本篇プロローグ さようなら世界
-人間てのは、何で生きる?生き続ける?
-何のために ?
スパァァンッ!!
-ずっと分からなかった。
-金とか、そういうんじゃない。
-生まれて大きくなって、学校行って、会社入って働いて、辞めて、歳とって…
スパァァンッッ!!
-そんで、死ぬ。
-当たり前だろ。死ぬことを知らずに生きている奴なんていない。
スパァァンッッ!!!
結論の出ることがない問いに蓋を閉じるように最後に強めの一撃。
ミットにパンチを打ち込む独特のリズムを刻む音が止んだ。
もう何度同じことを繰り返してきただろうか。
「… 帰るか。」
そう呟き、彼は支度を終えてジムを出た。
歩きながら、彼は再び考える。
自分は何故、何の為に生きているのか。
したいこと…していることなら、彼はボクシングをしていた。幼少期から大人しい性格であり、喧嘩をして誰かを殴るような子ではなかったが、物心ついた頃からボクシングをしていた。父親はいない。母親だけだった。
-何やってんだろうな、俺。
19歳、彼は未だボクシングを続けている。
別にそこまで好きだったわけでもない。
彼にはそれしかなかった。それだけだった。
只々、毎日同じことを続けることを続け、彼は生きることが、よく分からなくなってしまった。
信号が青に変わった。
横断歩道を渡る。
そういえば腹が減った。
- 今日はー、肉じゃが食いてぇな。
母さんにでん…
右を見る。
眩しい光が彼をつつむ。
彼は冷静だった。そして全てを悟った。
感じたのは恐怖などではなく、
ただ次に、自分に必然的に起こりうるであろう事実を、事実として、現実として、
抗うこともなく受け入れる
やけに気の抜けた精神だった。
次の瞬間、彼はトラックに衝突。
この世界の生に別れを告げ
死亡したのだった。




