第28話 優しい人
地面は泥と雨水が混濁し、ぬかるんでいる。
ぐちゃ、ぐちゃ、と地を踏みしめる。
「ぁぁ、あ、…」
- …行かなきゃ
「ぁぁ…」
- …行かなきゃ
「ぁあ…」
- 行かないと
「ああ、ぁあ…」
- 俺が、行かないと、
マモルは、ようやく足を止めた。
「…マモル、」
「…リザ…」
マモルはその場に倒れた。
「え…マモル!マモル!」
「……」
「うそ…、しっかりして!ねぇ、マモル!!」
「…」
「マモル!マモル!!起きてって!!!」
「 、」
「マモルッ!!」
「…ここは、?」
気持ちのいい場所だ。花畑がどこまでも続いている。
どこか、見覚えのある場所だった。
「ああ、そっか。ここに来たんだったな、」
懐かしい。とても懐かしい。
遠い昔の記憶だろうか?
暖かい
ああ、いつだったかな、最後にここに来たのは
このまま、ここにいてもよいのだけど、
そうもいかないか
あぁ、そっか
そうだった
思い出した
ここにはもう来れないんだった
だってもう
さよなら、
さよなら。
「…あぁ」
うすらと目を開ける。
「マモル…、マモル!!!」
目覚めると、そこにはリザがいた。
「…え、リザ?」
「そうよ!マモルッ!!」
「一体、何が起き、て…」
「覚えて、ないの、?」
「え、いや、あ……
周りを見るとたくさんの木々。見慣れた光景だった。
- あぁ、そうだ。俺、さっきまであのデカい蛇の化け物と戦って…
「大丈夫、?怪我もひどいみたいだし、」
「あぁ、大丈夫だ。まだ痛むけど…」
「よかった…本当に…。…ごめんね、私のせいで、」
「…え、?…」
「私のせいで、マモルをこんな目に…、」
- ああ、そうだ。俺は、この子を助けるために…、
マモルは全てを思い出した。
マモルは起き上がる。そしてリザを見つめた。
「…リザ」
「マモル…、?」
「リザ、よく聞け」
リザは黙って頷いた。
「おまえは、勘違いしてるよ」
「勘違い、?」
「ああ。おまえは、自分で自分を忌み子だと、厄災を呼び、周りを不幸にする存在だと、そう言ってたよな」
「そう、だよ。今回だって、私はマモルを巻き込んだ」
「違うよ。俺は、おまえと出会って不幸になんかなってない」
「…え、。?」
「この世界に来て、初めて声をかけてくれたのがリザだ。監獄にいた俺を、無実だと証言して助けてくれたのがリザだ。家も食いぶちも金も、何もない俺に全部くれたのがリザだ。」
「……」
「俺はおまえに救われたんだ」
「…そんな、そんなの…」
「信じられねーか?」
「そうだよ、だって、だって私が、人を不幸にして人に嫌われて恐れられて、蔑まれてきた私が…」
「そんなの関係ねぇよ。俺は不幸になんてならなかった」
「今回だって、巻き込んで、こんなに辛い思いさせて、いっぱい傷つけた…」
「でも、最後には俺が倒しただろ。厄災も大したことねーのな」
「違うよ…」
「違わねーよ」
リザも勢いよく立ち上がる。
「私は、生きてちゃいけないの、生きてることが駄目なんだよ!生きたいと思うことが罪なんだよっ!!」
リザは涙を流していた。
「おまえが明日を生きようとするのを、誰が罪に出来る?」
マモルはリザはを見つめなおす。
「…リザ。厄災なんてのはな、俺が何回だってぶっ潰してやる」
「…なんで、」
「おまえが一人で抱え込んで悩んでるなら、俺もいっしょにそれ思いっきり抱きしめて悩みまくってやる」
「…なんでよ、」
「おまえが願うなら、俺はおまえを助けてやる」
「なんでそんなに…優しくしてくれるの、?」
「俺がおまえに生きてほしいからだ」
「……え、?」
「俺は、自分がなんで生きてんのか正直わかんねぇよ。だから切実に生きたいと願うおまえに、生きてほしい」
「そんなの…」
「だから、これはおまえの為に言ってるんじゃねぇよ」
マモルはリザを見つめ、微かに笑った。
「これは、全部俺の為だ」
「……何それ、」
リザも、マモルを見つめ、笑った。
リザが、初めて幸せを感じた瞬間だった。
「悪いか?」
「ううん。…変だけど、ありがとう。マモル」
「優しい人ね」




