第39話 過ぎる何か
目を覚ました。
目を覚ましたが、まず気を失ったのだと気づかされた。
- 何が起きた…?
「う…」
まだ痛みが完全に消えてはいない。
頭に焦げ付いたように不快感を伴って残り続ける。
「気がついたか?マモルくん」
マモルがベッドで横になっておりそのすぐ傍にオシドがいた。
「もう身体は大丈夫か?」
「はかせか、ああ、まだ頭痛ぇけど大丈夫だ」
「ふぅ、ならよかった。急に倒れたからな、何が起こったのか分からなかったよ」
「ああ、迷惑かけたな」
「そんなことはいいんだ、それより…一体何があった?」
オシドはマモルに迫るように尋ねる。
「俺にもよく分からないけど、いや、その前に、」
「なんだ?」
「リザは?どこにいる?」
「リザなら向こうの部屋で寝ているよ。夜明け前まではここにいたんだが、さすがにな。私1人で大丈夫だからと行かせたよ」
- もう、朝、いや昼を過ぎてるな。かなり寝てたわけだ
「そうか。…なぁはかせ、それで、」
マモルは記憶をたどっていくように語り出す。
「妖精が別の誰かに姿を変えたりって、するのか?」
それは、マモルが見たリザのことだった。フードのような布切れで顔が隠れてはいたがマモルははっきりとその表情を捉えていた。
そしてその直後、あの頭痛が起こったのだ。
「…結論から言えば、それは可能なことではある」
オシドはそう答えた。
「可能なことではある、って、じゃあ普段そんなことしたりはしないってことだな」
「ああ、まずないな。言ってしまえば、外見を変えることは魔法でも出来るわけだ。妖精族に限った話じゃあない」
「じゃあ、それを使うときってのは?」
「そんなもの、ないに等しい。悪戯くらいじゃあないのか?なぜそんなことを聞く?」
オシドはマモルの真意が理解できない。
「見たんだ。絶対にそいつじゃないけど、間違いなくそいつだったて奴を」
「なに?それは誰だった?」
「…リザだ」
「リザ?誰かがリザの姿をしていたって言うのか?」
「たぶんな」
「一体何が狙いで誰がそんなこと…」
どうやらオシドにも思い当たる節はないらしい。
姿を変えることができる点よりも、何が狙いかという点が重要になるのだ。範囲は広大からさらに広がる。
ただ、マモルには、マモルが見たリザの姿をした誰かが、自分以外の誰かを装っていたようには見えなかった。あれはまやかしでもなく1人の人物。
目 がそれを物語っていた。
そしてマモルはそれを、既に2回見ているのだ。
もはや自分自身の目を疑う選択肢は消え去っている。
「このこと、リザには」
「黙っておいた方がいいだろう。何事も無ければそれでいいが、もし何かあるならそれはあまりよろしくない事態になりかねない」
リザが忌み子であることをオシドは言っているのであろうか。
マモルにはそこまでわからない。
だが、頭痛とも何かしらの関係があり、そしてそれはオシドが言うように決してよくないものであると確信した。
「はかせ、少し外を歩いてきてもいいか?」
「まだ休んでいた方がいいんじゃないのか?」
「平気だよ。ほら、気分転換も兼ねてだから」
「平気なら、まぁ私は構わんが」
「はいよ。助かるぜ」
「気をつけるんだぞ」
「分かってる。子どもじゃああるめーし」
そう言い残してマモルは扉に手をかけ部屋を出ていった。
部屋には難しい顔をしたオシドがただ1人。彼はマモルがいなくなったベッドに腰を下ろした。
「…君は、変わってないな」
オシドは誰にともなく、1人になった部屋でそう呟いたのだった。
- そういや、まだこの国来てまともに出歩いてなかったけな
午後の日差しが少しだけやわらかだ。
つまりもうしばらくで夕方になってしまう時間帯だ。
森道を歩き中央街へ向かう進路を行く。
時々、反対方向からこちらに向かって歩いてくる者もいたがみなやはり妖精族なのだろう。
普通の人間であるマモルとは人種の違いのようなものを感じる。
「珍しいな。おまえさんは他所から来たのかね?」
突然声をかけてきたのはすれ違った年老いた女性。
その容姿から断定できるようなものは見られないがおそらくは妖精族であろう。
「ああ、そうだよ」
マモルは足を止めて答えた。
「見ない顔だったしそんな気がしたんだよ」
老婆はそう言うとマモルとの距離をさらにつめてくる。
- なんだ…?この人
「何か、お困りかな?」
「え、どうしてそんな」
- 今ならあんたにだけどな
「なんとなくよ、年寄りの勘」
「…は、はぁ」
胡散臭いというか何というか、突然だったのもありマモルは老婆を不審に思っていた。
「わたしはね、一応この辺りをまとめあげている者なんだよ。この国のことなら大概は分かっているつもりだ。何かあれば聞くよ」
「…別の誰かに姿を変える。それができて、それをやる理由があって、それをやる目的がある奴っているか?」
「…うーむ」
老婆は考え込むように黙る。
自分でも変なことを聞いたと思った。
しかし頑張ってもそのくらいしか言いようがないのだ。
それに話を持ちかけてきたのは老婆の方であり、その老婆が分からないと言うのであればこの立ち話は自然と打ち止めとなる流れになる。
「変なこと聞いてすみま…」
「それは間違いなく知らない誰かが知っている誰かの姿をしている。ということでいいのかな?」
マモルが断りを入れようとした時、それを遮るように老婆はそう言った。
そしてそれはマモルをはっとさせた。
マモルは、リザの姿をした少女が間違いなくリザではないのに関わらず誰かが姿を変えているとは最初から考えたことがなかった。
あのリザはあのリザとして、そこにいたように思えたのだ。ありえないことと分かっていながら。
老婆はその気持ちを悟ったのだろうか?
「妖精族にも、姿を変えることができるのは確かにいるが、かと言ってそういう存在とは別物と言うのであればそれはきっと、」
老婆は答える。
「“ヌシ”か何かだったりしてなぁ」
そこには笑顔があった。
その笑顔には特別な意味が込められているわけでもなければ、老婆が全てを知っている神のような存在でマモルを弄び嘲るわけでもなかった。
だがそれは、マモルに 何かよくないもの を感じさせた。
ただの思い過ごし と言われてしまえばそれまでだ。
「……っ!!」
マモルは遺跡へと駆け出した。




