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0.その青年の最後

 (うら)らかな日差しが照らす、日曜日の公園。

初春という時期と言うこともあり、沿道に植えられた桜が満開となり、どこも人で溢れていた。

家族で遊びに来た人、友人たちと花見に来た人。ここへ来た理由は様々だった。

その中の一人に、小さなカメラを抱えた青年がいた。

彼は時折立ち止まり、春風に心地良さそうに揺れる花や桜を撮っていた。

しばらくして、青年は満足したのか、カメラを覗き混みながら、ゆっくりと公園を通り抜けて行った。

公園を抜けた先には、やや広めの歩道を挟み大通りがある。

しかし、この大通りは珍しい事に、その道の広さには似合わず、横断歩道もなく、信号もなかった。

渡ろうとした青年は右から向かってくる大型トラックに気が付き、縁石の前でぴたりと止まった。

この道の通行量自体はそこまで多くないものの、間違えても大通り、当然注意して然るべきなのだが。

青年の後ろから駆け出してきた少女にとっては、そんなことは意識の外だったらしい。大型トラックが向かってくる大通りへ、なんの躊躇ためらいもなく飛び出したのだった。

  幼い頃からそうだった(・・・・・)ように、青年は考えるよりも早く、無意識に少女を突き飛ばしていた。

彼自身がどうなるかも考えずに――――――――。



 さっきまでの平和な空気は消え去り、青ざめた人々が大通りに集まっていた。

少女を突き飛ばし、トラックとの正面衝突を回避させた青年だったが、()()()()はそれを回避する方法を持っていなかった。

トラックに撥ねられ、アスファルトに打ち付けられた彼からは、血が止めどなく溢れており、素人目でも助からないと容易に判断できた。

我に返った、その中の一人が、慌てて青年に近寄ったが、彼はすでに事切れていた。



---



 今度は流石に厳しかったか――――――。

突き飛ばした少女がスローモーションのように前に倒れ込むのを見てそう考える。

アスファルトへ力一杯突き飛ばしてしまったことに、少なからずとも罪悪感はあるけれども、こうでもしなければ少女は絶対に助からなかっただろう。

ゆっくりと近づいてきたトラックが脇腹にめり込んだ。

激痛が走る間もなく、自分の視界は宙を舞っていた。


 ”俺はもう助からないんだな”

おそらく人生最後に感じたであろうことはとてもシンプルで。

”自分の命を守れない奴に他人の命など守れない”

昔どこかで聞いたような、聞かなかったような、そんなフレーズが頭の中をぐるぐると回っていた。

最後に見た景色は、吸い込まれそうな青空に、春風に乗ってきたであろう桜の花びらが奇麗なコントラストを描いていた。

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