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朝霧家の日常  作者: ピルリンガ
8/11

1-7

二話目と三話目の間に入れるはずだった話を入れ忘れてたので三話目の前半に入れてます。(プロローグ含めず)


「ねえねえ!もうすでに送ったんでしょ!今回何人送ったの?」

「魔法師2人に剣士2人の4人組だ。」

「へー。でも、あの子よく昨日の2人倒せたよね。あの子って遠距離戦はバカみたいに強いけど近距離戦はバカみたいに弱いし。まあ今回で終わるでしょうね。」

「そう………だな。今回ダメだったらカルマを出さないといけなくなるな。」

「あいつせっかちだもんねー。まあ私もあいつの無様な姿を早く見たいからいいんだけど。」


★★★★★★★★★★


その日の夜、裕人の部屋にユリルが訪れた。

「……今いいかしら。お願いが2つあるんだけど…」

「俺に出来ることならな。」

裕人はパソコン(作業)をやめ、申し訳なさそうな顔のユリルに体を向ける。

「その……私に戦い方を教えて欲しいの。」

「……あー、そういうことな。」

ユリルの考えはすぐに分かった。少ししか付き合ってないとはいえ、自分のせいで周りの人に傷つくのが嫌な優しい子ということぐらいよく分かってる。本人に言ったら否定するだろうが。

「だって裕人とっても強かったじゃない!武器を持った2人組の男に素手で余裕で倒していったじゃない!」

「まあ修行してるしな……。でもなぁ。どんな修行法がいいか分からねえんだよな。」

「裕人と同じ修行でーー」

「やめろ!死にたくなかったらやめろ!」

裕人がものすごい形相でユリルの提案を止める。その顔は怯えつつもユリルを気遣っているように見える。

「死ぬぞ?あいつが考えた特訓は人を殺せるぞ?うちのクラスメイトが何人か弟子入りしてその日のうちに死にかけて辞めたからな?」

「構わないわ。」

裕人の気遣いをユリルは断る。

「他力本願なんて絶対嫌。守られるだけも絶対嫌。私にも力が欲しい。」

胸に手を当て、堂々と答えるユリルの姿に目を奪われる。小さい体の少女が、とても大きく見える。

「…分かった。けど、お前の場合時間があったら魔法の特訓もしとけ。」

「分かったわ。それとあと1つのお願いだけど…。」

言いにくいことなのか躊躇うユリル。

「?遠慮せずに言っていいぞ。」

「えつと…提灯があったじゃない?あの洗脳ができる。」

「あー。それがどうかしたか?」

そして、ユリルはゆっくりと息を吸い込み、吐き出す。覚悟を決めたかのように。


「それで、私を洗脳してほしいの。」



★★★★★★★★★★


翌日、学校から帰った裕人、華、ユリルは庭に集まっていた。1つの提灯を置いて。

「これを2日連続で使う日が来るとは………。」

「一生使いたくないと言っても過言じゃないっすからね。使い所も微妙っすし。」

欲にまみれた人なら喉から手が出るほどの物をバッサリ切り捨てる2人。まあ並みの精神では襲いかかる狂った感情に耐えきれないうえ、30秒間、瞬きせずに提灯を見させる状況を作ること自体難しいが。

「それじゃ成功するかどうかは知らないけど…始めるぞ。」

裕人の言葉に、コクリとユリルは頷く。

裕人が洗脳の提灯(あなたは私のもの)を持ち、ユリルは瞬きせずにそれを見る。

そして30秒経ったとき、剣男のときと同じようにユリルがぐったりと倒れる。

「大丈夫っすか裕人さん。」

「おえ………気持ち悪……………。」

膝をつく裕人。右手は、胃の中のものをリバースしてしまわないように口を押さえている。

「はぁ……。んじゃ始めるぞ。」

そして、裕人はユリルに命令する。


「記憶を取り戻せ。」


「ッッッ!!!!」

裕人の言葉に反応し、ユリルの体がビクッとなる。そして、

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!!!」

悲鳴をあげ、暴れはじめる。その顔は恐怖と苦痛で満たされていた。

「大丈夫だユリル!抑えるぞ華!」

「了解っす!!大丈夫っすよユリル!」

2人で暴れる華を抑えながら呼びかける。すると、徐々にではあるが落ち着いてくる。

そして、呼吸が落ち着いた頃、ユリルは眠りについていた。

「成功………………したんだろうな………。」

「相手を思い通りにする道具を生かして記憶を取り戻す…。でも大丈夫っすかね………。」

「信じるしかないだろ。とりあえず運ぶから布団の準備頼む。」

「…はいっす。」


★★★★★★★★★★


初めてだった。

あんなに優しくされたのも。

あんなに美味しいご飯を食べたのも。

あんな風に守られることも。

あんな風に接してくれることも。

自分で買い物をするということも。

誰かと一緒に買い物に行くということも。

誰かと一緒にお風呂に入るということも。

料理の手伝いをするということも。

学校に行くということも。

気持ちが込められたプレゼントを贈られるということも。

友達が出来たということも。

あんなに暖かい、優しい手で触れられることも。

彼らと一緒にいれたら、これからもいっぱい、いっぱい、初めては増えるだろう。

それでも…私は……………………………………。


★★★★★★★★★★


パチリ

「お、起きたな。」

目を開けた先には彼がいた。とても優しげな表情で聞いてくる。

「大丈夫っすかユリル!」

彼の横には彼女もいた。心配してたのが丸わかりの表情だ。

「…ええ。大丈夫よ2人とも。」

微笑みながら返す。彼らを見てたら自然に口が緩んだのだ。

「それなら良かった。ご飯の準備出来てるから食べようぜ。」

2人とも安堵した表情を浮かべてる。会って数日しか経ってないのにここまで優しくしてくれる人は絶対いない。ここまで親身になってくれる人は絶対いない。つくづく、私は周りの人に恵まれてたんだなと思う。

「…食べるわ。それより裕人も大丈夫かしら?提灯(あれ)使ったら体調悪くなるんじゃないの?」

「心配すんな。あれぐらい何ともない。」

嘘。絶対辛かったはず。先日も辛そうだったし、華が使った時は耐えきれなくて気絶したと聞いた。それなのに全然そんな素振りを見せずに笑いかけてくる。ホントにすごい。思わず好きになってしまいそうなぐらい。

ぐ〜〜

そこで可愛い音が響く。あらかじめ言っておくけど私じゃないわ。

「は、早くご飯食べるっす2人とも!冷めちゃうっすよ!」

「…………ぷっ!そうだな。行くぞユリル。」

「わかったわ。……………ぷっ!」

「な、何なんすか!だってお腹空いたんすもん!仕方ないっすー!!」

華が顔を真っ赤に染めて私の手を握って食卓に連れ出す。正直恥ずかしくて嫌だが、それ以上に嬉しいという気持ちが込み上げてきてしまう。……絶対言わないが。

そして私は食卓につく。

…最後の食卓に。


★★★★★★★★★★


「………………………ユリル?」

真夜中、時計の短針は3の数字を指している。そんな時間に裕人は起きた。玄関から出ようとしてる何かの気配に気づいて。

その気配に近づいてみると、予想どおり、ピンクの髪の毛をなびかせた少女がいた。

「……こんな時間に何してんだアホ。夜更かししてると成長してねえぞ。まあこれ以上お前は伸びんだろうが。」

「失礼ね!私だってまだまだ成長期のはずよ!!………ハッ!」

ユリルが振り返る。その顔はいたずらがバレた子どものようだった。

「んで?何してたんだ?」

「…………………に、庭で修行でもしよーかなーと思ったのよ。」

「なんだその棒読み。嘘が下手ってレベルじゃねえぞ。」

必死に誤魔化そうとするユリルを見て裕人はため息をつく。

「どんなことがあったんだよ。この家から出ないといけなくなるほどの出来事って。」

「………裕人。風に当たりましょう。」

ユリルの提案に載って2人外に出る。時期は5月の中旬ぐらい。暑くなっていく季節だが、肌に当たる夜風は冷たい。

「私たちの世界で戦争が起きたわ。人間と魔王との戦争が。」

ゲームみたいだなという考えを抱く裕人。しかし、ユリルの表情を見てそんな考えは一瞬で頭の隅に追いやる。

「その戦争に私も参戦したわ。王女という立場から国民を守るのは当然の義務だし、自分で言うのもなんだけど、魔法の才能に恵まれていたから。」

ユリルは続ける。

「そして戦争には勝利したわ。そしてその頃ね、私が救世主と呼ばれはじめたのわ。まあ私はいっぱい活躍したから当然といえば当然ね。」

冗談めかして言うが、放たれる言葉はとても重い。

「………でもね、途中から周りの国は私たちのことを怖がってきたわ。共通の敵がいなくなってから、私が、私たちの国が侵略行為をするんじゃないかって。」

「………そんなこと考えてなかったんだろ。」

「もちろんよ。そんなことをする気はないって何度も説明したわ。何度もね。でも………。」

そしてユリルは視線を遠くに向ける。悲しみで満ちた瞳だ。

「ダメだったの。反逆者に国民はほとんど殺されて、妹以外全員、家族も殺されたわ。とっても信頼できる部下もいたけど……………私を逃がすために死んじゃったわ。」

「………お前の死体が必要って言ったのは証拠のためかもしれないな。」

「そうかも……しれないわね。あそこまで躍起になるものなのかは不思議だけど。」

裕人の言葉に笑って返す。いや、笑って返そうとしてるが笑えてない。泣きそうな表情だ。

「それであれか?お前と関わっていると俺たちまで殺されちゃうかもしれないから出ようとしたってことか?今の話を聞くとそうとしか思えないぞ。」

「………そうよ。それを聞いたらあんたは絶対止めると思ったからね。」

「よく分かってるな。もちろん止めるさ。華も絶対同じこと言うぞ。」

「全く……よ。あんたたち2人のお人好しっぷりは異常だわ。」

ユリルは裕人から一歩分離れる。その後ろ姿は震えている。何かを堪えるように。

「…………アイスランス。」

「ッッッ!!」

ユリルの一言に反応して、氷の槍が周りに浮かぶ。剣男の炎の槍と違う点として、その数が尋常じゃないほどあるということだ。

「裕人なら避けれるでしょ。………………………………ごめんね。」

「待っ………!!」

逃げだしたユリルを追おうとするが、向かってくる氷の槍がそれを邪魔する。

ユリルとの距離がどんどん離れていく。すると、急に氷の槍が来なくなる。それと同時にユリルが裕人の方を振り向く。

………泣いていた。

普段、凛々しくて、堂々とした姿の美少女とは思えない姿だった。

「………………さよなら。」

少女は笑みを浮かべる。悲しい、とても悲しい笑みだった。

「っふざけんなぁっ!!」

その光景を見た裕人が大声をあげながらユリルに向かう。その速さは100m走の世界記録を遥かに更新する速度だ。

それでも届かない。止まっていた氷の槍が動き出す。

「ふざけんな!ふざけんな!ふざけんなぁっ!!」

向かってくる氷の槍を避けるのではなく腕をコロの原理で回転させ、攻撃を吸収、または軌道を変えながらユリルのもとに急ぐ。化勁(かけい)と呼ばれる太極拳の技術だ。

吸収しきれない攻撃に、手に怪我を負ってしまうがユリルとの距離が徐々に近づく。

「ホント、あんたはすごいわね。……………………………………アイスボール。」

ユリルの詠唱。これにより拳サイズの氷が何百個も裕人に向かう。

「ぐっ……………!」

避け場のない、何百個も向かってる氷に裕人が出来ることは腕を顔の前で交差し、歯を食いしばって耐えることだった。

そして、数十秒続いた攻撃が止み、裕人は顔を上げる。


顔を上げた先に、ユリルの姿はなかった。

感想書いていいんですよ?どんどん書いていいんですよ?

でも優しく書けよな!!

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