1-6
前話の武術ですが、作者はケン◯チが大好きです。察しろよな!!
「あれ?言ってなかったすか?植物の精霊っすよ私。」
裕人から聞かされたあり得ない内容をユリルは確認してみると簡単に認めてきた。
「精霊って…あの精霊よね?こんなのが精霊………?」
「失礼っすね。自覚はあるっすけど。」
「精霊って頭良さそうなイメージあるしな。」
「裕人さん?それ私のことバカって言ってるっすか?」
「そうよね。前世が虫って言われた方がまだ説得力あるわ。」
「さすがに酷すぎるっす!」
あまりにも酷い言い草に涙を流す華。もちろん無視されるが。
「っていうことでな。こいつは植物を自在に生やしたり操れたり出来るんだよ。」
「すごいわね…。相手の魔法とかを見ても大して驚かなかったのもそれが理由?」
「一応驚いたぞ。まあ朝霧家に住んでるやつは華みたいな特殊なやつばっかだから多少は耐性がついてるけどな。まあそれより…。」
話を区切ると裕人は一度家の中に入った。ある物を取りに。
「ん…………んん!?」
「やっと起きたな。」
「!!」
剣男が目を覚ます。座った状態で木にくくりつけられ、口には縄で喋れないようになっている。すぐ隣にいる槍男も同じような姿だ。
「それじゃ華 。こいつの目を頼む。」
「了解っすー。」
「んん!?ん、んん!!」
華が剣男の目を閉じないように開く。剣男の視界に、不思議な光を放つ提灯を持った裕人と、後ろ姿のユリルが入る。
今から何をされるのかと不安になった剣男だが、特に何かをされるわけでなく提灯を見せられるだけの、まばたきがしたくなるだけのこの状況を不思議に思う剣男。そして、剣男は気づく。目の前の男が目を閉じていることに。
「ん……んんん!!」
目を閉じようとする剣男だが、華によってそれは叶わなかった。
そして、剣男がその提灯を見始めてから30秒経ったとき、剣男は力尽きたようにグッタリした。剣男の目は虚ろだ。
「ほんと恐ろしいっすね提灯…。ガブさんが送ったものの中で私特にこれ嫌いっす。」
「全くだ…………おえ。気持ちわり……。」
洗脳の提灯。
江戸時代、提灯屋の女が、とある男に恋をした。その男は既に既婚者で叶わぬ恋だった。
しかし、女は諦めることはなかった。異常な執着心を持ち、男の妻に対しても嫌がらせをし続け、最後はバレないように男の妻を殺した。
男を想う狂った、異常な感情。そんな感情を持ちながら作られた1つの提灯は、1人の男を自分のものにできる、相手を洗脳できる提灯となった。
製作者以外の者が使うと、製作者本人の狂った感情が使用者に入り込んでくるデメリットがある。
「話は聞いてたけど提灯を30秒見るだけでホントに洗脳できたの?」
剣男の様子を見てそんな感想を抱くユリル。
「まあ見ておけ。」
口に巻いてあった縄をほどく。そして裕人は男に向かって質問をする。
「なんでユリルを狙った?」
「…上からの命令だ…。」
「なんで上がユリルを狙うんだ?ユリルは何者だ?」
「分からない……。王女で…………救世主と呼ばれていた………。」
「救世主?」
「類まれなる魔法の才で……………世界を救ったからだ…………。」
「ふーん……………。」
「何よその目。さすが私じゃない。」
「何でもないです。」
後ろのユリルをチラッと見る。どう見ても世界を救ったような人には見えねえなぁ、と思った裕人。
「お前らは別の世界と言ったがそのまんまの意味か?」
「ああ……この世界とは異なる……魔法や魔物が現れる世界………だ……。」
「ユリルを狙ってる組織はお前らだけか?お前は組織の中でどれくらいの強さだ?」
「知ってる限りでは…俺たちのグループだけだ………。俺は……………下から数えた方が早い………。」
「そんなやつがユリルを攫う任務についたのか?重要な任務じゃねえの?わざわざ別の世界に来るほどだ。」
「簡単な………任務だと……………言われたからだ…………………。」
「ユリルは魔法の才があると知ってたのにか?」
「ああ………上からの命令は………絶対だ…。」
(様子見か?それとも楽しんでるだけ………。この男からはこれ以上情報は集まらないだろうな…。)
「ユリルは聞きたいことはないか?」
「今のところないわ。聞きたいことはあんたが全て聞いてくれたから。」
「分かった。」
そう言って裕人は一息つく。
「んじゃこれが最後だ。お前らの組織で強いやつの名前と特徴、能力を言ってくれ。」
「…分かっ…た。それは……。」
「ファイアーボール!!」
「「「っ!?」」」
突如聞こえた声に反射してバックステップをする裕人。裕人がいた場所を拳サイズの炎が通過する。
「ははは。この距離で今の攻撃を避けるとは思いませんでしたよ。」
声がした方には、木にくくりつけられた状態の槍男がいた。
「縄を噛み切ったってことっすか…。」
槍男の足元に落ちてる縄を見て判断する。よく見ると歯が何本か欠け、口から血を出している。
「今からどうするつもりだ?奇襲が失敗した今、お前に出来ることはないと思うが。」
「ふふ。確かに今の私に出来ることはないでしょ。しかし…………。」
不気味な笑みを浮かべる槍男。そんな槍男の姿に既視感を覚えた裕人。
「………………まさかっ!」
その既視感を思い出す。そして、その男が今から起こす行動を止めようと走るが、
「ファイアーボールファイアーボールファイアーボール!!!!」
槍男が魔法を発動する。1つは裕人に向かって。残りの2つは剣男と槍男に向かって。
「「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」」
「くそ!間に合わなかった!」
剣男と槍男に向かった炎はすぐに体全身に燃えうつる。そして、2人を拘束していた木にも炎がうつる。
「水をーーー」
手遅れだとは思いつつも火消しに入ろうとした裕人の視界にユリルの姿が写る。その姿は、怪我を治した時と同じ……。
「凍りなさい。」
周りの温度が急速に下がっていく。
目の前で激しく燃え盛っていた炎が一瞬で氷に包まれる。
「これは………すごいっすね。敵が使ってたのとは大違いっす。」
「そうだな…。速さも規模も…。」
「弾けなさい。」
パリィン
氷が弾け、氷の粒が舞う中、悠然と佇むユリルの姿は神秘的で、とても綺麗だった。
★★★★★★★★★★
「なるほどー。それが昼休みに来れなかった理由ねー。」
時刻は15時。裕人たち3人は学園長室というプレートがかけられた部屋の中にある豪華なソファーに座っていた。
「いや、あんたには絶対会いたくなかったので屋上でゆっくりご飯を食べてたっす。」
「華ちゃんはツンデレだねー。チューしてあげよう。」
「黙れっすレズビアン。私の貞操は裕人さんのものっす。」
「俺を巻き込んじゃねえよ変態が。」
裕人はため息をついて、改めて向かいのソファーに座っている女性を見る。
肩までかかったサラサラの銀髪。太陽に当たったことがないんじゃないかと思えるほどの白い肌。親父と旧知の仲ということは中年と言ってもいいはずの年齢にも関わらず、10代後半にしか見えないほどの美人。裕人たちが通う高校の学園長、アリシア・メモリアルである。
「んでアリシアさん。昼休みに呼んでた理由って何ですか。」
「そりゃーもちろんユリルちゃん目当てに決まってるじゃない。可愛い子なら狙いたいし面白そうな話だしね!」
「狙う……?裕人、どういう意味?」
「知らなくていい。というよりアリシアの言うことのほとんどが知らなくていい。」
裕人の左側に座るユリルに説明する。不思議そうな顔で「分かったわ。」と言ってくれた。
「酷いなー裕人くん。私の恋人を全員寝取った上にその説明は酷すぎるよ。」
「それじゃ俺たちはこの辺で。さよなら。」
「ああ!待って!待ってください裕人くん!!裕人くんは帰っていいけどユリルちゃんと華ちゃんは…………行かないでぇぇぇぇぇ!!」
そんな言葉は無視して学園長室から出る。そこそこ離れてからも声が聞こえてくる。どんだけ可愛い女の子が好きなんだあのレズビアンは………。
「……あの人に事情を話さないと公欠にならないとは言えホント嫌っす。前なんて出してきた飲み物に睡眠薬入れてたんっすよ。アホな人なんで自分で間違えて飲んでたっすけど。」
「眠らせてどうするの?」
「お前は知らなくていい。」
そんな会話をしながら、裕人たちは家に帰った。
★★★★★★★★★★
「………ふむ。」
「どうしたのー?」
「いや……。送り出したやつらから連絡が来なくてな。」
「死んだのかなー?まあさすが救世主ってとこだねー。」
「駒がいくら死のうが構わん。どうせあの女には逃げ場がないからな。じっくり行くさ……。」
「悪い顔してるねー。」
悪い笑みを浮かべる2人。しかし、彼らは知らない。化け物の巣窟の存在を。