1-8
誤字脱字はまだいいんですよ………いやよくないけど。
でも話の入れ忘れはアウトですよね……(全話の最初に入れ忘れ発覚、修正済み
「おい華。起きてくれ。」
ユリルを探すために、布団でグッスリの華を起こす。
「…裕人さん………?え?裕人さん?だ、ダメっすよ!そりゃー裕人さんとそういうことできるのは嬉しいっすけどあーいうのはロマンチックというか雰囲気が大事というか……夜這いはその…………。」
「アホか!!いいから起きろ!!」
寝ぼけている華を無理やり起こし、先ほどの出来事を説明する。
「はあ!?ユリルが出て行った!?私たちに迷惑がかかる!?何言ってるんすかあのバカ!!」
華が怒りを露わにする。これほどまでに感情を露わにする華の姿を見るのは久しぶりのため裕人は驚く。
「そういうわけで探すのを手伝ってくれ。」
「手伝うに決まってるっす!全く!迷惑がかかるなんて予想していたに決まってるっす!それを……もう!私デパート方面探しに行くんで裕人さんは学校方面よろしくっす!」
「分かった!何かわかったら連絡頼む!」
二手に別れてユリルを捜索する。
「ちっ………どこだ…………?」
家の屋根と家の屋根をジャンプしながら探す裕人の姿はどっからどう見ても忍者である。
(そんな時間も経ってないし来たばかりだから土地勘もないはずだからそこまで遠くに行ってないはず……どこだ?どこに…………)
ドゴォォォォ!!
「っ!?」
静寂な空間に爆音が轟く。裕人は急いで音源の場所に向かう。
着いた場所は、人が誰も入ることはなさそうな空き地。
そこには、剣を持った2人の男と魔法使いが着てそうなローブを着た性別不明の2人の計四人組がいた。職務質問されること間違いなしの格好である。
「ちっ!逃げられたか……!」
「聞いてたとおり逃げ足が速い。…………ん?誰だお前は?」
裕人の存在に気付く4人組。
「逃げられたって聞いたが誰を探してるんだ?」
「あ?てめえには関係ねえよ。」
1人の剣士が返す。全く剃られていない髭に、凶悪な目つき。失礼だが完璧に悪人ヅラだ。
「いいから答えろ。ユリルはどこに行った。」
「あ?お前あの女知っぐふっ!」
武装も何もしていない裕人を見てただのガキだと油断した男。その油断をついて裕人が男に腹パンを決める。その一撃で男は崩れ落ちた。
「ユリルはどこに行った。」
静かに放たれた言葉に込められた、尋常じゃないほどの殺気と威圧に後ろにいた魔法使いが怯える。
「て、てめぇ!よくも!!」
ビビりながらも剣を持った別の男が襲いかかる。
「うるさい。」
「がっ!」
迫ってくる男を、飛んでる虫でも払うかのように裏拳で殴り飛ばす。男は、その一撃でピクリとも動かなくなる。
「ひ、ひっ…!」
その光景を見た1人の魔法使いの格好をした者が逃げる。
「っす、ストーンエッジ!」
後ろにいた1人の本物の魔法使いが魔法を唱える。声からして女性だ。時速40kmほどで飛んでくる石飛礫を裕人は全て避け、魔法使いの前に立つ。
「……なあ、お前らはなんでユリルの居場所が分かるんだ?」
「……………魔法です。人探し用の。」
どうしようもないと悟ったのだろう。顔を歪ませながら答える魔法使いの女。
「魔法ね………。それって誰でも使えんの?どんなところからでも分かんの?」
「いえ、誰でもではないですし、探せる範囲は個人差があります。しかも場所というより方向が分かる魔法ですので向かった先が海だったってこともあります。」
「………なるほどな。」
対策を考えながら魔法使いの女を見る。ハロウィンに見る魔法使いのコスプレとは大違いだ。
「な、何ですか…!ジロジロ見て…!私にエッチなことするつもりでしょう!」
「しねえよアホ。んなことよりお前はユリルの場所分かんのか?」
「………分かります。一応魔法使いですし………。」
「そんじゃ案内頼む。」
「なっ!そんなこと言って路地裏に連れ込んでエッチなことをするつもりでしょ!この変態!!」
「妄想激しすぎない!?変態はお前だろうが!!」
道案内を頼んだ敵が変態という予想外のハプニングがあったが、道案内をさせることに成功する。なぜか不満顔だったがもちろん無視だ。
「……あの女をどうするつもりなんですか。」
「……………。」
ユリルの元に走って向かう途中、女が話しかけてくる。裕人は答えない。
「守れるつもりですか?確かにあなたはとても強いですけど、うちの組織は最低でも1万人はいますよ?あなたより強い人もいます。そうなったらあなたは無駄死にーー」
「よく喋るやつだな。」
女の言葉に反応する。もちろん足は止めていない。
「世話するって決めたんだ。その中にはあいつを守るってことも含まれてる。死んじゃうかもっていう理由だけでやめるんだったら世話なんて最初からしねえよ。」
裕人の言葉に女は目を細める。
「この世界は平和と聞いていたのですがあなたは命を軽く見てるんですね。」
「ちげーよ。ただ命より大事なものがあるだけだ。」
女が裕人の顔を凝視する。祐人の視線は遠く。はるか遠くを見ている。
その瞳が何を見ているのか、女には分からない。
「ーーってなわけだ。分かったか?」
『分かったっす。すぐそっちに向かうっす。」
華に現在の場所と状況を連絡したので、ある程度たったら来るはずだ。
「ったくあのアホは………。」
女に案内された場所は山だった。山としてはかなり小さいが、人が歩くとしたらかなり大きい。しかも、大量の木に囲まれてるのだ。ここから人を探すのはかなりの苦労だろう。
「ユリルは山から動いてないのか?」
「動いてないけど………でもここに来てるのはバレてます。この魔法、相手の魔力を探ってるから相手にも伝わりますから。」
「昨日もそうだったな。…いや、お前が来たことはバレてるかもしれないけど俺だとは分かってないんじゃないか?」
「そうですね…。………………では私はこの辺で。」
「ちょっと待て。」
「な、なんですか!もういいじゃないですか!ここまでやったら充分でしょ!」
引き止めると必死な顔で逃げようとする女。裕人は困った顔で説明する。
「い、いや、助かったよ。山にいるんだったら華が来たらすぐ見つけるはずだから別にいいんだけど……。お前は大丈夫なの?」
「大丈夫?」
何を言ってるんだという目で見てくる。こいつ………。
「敵である俺に負けただけじゃなく道案内までしたんだぞ?裏切り者とかで何かされたりしないか?というかそもそもお前らが住む世界に帰れるのか?」
俺の言葉にフリーズする女。その顔はとても青ざめており、汗を大量にかいていた。
「ど、どうしよう!私どうすればいいと思う!?」
女が裕人の胸ぐらを掴み、揺さぶりながら聞いてくる。目の端には涙がたまっている。
「……………………………頑張れ。」
「酷いです!道案内しろって言った張本人のくせに!あの状況で断れるわけないじゃないですか!私もあの女みたいに守ってください!!」
「え、やだ。」
「そんな!!」
「いやだってお前ユリルを狙ってた敵だし………。同情はするけど組織に所属していたお前の自業自得だろ?」
俺の説明に、反論できずに言葉を詰まらせる女。
「そこをどうにかお願いしますぅぅう!!何でもしますからぁぁぁあ!!性奴隷になりますからぁ!お願いしますぅ!性奴隷にしてくださいぃ!!」
「分かった!分かったから落ち着け!今何時だと思ってんだアホ!!」
「ほんと!?性奴隷にしてくれる!?」
「逆に決まってんだろアホ!!」
変態の頭に強めのチョップを脳天にお見舞いすると、女はあひんっと変な声を出した。女を見る裕人の目はゴキブリを見る目と同じになっている。
「まあ、あれだ。お前を引き取ってくれそうな人を紹介してやるから。」
「ありがとうございます!!」
満面の笑みで返してくる。どこに預けられるかも知らずに。
「それよりまだユリルは動いてないよな?」
「はい。まあもともとかなりのダメージを負わせましたし、ここまで逃げれたことが奇跡に近いと思いますね。」
「裕人さーーん!!」
遠くから声が聞こえてくる。見てみると、華が汗だくでこっちに走って向かってきていた。
「はぁ…はぁ……。ユリルはまだいるっすか?」
「ああ。かなり怪我を負ってるらしい。頼む。」
「もちろんっす!それじゃ………。」
華が一番近くにあった木に近づき、そして触れる。触れた瞬間、木が淡く光始める。
「………こういうところは精霊に見えるんだけどな。」
華の姿を見ながら裕人は苦笑い気味に呟く。今の華の姿は、精霊と呼ぶに相応しい姿だった。
「なんですかあれ!魔法ですか!?この世界には魔法がないはずでわ!!」
…隣のうるさい奴は無視しておく。
「…………………ありがとっす。」
少し時間が経つと作業が終わったのか、華が木に対しお礼を言う。すると、光は収まっていった。
「どうだ?」
「大丈夫っす。みんなが捕まえてくれたっすから。それじゃ行くっすよ。」
華が山を登り始める。裕人は華についていき、魔法使いの女も慌ててついてくる。
「…ところで誰っすか?もしかしてあんたが魔法使いの女っすか?」
目つきを細め女を問いただす華。
「はいそうです。そしてこの方の性奴隷でイタイイタイイタイ!ダメです!顔が凹んじゃいますからご主人様ぁぁぁぁあ!!」
「誰がご主人様だ!」
女にアイアンクロー決める裕人。痛いと言っている女だが表情は恍惚としている。
「……変態っすか。」
「違う、ど変態だ。」
女を見る裕人と華の視線はすでに氷河期へと突入している。その視線を受けて、女はさらに喜んでいた。
そして、3人が歩き始めてから数分経った時、裕人たちは見た。
………亀甲縛りで、目隠しと口にツルを巻かれた状態のユリルの姿を。周りには木の枝が触手のように蠢いている。
あまりの光景に頬を染めながら目を逸らす裕人。枯れてると言われてるがやはり思春期の男の子である。
「……………すごい捕まえ方だな。説明お願いできるか変態?」
「ちょっ!今変態って書いて華って呼んだっすよね!違うっす!私あんな指示出してないっす!!」
「ずるいです!羨ましいです!私にもやってください!!」
「んー!んーーー!!」
俺たちの声が聞こえたのだろう。何を言おうとしてるのかは分からないが、その声からは焦り、不安、恥ずかしさが滲んでいる。
「ユリル。どうっすか〜?へいへい。ここっすか?ここがいいんすか〜?」
「ん…!っっっん!」
身動きが取れないユリルのお腹をツンツンする華………。ユリルから聞こえる声はとても色っぽい。
「アホなことやってないでまずほどけ。」
「え〜!まあ仕方ないっすねー。ほどけろっす。」
渋々了承した華が一言命じただけでユリルを拘束していた木やツタは解けた。
「…さっきぶりだなユリル。ボロボロじゃねえか。」
露わになったユリルの姿はボロボロだった。切り傷はもちろん火傷のあともあり、買った服が無残なことになっている。
「…うるさい。私はユリルなんて名前じゃないわ。」
「これほど堂々とバレる嘘をついた人初めて見たっす。」
「お前アホだろ。」
「誰がアホよ!」
裕人の言葉に反応するその姿は、自分がユリルだと言っているようなものである。やはりアホである。
座っているユリルに合わせるようにしゃがみ込み、裕人はいつもの優しげな雰囲気を消して少し怒った雰囲気を出す。
「…ユリル。俺がお前を世話する条件、覚えてるか?」
「…………………勝手にいなくなるな……。」
「そうだな。お前の過去を聞いて出ていこうとした理由も分かったし、こうして見つかったから………。」
裕人はユリルのほっぺたを引っ張る。柔らかいぷにぷにのほっぺたが餅みたいに引っ張られる。
「ゆ、裕人。痛いわ。」
「約束破ったことと心配かけた罰だ。」
抗議するユリルだが裕人は止めず、ほっぺたを引っ張り続ける。
「すげえ伸びるな……。」
「…裕人さん?楽しんでないっすか?」
「……………………お仕置きはここまでにしとく。」
「楽しんでたっすよね裕人さん!」
華がやかましいが無視だ。裕人は優しげな雰囲気に戻り、ユリルの小さな頭に手を置く。
「…ユリル。お前が俺たちのことを心配してくれたのは嬉しい。でもな。お前が俺たちを心配してくれたように、俺たちもお前が心配なんだよ。」
「………うるさい!だって!だって…………。」
ユリルが顔を伏せる。何か、直視したくないものでもあるかのように。
「………死んじゃうのよ。今までいっぱいいろんな人が死んだのよ!私のために!私のせいで!」
「お前を見捨てるよりかはマシだ。」
即答した。揺れることはないであろう、とても力強い言葉だ。
「なんで……よ…?私たち会ったばっかじゃない…。ここまでするなんて意味分かんないわよ……。これも…最初に世話するって決めたから…………?」
「それもあるけどそれだけじゃないよ。」
「じゃあ…。」
「後悔したくないんだ。お前を守れないかもしれない。それでもお前を見捨てたら罪悪感を感じるからお前を守りたいんだ。な?気にやむことない、俺の自分勝手な、最低な考えだろ?」
「で…………も………………!」
「んじゃ聞くぞユリル。お前はどうしたい?」
祐人の言葉にユリルの動きが止まる。
「どう…したい?」
「ああ。お前はどうしたいんだ?俺たちにどうしてほしいんだ?」
「どうしたい…どうしてほしい……。」
裕人の言葉を、繰り返して呟くユリル。繰り返し、繰り返し、そして…。
「一緒にいたいわよ………!」
顔を伏せたまま、ユリルが声を震わせながら答える。
「死にたくないわよ。学校にまた行きたいわよ。裕人のご飯も食べたい。また買い物に行ってみたい。友達も作りたい。他にもいっぱい…………いっぱい……!」
今まで耐えていたものが抑えきれなくなり、溢れ出すかのようにユリルの口から純粋な願いが飛び出てくる。
それを聞いた裕人は満足気な顔でユリルの頭を撫でた。
「それでいいんだよ。いっぱいわがままを言え。俺に出来ることなら何でもしてやる。だから……帰ってこいよ。」
やっとユリルが顔を上げる。その顔は涙と鼻水でくしゃくしゃになっていた。涙や鼻水を袖で拭ったユリルは、はにかみながら裕人にお願いをする。
「………それじゃ、いきなりだけどわがままを言わせてもらうわ。」
「おう、なんだ?」
「お姫様抱っこをしてほしいわ。」
「……………はい?」
「ちょっ!ユリルそれどういうことっすか!」
ユリルのわがままに空気を読んで黙っていた華が取り乱す。
「そのまんまの意味よ。疲れたし怪我もいっぱいしてるわ。まさか怪我人に対して歩けっていうつもりかしら?」
「ぐぬぬ…!そう言われると断れないっす!」
「いやなんでお前が断るんだよ。ユリル、さすがにお姫様抱っこは少し恥ずかしいからおんぶでいいか?」
「ええ。それでいいわよ。」
ユリルの軽さに驚きながらおんぶする裕人。背中に胸の感触は来ない。さすが絶壁。希少価値である。
「あんた失礼なこと考えなかった?」
「考えてないです。」
背中から感じる殺気に裕人は冷や汗を流す。
「それじゃ………帰ろう。」
★★★★★★★★★★
………心臓がうるさい。
これほどまでに胸が高鳴るのは初めて。
祐人におんぶされてるから?裕人の背中は同い年とは思えないほど大きくて暖かい。
ただ、この胸の音が祐人に聞こえてないか。それだけが不安で。
やっぱり無理を言ってでもお姫様抱っこにしてもらえばよかったわ。