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シルバーオーヴと異世界最果ての楽園  作者: 露天浮録
【第2章】眠れる妖精郷 篇
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第36話 サカガミ


「異能力学者のオシド=クレウスだ」


「え、オシド…?」


- あれ、この名前、どこかで…?いや、でもまさか、この世界に来てからは初対面のはずだ。顔も名前もたった今知ったばかりだぞ


オシドと名乗った学者。マモルはどうにも彼を知っているような気がした。名前をどこかで聞いていたのか。顔を写真か何かで見たことがあるのか。それは定かではなかったがマモルの中でどうしても引っかかっている。


「…何か?マモルくん?」


「あ、いえ。何でもないです」


気のせい、とも思えなかったがそう思う他はなかった。


「大丈夫?マモルさっきからちょっと変だよ?」


「大丈夫だよ。少し疲れたみたいだ。慣れてない土地だしな」


マモルはそれらしい理由でリザへ返答する。


「長旅で疲れているだろう。この家は私以外には誰も住んでいないから部屋は余っている。好きに使うといい」


「そうね、それがいいわ」


オシドの気遣いに甘えることにしたマモルとリザ。


「但しおまえたち二人の寝室は別々だからな」


「「変なこと考えてんじゃねーよ!!」」


二人が再度シンクロした。今日だけで既に何度起こっただろうか。

オシドの、愛孫のような存在であるリザに対する親心がマモルに楔となって科せられる。


- むっちゃ警戒されてんな。俺絶対歓迎されてないだろ


ゲリラの如く唐突に訪れた馬鹿げたやり取りによってマモルはさっきまで抱いていた自身の気持ちを既に忘れていた。





ガチャリと木製の扉を開けて中へと入る。

中はベッドと1人用の机、椅子があるだけの質素な部屋だった。


- まぁ、寝るくらいだし何も不満なんてねーけどな


マモルはベッドに頭から飛び込んだ。

粗末だが整えられたシーツが顔を歪めるようにくしゃっと崩れる。

迎え入れてくれたそれらによってマモルはそのまま脱力。疲れがどっと現れ動く気をなくした。


- そーいや、もうけっこう経ったよな


現在、マモルがルガルクロに来てからおよそ三ヶ月が経とうとしていた。マモルは森のリザの家を拠点にルガルクロの地図が頭でなんとなくできていた。


最東端に位置する大国、ルガルクロから南へ。

その先の峡谷を超えたところにある小国の一つが此処、リトートピアであった。

言ってしまえば田舎である。国という括りではあるもののその規模は大国であるルガルクロと比べてしまえば一目瞭然であった。


- ああ、なんだかなぁ…


マモルはなんとも言えない少し感傷的な感覚を得る。

既に陽が暮れかけており夕刻に近づいている時間であるというのもあったがとくに意味もなくセンチメンタルになってみるのだった。

若干の眠気がマモルのもとへとやってきた。

自然と重くなる目蓋に抗うことなく受け入れてしまう。

マモルはそのまま眠りに落ちた。






- なんだか騒がしいな。かなり多くの人がいるみてぇだな。


なんとも言えない懐かしさを感じる。


「よぉ!」


自分を呼ぶ声。

マモルは顔を上げた。


- え、学校、か、?


教室。マモルは机に突っ伏していた。

そこはマモルがほとんど通っていなかった高等学校だった。


- なんでこんなところに?


教室にはひとクラス分であろう人数の生徒。

座っている者もいれば席を離れ他と談話する者もいた。

ごく普通の高校の教室。


「なぁマモル、聞いてんのかよ?」


「え」


先程のマモルを呼んだ声。


「大丈夫か?寝ぼけてんじゃねーぞ」


「ああ」


「久しぶりにきたと思ったら寝てやがるからな」


「久しぶり?なにが?」


「何って学校に決まってんだろ!?ここ最近、ずっと来てなかったろうが!」


- …そうだ。俺は、


マモルは、俗に言う 不登校 の状態、に陥りかけていた。


「ったく…。何があったかも、何してたのかも知らねぇけど、学校は来いよな」


「ああ、そうだな」


曖昧に返事を返すマモル。

状況の理解はできても事態の理解はできていなかった。


「どうせ、学校来てなかった間だって壁か何か殴ってただけだろ」


「壁って、まぁな」


「そんなに好きなのかよ?」


「いや、別にそういうわけじゃ」


「はぁ?なんだそれ」


彼は笑って答えた。


「嫌いじゃないからな」


「そうかよ。それもう好きってことでいーんじゃねーの?」


「好きってのとは、なんか違うんだよな」


「まぁなんでもいいけどな」


彼はもうあきらめたと言った様子で机から腰を上げた。


「まぁどんな理由にしてもよ、おまえがずっとボクシング続けてくれんのは俺にとってもうれしいことなわけだから。これからも続けろよな」


「ああ」


「ってか止めんな。死ぬまで」


「そうだといいな」


「ったく他人事みたいに…あの人の代わりになりてぇんだろ?」


「…代わりになろうだなんて考えてねーよ」


あの人 というのは、あの人 だ。


「ハクリュウ。おまえが地下のチャンピオンになる前にずっとチャンピオンやってたって男。

俺はこんなだからボクシングなんてできねぇけど、おまえは現に今のチャンピオンなんだからよ」


「…それ、他のやつに言うなよ?絶対」


「いわねぇっての。とにかく、俺はおまえに期待してんだよ」



ハクリュウの代わりに…。考えたことがあっただろうか?

地下のチャンピオン。絶対強者のハクリュウ。いつからか彼は突然地下の世界から姿を消し、ハクリュウがいなくなった後にマモルは新たなチャンピオンとなった。

彼が地下から消えてから、マモルはその王座を他の誰かに譲ったことはなかった。

密かに、自覚は無くともマモルはハクリュウに対して尊敬、憧れといった類の感情を抱いていたのかもしれない。




目を開けた。

何秒か遅れて意識がついてきた。

体も目を醒ます。

リトートピア、学者のオシドの家の部屋である。

全てが夢だったとマモルは悟った。


夢に現れた少年。マモルが通っていた学校で唯一共通の話題を持ち、話をしていた人物。



マモルは自分だけが居る狭い部屋で静かに呟いた。





「まさかおまえを夢に見るなんてな。サカガミ」


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