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朝霧家の日常  作者: ピルリンガ
4/11

1-3

翌日の昼前、土曜日ということもあり朝霧家では裕人とユリルが机に向かい合っていた。華はバイトに行っている。

「んじゃお前に日本の常識を教えるぞ。」

「ニホン?ここの国の名前のことかしら?というか常識なんて知ってるに決まってるでしょ。」

「昨日テレビやインターホンに驚いたやつがよく言えたなおい。箸の使い方も覚えさせるからな。」

ちなみに昨夜と今朝のご飯はスプーンとフォークを使わせた。箸を使えなかったからだ。

「というわけで常識だが………………………人に暴力を振るったらいけないぞ。」

「当たり前じゃない!!私そんな常識ないって思ってんの!?」

「いや……弱肉強食を理念にして暴力を振るってきたやつがいてな……。」

7年前の話になるがあれは大変だった。家具がほとんど壊れて片付けとかものすごく大変だった。

「さすがに犯罪行為に関しては分かるわよ。」

口を尖らせるユリル。だけど常識って場所によってかなり変わるからその人が常識と思っていても実は非常識なんてよくある話だしなぁ。

ということでやったらいけないことを言ってみるが分かっていたらしい。「だから言ったじゃない…」と、少しいじけていた。

「悪いな。やったらいけないことが分かってるならいい。他にも必要な知識は少しずつ生活に慣れていけば嫌でも覚えるさ。」

この話は終わりだと示すように立ち上がる。

「んじゃ俺は昼ごはん作っとくからユリルは…」

「私も手伝うわ。」

「えっ?」

「何よその顔。世話になる身分なんだし手伝いぐらいするわよ。」

お姫様みたいな見た目なので、手伝いしないだろうなぁと勝手に決めつけていたので申し訳ない気持ちになる裕人。

「したくてやってることだしあまり気にしなくていいんだけどな。まあ手伝ってくれるなら助かるよ。」

こうして、2人でご飯を作ることになったのだが………。

パリィン! ボンッ!

不器用オブ不器用。家事をしたことないのを含めてもかなりの不器用さだ。手伝ってくれるという善意を無下にしたくないので、ユリルの不安になる行動を止めずに、怪我をしないか心配しながら作業する裕人。

「さっきも言ったけど怪我だけはすんなよ。」

「大丈夫よ、安心しなさい。」


ザクッ!


「っ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」

テンプレというかなんというか、野菜ではなく誤って左の人差し指を深く切ってしまった。

「言ったばっかだろアホ!早く洗え!」

切った部分を消毒するよう指示する裕人。しかし……。

「安心しなさい。確かに痛いけどこれぐらいなら……。」

「何がこれぐらいーーー。」

「ヒール。」

言いかけた裕人の言葉はユリルの言葉に遮られる。そして、その言葉を機にユリルの切られた手から淡い光が放たれる。そして、数秒後には包丁で深く切られていた人差し指は完治していた。

「どういう………ことだ………?」

ありえない光景に呆然としつつも、冷静に聞こうとする裕人。

「どういうことってそれはもちろん………………………なんでかしら?」

首をかしげるユリル。自分でも分かってないようだ。

「まあ怪我が治ってよかったけど……気をつけろよな。痛かっただろ。」

「ん。今度から注意するわ。」

そして料理を再開する。

ユリルが怪我をしないように慎重に作業をしたため時間はかかったが、怪我をすることなく無事に終わった。


★★★★★★★★★★


その日の夜、ユリルが風呂に入ってる間に、リビングで昼の出来事を華に話した。

「そんなことがあったんすか……。」

「ああ。華はどう思う?」

「私と同じってことっすか?確かに場合によっては世間に疎くてもありえるっすけど………。でもそれならお姫様の格好とかが気になるっすね。何より縛られた状態でリビングにいたことがおかしいっす。」

「だよなぁ。」

俺以外の家に住んでいるやつは全員、親父が連れてきたこともあって状況を多少は把握出来ていたが今回は違う。名前以外、何も分からないのだ。何も。

「まあなるようになるっすよ。今までみたいに。」

「それもそうだな。」

2人して笑い合う。そこに風呂から出たユリルが来る。

「どうしたの?何かあったの?」

「何でもないよ。それよりユリル。お前服とか欲しくないか?」

「え?それは欲しいけど……。」

俺の質問に戸惑ったように返すユリル。

「それなら明日買いに行ってみるのはどうだ?華が明日休みだしな。」

「いいっすね。私も久々に買いたいっすし。行こうっすユリル。」

「えっと……いいの?自分からお願いしたとはいえそこまでされるのは……。」

「気にすんな。毒を食らわば皿までってやつだ。(うち)で世話するって決めたんだ。心ゆくまで世話されろ。」

俺らの提案に遠慮する仕草を見せたが、俺の言葉に納得してくれたようだ。とても嬉しそうな顔をしている。

「それじゃ明日何時ぐらいに出るっすか裕人さん?」

「え?俺も行くの?」

華はともかく、ユリルは華と2人きりの方がいいと思うんだが……。

「もちろんっすよ!ユリルもその方がいいっすよね!」

「まあ………そうね。」

明るく聞く華にユリルが少し頬を染めて返す。そんなこんなで、2人の買い物に付き合うことになった裕人。そんな裕人の心境は……。

(行きたくねぇ……………!!)

朝霧裕人。今までの親父からの特に面倒な送りもの(人間)は全員女性だった。わざとか?と考えたこともある。その影響もあり裕人は女の買い物の大変さを知ってる。

その大変さは、10年以上経験しても慣れるものではなかった。


★★★★★★★★★★


そして翌日、裕人たちは徒歩2分もかからない近所のデパートに来ていた。

「な、何よこの人の多さ……!祭りでもあるの?」

「いや?特にないっすよ。」

「強いていうなら特売というお祭りだな。」

あまりの人の多さに驚くが、顔は少し楽しそうなユリル。

「そういえばずっと聞きたかったのだけど、来る途中にもいっぱい見た四角っぽい変なの何?デパート(ここ)の前にいっぱい止まってたけど。」

「車のことっすか?あれに乗って移動できるんすよ。」

「あんな速い乗り物があるの!?すごいわね……。何億…何十億するのかしら……。」

「いやそんなしねえよ。そんな高いものがこんなに普及してたまるか。」

ジト目でツッコミを入れる裕人だが見事にスルーされる。

「それより早く行くっすよ!」

「それもそうね……………ってなんで手を繋ぐのよ!」

華に引っ張られるユリル。そんな二人を微笑ましそうに見る裕人の姿は完全に孫を見るお爺ちゃんだ。枯れてると言われる原因の1つである。

「…しかし………さっきからなんか見られてる気がするわ。なんか、こう、嫌な感じの。」

「あー……。」

歩き始めてから少し経った後、ユリルが呟いた。ロリ体型だが、ユリルはまごうことなき美少女だ。そして華もものすごく可愛い。そんな2人が一緒にいるのだ。嫌でも注目を浴びる。主に男の、嫌らしい視線を。

(アホどもが来なければいいんだがーー。)

「ねえ2人とも。今何してんの〜?」

テンプレ・オブザ・デッド!裕人がフラグを建てた気がしないでもないが、テンプレ通りチャラチャラした3人組の男がナンパしてきた。

「うるさい。あんたたちには関けー」

「デートっす!ねえ裕人さん!」

「ん。つーわけなので、では。」

余計なことを言おうとしたユリルの口を塞ぐ華。そう言ってナンパ男から離れようとする。これは、指をモジモジしながら華が提案してきたナンパ対策だ。彼氏持ちとかデート中と言うと基本諦めてくれるのでいつもそう言うようにしている。それでもしつこく誘ってくるやつはいるが…。

「いいじゃんいいじゃん。俺たちと一緒に行こうよ。」

回り込まれてしまった!顔には出てないが華がイラッとしたのが分かる。ちなみにユリルは、「べ、別にデートじゃなーー。」と言いかけたところをまた華に口を塞がれていた。

「いやいや、デートって言ってるじゃないっすか。だから遊びの誘いはお断りっすよ。」

「楽しませるからさー。ね?そんな男よりも俺たちと一緒にいた方が楽しブガァゥ!!」

言いかけていた男の口は、笑顔のままの華のアイアンクローによって止められた。

「いっ、ガッ!アァァッ!!」

「なっ!お前何して…。」

「なんて言ったっすか?」

気温が急激に下がった。そう思えるほどに華の言葉には威圧感が込められていた。

「今なんて言ったっすか?裕人さんのことそんな男って言ったっすか?ふざけるなっす!あんたたちみたいに誰かをバカにする人と裕人さんを一緒にするなっす!裕人さんは世界一かっこよくて素敵な人っす!裕人さんは誰かのために自分を投げ出すことが出来るとっても優しい人で裕人さんは家事がとっても上手で他にもーー。」

「ストップ!やめろ!!気持ちは嬉しいけど恥ずかしいからやめてくれ!!」

裕人が急いで止める。そう、ここはデパートの中なのだ。ただでさえ人が多いのに、今の騒動でものすごい注目を浴びてるのだ。そんな注目を浴びてるなか彼女(と観客は思ってる)からの精一杯の惚気。先ほどまでの冷たい空気はなくなり、観客のニヤニヤとした生暖かい空気に変わる。顔から火が出そうな勢いで裕人の顔は赤くなっていた。

「俺のことはいいから!ありがとな華。じゃあ行こうぜ!」

「分かったっす!ユリル行こうっす。」

「だからなんで手を繋ごうとするのよ!繋がないわよ!?」

コソコソと逃げるようにその場から離れる。離れたあとには、たくさんのニヤニヤと物理的に顔が凹んでいた男の姿があった。



「この服はどうかしら?」

「とっても可愛いっす!ユリルのロリ体型………お子様体型にお似合いっす!!」

「殴るわよ。」

あの場から逃げ出したあと、服屋にやってきた裕人たち。現在、ユリルの試着タイムとなってから2時間経っている。

「いやぁホント可愛いっす。裕人さんもそう思うっすよね?」

「そうだな。ユリルにピッタシだ。」

「子ども体型って言ってるのかしら?殴るわよ!」

「さすがに理不尽すぎねえか!?」

褒めたのにこの反応。照れ隠しと思うのだが後ろを向いてるので表情が見えない。

「まあ洋服はもうそろそろにするっす。下着やパジャマもあるっすし。」

「そうね。この中から何着まで選んでいいの?」

「とりあえず上下合わせて10着ぐらいでいいか?それとも上下のセットで10着がいいか?」

「んー……。男子と比べて女子は服をいっぱい持つっすけど…最初は10着でいいんじゃないすか?どうせ嫌でも増えるっすし。」

「……………そうだな。」

遠い目をする裕人。朝霧家に住む人(家族)の分の洗濯物もする彼(下着だけは別)は女の服の多さを知っているからだ。毎日毎日違う服を着てるけど一人当たり最低でも50着は超えてる気がする。

「上下合わせて10着ね。どれにしようかしら……。」

今まで試着した服を主に選ぶユリルに気づかれないように気配を消しながら抜け出す裕人。そして裕人のあとをつける華。

「………死角にいたし気配も消したはずなんだが。」

「裕人さんの考えぐらい分かるっす。裕人さんにばっかいいとこ譲らないっすよ。」

悪戯っぽい笑みを浮かべる華。

「…分かったよ。」

自分の考えを見抜かれたことに照れくささを覚えた裕人は誤魔化すように頭をかきながら急いで服屋を回るのだった。




「いやー楽しかったっすね〜。私も色々と買ったっすし。ユリルはどうだったっすか?」

「ま、まあまあね。人がいっぱいいたけど、また来てやってもいいわ。」

現在、買い物も終わり、家に帰り着いたので風呂に入っている華とユリル。

「いやーでもユリルのお買い物は可愛かったっす〜。ワタワタして…ふふ。」

「し、仕方ないでしょ!初めてだったんだから!」

精算時、ユリルにお金を持たせてやらせてみたのだが、買い物自体初めてのようで、その上、数字は分かるが金の単位が分からないという感じでかなり戸惑っていた。裕人の華の中で、何者なんだという疑問がさらに深まっていた。

「そういえば昨日の棚の中ってブカブカの服しかなかったと思うんすけどどうしたんすか?」

「ギクッ!」

華の素朴な疑問に硬直するユリル。それを見て華は一瞬で理解する。そして、ものすごい笑みに変わる。新しいオモチャを見つけた。悪戯心満載の悪い笑みだ。

「ほうほうー。ユリルったら〜。どんな姿で裕人さんを誘惑したんすか〜?枯れ気味とはいえ裕人さんも男子高校生っすからね〜。どんな格好してたか教えゲフッ!」

「うるさいバカ華!」

浴室に、パァン と小気味いい音が響いた。



「あれ?なんで華ビンタされ…………まあお前だしな。」

風呂から出た華のほっぺたにあるビンタのあとを見てそんな感想を抱く裕人。

「裕人さん!?その評価は納得いかないっす!!」

「お腹空いたし華は放っておきましょう。」

「そうだな。準備出来てるぞ。」

「あれ!?新参者のユリルにもこんな扱いっすか私!?」

納得いかないという顔をしているがよくあることなので裕人は気にしない。ユリルも華はこういうキャラということで気にしていない。

「そんじゃ食べる………前に渡しておくか。」

「え?どういうこと?」

ユリルの疑問を無視して違う部屋に向かう裕人と華。そして、オシャレな紙に包装されたナニカを持って部屋に戻ってくる。

「えっと………2人とも?」

よく分からないユリル。ユリルの疑問を裕人が解消する。

「朝霧家にようこそっていうプレゼントだ。受け取れ。」

「私からもっす!これからよろしくっすよユリル!」

2人から差し出されるプレゼントを呆然と見るユリル。

「え……?……………プレゼン……ト………?ホントに………いい……の…………?」

「いいに決まってんだろ。というか受け取ってくれなかったらこれはゴミとなるから受け取ってくれないと困るぞ。」

裕人の言葉に、おそるおそるプレゼントを受け取るユリル。

「開けていいぞ。」

ビリビリッ!

開け方なんてどうでもいいとばかりに勢いよく開けるユリル。そして中身が出てくる。裕人からはワンピース。華からは腕時計だ。

「………。」

「被るようで悪いな。しかし腕時計があったか。思いつかなかった。」

「10年以上女子にプレゼントする機会があったのに未だ女心が分かってないっすもんね。」

「うっさいアホ。女心と秋の空って言うだろうが。」

「いや…それ絶対意味違うっす。」

見る人によっては夫婦漫才と思われそうなやりとりをする2人。そして……。


「……ヒック」


「「………え?」」

聞こえた声の方を向く。そこには、涙をポロポロとこぼすユリルの姿があった。

「え、えっと…ユリル?」

「だ、大丈夫っすか!?どうしたっすか!?」

ユリルの姿にしどろもどろになる2人。まさか泣かれるとは思わなかったからだ。

「う、うるひゃい……!別に泣いてなんか………いないんだから……ヒッグ」

完全に泣いているユリルを前に何も言えなくなる2人。


「別に……嬉しくなんて……ないんだからね。」


頰を染め、眼の端に涙を溜めて上目遣いで見てくる。そんなユリルの姿を見た2人の反応は…。

(これは……!)

(可愛すぎるっすぅぅーーーー!!!!)

あまりの衝撃に、華がユリルに抱きつき、またビンタを食らう華であった。

ジャンルに学園とアクションって入れたけどいつになるのか……。

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