクションスキル
[狼化][魔法装][クリエイトアンデッド]
スキルポイント:1
種族レベルが上がることで1レベルにつきステータスを5割り振れる。とりあえずは精神力を上げ続けよう。MP確保が最優先だ。そして職業レベルが上がることでスキルポイントというものが得られる。これは最初のチュートリアルで使用したポイントと同じだ。取得可能条件を満たし、なおかつスキルポイントがたまっているとそのスキルを取得できる。
ウサギゾンビvs.ウサギの戦いだが、普通にウサギゾンビが負けてしまったので俺がトドメを刺した。俺の初めてのゾンビはあっけなく散ってしまった。生前よりも能力が落ちるようだ。
俺のMPも枯渇気味だ。
「死霊魔法使いづらっ」
今の感想といえばこの一言だけだ。HPが尽きてボロボロになった元ゾンビは黒ずんだ死骸となっている。これでウサギ1匹狩れないとは、ため息がでそうになるが抑える。
いやいや、まだクリエイトアンデッドしか取得していないんだから、と自分をなだめる。
Wikiを少し確認するとレベル5になって取得できるスキルでようやく使い物になるのだという。
ウサギの死骸2つをアイテムストレージに保管しておく。どちらも最低ランクのEだ。元からEなのか、ゾンビとの血みどろの戦いで品質が落ちたのか。毛皮もボロボロだし後者の可能性が高そうだ。
「死霊魔法、頑張ろう」
ありがとうございました。