第49話 祝福を
フィリア神殿遺跡の作戦が決行される少し前。
フルング二ルたちがリトートピアへと向かい他の騎士団隊員たちはルガルクロに残された。
その日は雨だった。
「団長たち、もう着いたのかな?」
「ん、さあな、、なあユーシア」
「ん?どうしたスザク」
「明日は勤務休みなんだっけお前?」
「ああ、休暇をもらってね」
「お前が休暇とか、珍しいのな。いっつも真面目に働いてますって感じなのに」
「そういうお前はもう少しやる気見せろって」
「はいはい、同僚にまで説教なんかくらいたくねーっての、で、明日何があんだよ?」
「ああ、ええと、」
「ん?」
「結婚式だよ。姉さんの」
「お、エレナさん結婚すんのか」
「そ、だから休み」
「なるほどな、相手は?どんな奴?」
「それがなんと貴族」
「おお、貴族様どうしか」
「僕の家は貴族って言っても小さなものだけどね」
「相手、性格悪い貴族の輩じゃないだろうな?」
「違うっての、ふつうに優しくていい人だよ」
「まあエレナさんが選んだならそうか」
「そう、姉さんが好きになった人なんだから、信じてるよ」
「じゃあエレナさんにおめでとうって伝えといてくれ」
「うん、ありがとう」
そう言ってユーシアは帰宅した。
「はあ、姉さんが結婚かぁ」
姉の結婚を心から喜ばしく思った。
だが、それと同時にどことなくさみしさのようなものを感じていた。
ずっと一緒に育ってきた姉が、遠い存在になってしまうようだった。
そう感じている自分が馬鹿らしく思え笑った。
「子どもみたいだな、僕」
そうして自宅にたどり着いた。ユーシアの家はスザクが言っていたように小さな貴族の家系であった。そこそこ綺麗で大きい庭と邸宅。騎士であれば貴族という身分の者も決して少なくはなかった。
「ただいま」
「おかえり、ユーシア」
「姉さん。まだ起きてたの?明日式なんだから、早く寝ないと」
「分かってるって、お前を待っててやったんだよ。この家でお前の帰りを迎えることももうないだろうからね」
エレナは少し感慨深そうに言って笑った。
ユーシアもつられて笑う。
「あ、姉さん。スザクが結婚おめでとうって」
「おお、スザクか。ありがとって言っといてよ」
エレナはソファに腰かけた。
「ユーシアもスザクも、小さい時からずーっと一緒に遊んでたからね」
「うん、なつかしいね」
ユーシアは立ったまま答えた。
「結局、2人とも王国騎士団に入って、今は隊長だっていうんだから、すごいわほんとに」
「あの時はそんなこと考えてもなかったからね」
「お前は、私の最高の弟だよ。ユーシア」
「恥ずかしいからいいよそんなの」
「いいや、お前は王国を、このルガルクロを守る騎士の隊長にまでなったんだ。本当に誇りだよ。私のね」
「もう、」
ユーシアは自分の瞼が熱くなっていくのが分かった。
「そんで、私たち家族を、私を、守ってくれて、ありがとね」
「いいって」
「昔は泣いてばっかりだったのに」
「な、!それは本当にいいって!」
「はは、まぁ、明日からは、私を守ってくれる人がいるからさ。安心してよね」
「うん、わかってるよ」
ユーシアは微笑んだ。これ以上は我慢できそうになかったので部屋を出る。
「姉さん、」
ユーシアは振り向かないで言った。
「結婚、おめでとう」
「うん」
翌日。
「ユーシア様ッ!!」
「どうしたの?サーシャ」
家に仕える家政婦のサーシャがユーシアの部屋に飛び込んできた。
「エレナ様が!!!」
「…え、?」
エレナは式場に向かう途中で強盗に襲われ、金品を奪われた。
ひどい暴行を受け、とくに顔をひどく損傷した。
その日行われる予定だった結婚式は中止となり、相手方からもエレナの容態を見て結婚をなかったことにするよう申し立てがあった。
「姉さん!!姉さんッッ!!!」
病院に駆け込んだユーシア。
治療中でありひどい怪我ををしていたエレナとはすぐに会うことができなかった。
「姉さん。姉さん……」
その日も雨だった。
夜を越し、ようやく治療を終えたエレナはなんとか一命をとりとめた。
「姉さん」
「……ユーシア、」
「ぐ、、姉さん」
「ユーシア、、私、」
「……」
「結婚、駄目になっちゃった…」
「……」
「顔も、こんな、こんなに、」
エレナの顔は、治療が終わった後も包帯なんかがぐるぐると巻かれほとんど確認はできなかった。
しかしその酷さは直接表情を確認するまでもなかった。
「私、幸せになれなかった、」
声も酷かった。絞り出すような、まるで覇気のない声。
「……」
表情は分からない。しかし姉は泣いていた。
「ごめんね、」
「………………ッッ!!!!」
姉の、何がいけなかったのだろうか?
姉はなぜこんな目に合わなければならなかったのか?
姉はどうして幸せを奪われたのか?
何故?
何に?
姉は謝ることがあるというのか?
「ぐッッ!!!」
許せなかった。
最も幸せになってほしかった人だった。
幸せを心から願っていた。
その人から幸せを奪った者を、
ユーシアは病院を飛び出した。
「空白を統べる閃光」
ある男が全身を貫かれ死亡していたのが発見された。
顔の損傷が激しく身元が分からないままとなった。
後日、とある貴族の若い男が心臓を一突きにされ死亡しているのが確認された。
「何故、姉さんを捨てたんだ?」
「ち、ちがう。ちがうんだ。私はエレナを愛して、」
「黙れ、」
「ひぃ、、」
「あの人は、幸せになることをのぞんでいたのに、」
「っひぃ、」
「貴様が、」
「あ、あ、、あんな顔になった女と、け、結婚できるわけがっぁぁあぁぁぁあああああああ!!!」
「姉さん、ごめん」
フルング二ルたちがルガルクロに戻った日の朝、ユーシアは自ら騎士団に出頭し、罪を認めた。
彼は拘束された後何も話さなかった。
ただ時折、うわ言のように何かを呟いていた。
「姉さん、ごめん」




