第9話 最深部の囚人
「協力って、何だ?。」
「脱獄だ。」
男はそう答えた。
「…脱獄だと、?」
「あぁ、」
ヘルガと名乗った男は淡々と答えた。
目つきが不気味だ。
マモルは思いもしなかった唐突な発言に動揺する。
- 脱獄って、こいつ本気で言ってるのか?
「なぜ俺を誘う?俺はあんたのことを知らない。」
ヘルガは微笑して答える。
「昼間の処刑を見た。お前のな。」
それを聞いたマモルは何となくヘルガの考えを察した。
「俺を脱獄に利用する気か?」
ヘルガはさらに笑って答える。
「少し、違うな。俺の目的は脱獄で手を借りることじゃない。脱獄した後にある」
「…後、?」
「あぁ、まだ詳しくは言えないが。
お前は、並みの人間じゃない。あの戦い方を見れば分かる。
お前のことを買ってるんだ、俺は」
マモルには男の意図が読めなかった。
- この男、何を企んでる?
「これはただの誘いだ。お前にその気があれば、俺の話に乗ってくればいい」
男はマモルとは反対の方向を向き、やや振り返る。
「…また来る」
「……」
男は闇の中へ消えていく。
「あぁ、そうだ、」
今度は振り向かず、去り際に男は言った。
「この監獄は通常では絶対に突破できない。だが、俺はその手段を知っている。もう一度よく考えろ。」
そう言い残して男は完全に去った。
- 何だったんだ、あの男…
マモルは再び床に横になった。
寝入るまでの間、ずっとヘルガと名乗った男のことを
考えていた。
マモルにも分かっていた。
- あの男は、只者じゃない。
翌朝。
ギィィイィィンンッ!!
ギィィイィィンンッッ!!
いつもの如く、起床の鐘が鳴った。
嫌なことは嫌だが、いい加減慣れたものだった。
マモルは起き上がり素振りから入り、壁を殴るトレーニングを始める。
正午過ぎ。マモルは昼食を終えた後、珍しく、というか始めて自由時間に檻を出た。そのまま21階を歩き、エレベーターへ向かった。
道中、数々の檻の前を通っていたわけだが、マモルは公開処刑のことがあって一目置かれていた。
囚人たちは歩いているマモルを義務であるかのように見つめる。
- 何か、慣れないな。それに落ち着かない。
マモルは足を止める。エレベーターに到着した。扉が開かれ中に入る。ボタンが1階から、2階、3階、4階と、47階までずらっと縦に並ぶ。
マモルは43階のボタンを押す。
しかしエレベーターは動かない。
- 動かない、行けないってことか?
「何やってんだ??」
不意に背後から聞こえた声。その主は容易に想像ができた。ラタである。
「よ。」
「おまえ、こんなとこで何やってんだ?」
「それは俺の台詞だっての!おまえがエレベーターの方に向かってったから追いかけたんだよ。」
と、ラタは答えた。いつもの軽い調子であったが心中ではマモルを心配していた。昨日の公開処刑の件を気にしていたのだ。
「ってか、おまえが自分の檻から出るなんてめずらしーよな。いつもなんか素振りみたいなのやってるから。どっか行きてーのか?」
マモルは指で階数の書かれたボタンを示す。
「43階」
「43階、!?」
ラタは声を上げた。
「うるさいおまえ」
「おまえが43階に行きたいなんて言うからだよ!
行けるわけねぇだろ」
「やっぱり行けないのか?」
「当たり前だろ。前にも言ったろ?39階より下は化け物の囚人ばっかだから隔離されてんだよ。39階以上の囚人と干渉させねーよーにな」
「…行く方法ないのか?」
「俺が知るわけねぇだろ。まぁ多分、俺たち囚人には無理だな。階長とか、監獄長とか、監獄側の奴らがどうやって行ってるのかすら分からねぇからな。エレベーターはここの一本だけだしな」
「他の階に、別のエレベーターとかはないか?」
「無い。断言してやるよ。俺たちが自由時間に移動できる範囲には、この全ての階につながってるエレベーターが一本だけだ」
「なんでそれが分かる?」
「なんでも何も、ねぇんだよ。見りゃ分かる。」
マモルは黙り込む。
「まぁ、おまえがなんで43階なんて行きたがってるかは知んないけどよ。やめとけ。行けっこねぇ」
マモルは考えた。
そして、妙な不信感を抱く。
- 何か、違和感がある。何かは分からないが、どこかが絶対に変だ。
マモルはそのままエレベーターを出て自分の檻へと戻る。
「あ、おいマモル!」
ラタも後を追った。
その夜。就寝前。
マモルは昼間の話について考えながらトレーニングをしていた。
- 分からねぇ。絶対にどこかおかしい。間違い無いんだ。それは一体何だ?
マモルは妙な不信感が引っかかっていた。
「マモル」
人の気配はなかったはずだが背後から声がした。
マモルは思わず手を止め、声がした方を向く。
「久しぶり」
アガリオだった。
「…アガリオ」
「…聞いたよ。処刑、されかけたんだってね」
「…あぁ。まさか、おまえの言う通りこんなに早く選ばれるとは思わなかった」
「けどよかった。よかったって言っていいのか分からないけど。すごいよ、君は本当に処刑から生き延びたんだ。こっちもかなり進展があったよ」
マモルはアガリオの話に食いつく。
「何か分かったのか?」
「ああ、実は… と、アガリオは話し始める。
「例の兵隊殺しの事件、君がその容疑者であるという線はほぼ完全に外された」
「え、」
マモルはそれを聞いて驚愕する。
「ってことは、俺はもうここから出られるのか?」
アガリオは頷く。
「そうなるね」
マモルは声を上げずに拳をにぎる。
監獄内で一度死にかけ、それを乗り越えてようやく解放されるのだ。
アガリオは、さらに話を続ける。
「そして…マモル。実はその上で君にお願いがある」
「お願い…?」
「あぁ、」
アガリオは申し訳なさそうに言った。
「僕に…、騎士団に協力して、もう少し監獄にいてほしいんだ」
「……え、?」




