第38話 影の貌
- これが、神殿か
マモルは眼前の壮大な建造物に目を奪われ息を呑む。
フィリア神殿。妖精郷リトートピアの象徴とも言える。
「ガイル、マーフ、ノーマン、スプリガン、リリフ、フェアリー、ミスキラ、アルート、8属の妖精たち全てが刻まれる場所だ」
オシドが妖精の名を羅列し、神殿の説明をする。
3人はそのままさらに奥へと進んだ。
「わぁ、これ懐かしい」
リザが興奮して駆け寄った。
それは大きな扉だった。扉には取手のようなものはなく、8個の球形の紋様が円を描くようにそれぞれ美しく刻まれている。
円の中心には二対になって彫られている人型の存在。肩に八翼を生やしたその姿からは神々しさが感じられた。
マモルはその二対の人型が恐らく妖精王オベロン、妖精姫ティターニアを示しているのだと悟った。
彼らは向かい合うように描かれている。そしてその間。扉の真の中心には、眼 であろうか?
だ円形の瞳のような円が小さく、しかし存在感を放って君臨している。
縦に一本入っている亀裂。それが扉であると分かるものであった。
見た限り、扉が開くような様子はない。
厚く、重々しく神殿の奥に君臨する扉は、扉でありながら開くことが許さないように思われた。
そこから先は人智を超えている。神聖な存在以外の干渉を一切受け付けない。といった類の空気感。
「はかせ、これって扉だよな?開くのか?」
ようやく口を開いたマモルがオシドに尋ねた。
「もちろん、これは扉だ。このフィリア神殿の遺跡に繋がると言われている。今までに開かれたことすらないんだ」
開かずの扉。正に目の前の扉はそれだった。
「この先は一体…?」
「さぁな。遺跡があるというのはそういった文献が見つかっているからであり、今までにこの扉を開こうと試みた者は何人もいたし何度も試されたが、結局はこの通りだ」
つまり、この扉は未だかつてその内に潜める何かを明かしていないということ。
妖精郷はその全貌が見えていないのだった。
「…いこう。ずっと眺めていても仕方のないものだ」
オシドがそう言って、興奮していたリザも、興味深そうに見つめていたマモルも扉に背を向け神殿を後にする。
元来た道を3人は再び引き返す。
中央街を歩いていると、マモルは人混みを見つめその中に妖精族と思われる人々が何人もいることに気がついた。
そもそも、人々 としていいのかすら微妙なところであるのだが。
「……っ!!」
流れ行く人混みの中に、マモルは一瞬その姿を目撃した。
フードらしき布切れを被っていたが、
昼間に見たのと同様、
リザらしき姿。
慌ててすぐ傍を歩くリザを見つめるが当然そこにはリザがいる。
- なら今のは…!?
もう一度、マモルは人混みを見つめる。
しかし、そこにさっき見たはずのリザらしき人物の姿はない。
「マモル、どうかしたの?」
リザがマモルの挙動を不自然に思い、そう問いかける。
「…くっ!」
マモルは人混みの中へと急いでかけ割って入っていく。
- あれが誰なのか、突き止めないと、
昼間に一度、そしてついさっきもう一度、1日の間に計二度マモルはその人物を見たのだ。
「ちょっと、マモル!?」
リザの声も聞かずにマモルはさらに人混みをかけ割って進み続ける。
そのまま、人混みを抜けた先に布切れを被った存在を見つけた。
- あいつだ、!
急いでマモルはその人物に向かって走り、追いついて肩に手をかけた。
「おい、ちょっとあんた、悪いけどこっち…
そう言いかけて、振り返ってこちらを見た人物の顔をはっきりと見つめ、マモルは言葉を失う。
「……」
その人物はマモルを見つめたまま一言も何も喋らない。
「…おま、え…」
マモルはその人物に対し、否、目の前の状況に対し、こう口にした。
「…リザ?なのか、?」
それは間違いなくリザだった。
さっきまでマモルのすぐ傍を歩き、言葉を交わしていたリザとは間違いなく別人だが、間違いなくそれはリザだった。
「……っっ、ぁっ!」
突然、激しい頭痛がマモルを襲う。
立っていることすらままならず、思わずマモルはその場に倒れ込む。
「…っぁぁっっ…痛ってぇ…んだよこれ…」
痛みが、意識を阻害する。
目の前にいた人物を、リザを見失わぬようにと顔を前に向けるが、ひどい頭痛でそれどころではない。
今のマモルには目が見えてもそれを視認できるほどの正常な精神状態を失っていた。
「…ぁぁっ、あっっ!!」
- 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い
激痛が、凄まじい嘔吐感が、マモルを支配していた。
「大丈夫!?マモル!?」
「おいマモルくん!!大丈夫か?!」
リザとオシドが道に倒れ込むマモルに駆け寄る。
「…っあっっ…あっ」
マモルは応答しない。
「これはまずいな。急いで彼を運ぼう」
「え、……」
「……な…だ」
「……て………!!」
「………」
マモルの意識は次第に遠のいていく。
騒ぐ声も、聞こえない。
- …ああ
そのまま、マモルは気を失った。




