第30話 神の国の王
路地を出た先、そこにはルガルクロの王城あった。
「王城…騎士団本部じゃないのか?」
「久々だね。マモルにとっては」
「ああ、けど王城までこんなに早く、」
「だから言ったっしょ?裏ルートって。さ、入るよ」
ガイアロックから出所したとき以来だ。
と言っても、ガイアロックにはそもそも出所が無いわけなのだが。
大きな階段を上がる。
- ここで、か
マモルが初めて訪れ、そして全ての始まりだった騎士の殺害事件が起こった現場でもあった。
- もう、4カ月くらいは経つのか
時間が流れるのははやいものだとマモルは感じる。しかし騎士が目の前で転がり落ちていった光景を、マモルは忘れてはいない。
思わず瞳を閉じ、手を合わせた。
アガリオもそれに気づきはしたが止めようとはしない。亡くなった騎士を想い、供養するのを止める理由はない。アガリオはそういう青年であった。
やがてマモルは目を開け、合わせた手を崩した。
向き直って言った。
「行こう」
アガリオも頷いて再び大階段を登りはじめる。
なかなかの距離がある階段を登りきって王城の門前へとたどり着いた。
アガリオが門番に話をつけ、門が開かれた。
二人は中へと入る。
壮大な大広間。さすが、城というだけのスケールを誇る建築物である。何本もの太い柱や芸術品と思われる作品の数々とオブジェ。中央階段までもすこし距離がある。
二人は大広間を行き、中央階段を登る。
登りきったところでさらに階段。それも登り、二人はとある一室を目指した。
- 階段多すぎるだろこの城
マモルはそんなことを考える。
アガリオはそれを察してか共感するような素振り。
言いたいことは分かるよという顔だ。
やがてアガリオはある部屋の前で足を止めた。
そこは見るからに周囲にある他の数々の部屋よりも別格な存在感を放っていた。
「ここだ。着いたよ」
声からアガリオの緊張感が伝わってくる。
そういう空気だ。というのが分かる。
「俺はここまでだ。あとはマモルがこの中に入るんだよ」
マモルはいまいち事態を把握できなかったが、言われたとおりにしてみることにし、頷く。
扉に手をかけ、開く。
扉は音を立てて開かれ、マモルは中へと踏み込んだ。
中では、騎士団団長フルングニルが玉座の前で跪いていた。その玉座には年老いた男がどっしりと構えて座っている。
男は口を開いた。
「君が、リクドウ マモルくん。だな?」
「あ、はい」
マモルは男の質問に頷いて答えた。
「フルングニルくん」
「はい、承知しました」
跪いていたフルングニルは立ち上がり、マモルの方を向いて言った。
「マモル、こちらの方はこの王都ルガルクロの国王であられるお方だ」
「ルガルクロの、国王」
「我が名はアズール = ストゥルグルフ」
年老いた男は国王、アズールと名乗った。
「君にはまず礼を言わなければなるまいな」
国王はそう言ってマモルに頭を下げる。
その礼には凄まじい感謝の念が込められていた。
「この国を、救ってくれてありがとう」
マモルも思わず頭を下げる。
アズールは微笑みながら頭をあげた。
「礼儀正しい男だ」
「いえ、そんなことは」
「いやいや、いいんだ謙遜は。君には尽くしても尽くしきれないほどの借りができてしまった。君の活躍がこの国を救ったと言っても過言ではないよ」
「俺本当に何も知らないものでして、、リヴァイアサンとか、天災級の生物がどうとか、」
「そうか、君は確か別の世界から来たということだったな」
おそらくは騎士団の団長、今は王の傍らにいる男、フルングニルが話したのだろう。アズールは話を続ける。
「尋ねたいことがあれば、我が知っているだけのことを答えよう」
- ようやく、元の世界を知ってるやつに巡り会えたかもしれない
そう思った。
国の王ともあろう人物であれば、マモルのいた世界のことを知っていても不思議ではない。
ただ、その別世界の存在というのが公にされているかどうか。
もしも、この世界の上位に君臨するたった数人だけが共有している国家機密ほどの情報、といった類であれば自身の身の安全も保障できかねない。
しかしマモルは本人自身そこまでの自覚はなくとも、ルガルクロ王国を救ったという功績をあげている。
恩人とまで言われた自分になら、話してくれるかもしれないという見込みがあった。
マモルはそう考えていた。
「俺のいた世界のことを知ってますか?」
アズールは玉座に腰掛けたまま答える。
「君のいた世界、かどうかは分からないが、異世界が存在する。という話を聞いたことがある」
- 異世界の存在は、確かなものじゃないってことか
「俺がいたのは日本という国です。それに聞き覚えは?」
「にほん……。すまない、それは聞いたことがないな」
「そうですか。なら、異世界に行く手段はありますか?」
アズールは腰掛けていた玉座から立ち上がった。
そして答える。
「ない。…とも、言いきれない」
- ってことは、
「あるんですか?帰る方法が」
「私自身、異世界に行った経験があるわけではない。そもそも異世界など存在そのものが不確かだ。どうすればいけるというものでもない」
一度口ごもる。
「マモルくん、君は “ 楽園 ” を知っているかな?」
「楽園…」
- 前に商人のおっちゃんがそんなこと言ってたような
「“楽園” は、人智を超越した世界。神の住む場所と言われている。だがこの話事体はおとぎ話のようなものだ。所詮は空想の産物に過ぎないと、皆がそう思っているよ」
「その楽園が、どうかしたんですか?」
「近年、楽園があると主張する派閥が現れ始めた。今は本気でそう信じている者も少なくない。私もそうだ。歴史には不可解な点が多い。その真相に、我らが認知していない超常の何かがあるに違いない。なら神がいて、楽園が実在することに何の不思議があるのだ?」
「楽園が実在するかもしれないってことですか?」
「ああ。我はそう考えている。そして、楽園の存在を認めるというのは異世界の存在を認めるのと同義だ。楽園への進出を試みる者も出てきておる。真偽は分からないが楽園に限りなく近いところまで踏み入ったという話も聞いたことがある」
- ってことはつまり、楽園に行く方法があるなら…
「……別の世界に行く方法もあるかもしれない」
「そういうことだ」
アズールは再び玉座に腰掛けた。




