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朝霧家の日常  作者: ピルリンガ
3/11

1-2

「ねえあんた、名前は?」

「ん?聞いてないのか?裕人だ。朝霧裕人。」

「裕人ね。それより早くほどいてくれないかしら?この縄、結構痛いのよ。」

なんか俺が縛ったみたいな言い方だな……。と思いつつも口にせず縄をほどく裕人。

「……早いわね。経験があるの?」

「まあ縛ることも縛られることも多少はな。」

質問に答えながら縄をほどき終えた裕人にどんな経験してるのよと思ったユリル。

ぐ〜〜〜

「………………………。」

可愛らしい音が部屋に鳴り響いく。ユリルを見ると、顔だけでなく耳まで赤くなっていた。

「…ちょっと待ってな。」

そんなユリルを見て、優しげに微笑む裕人。

「…何笑ってんのよ。」

「悪い悪い。ご飯作っとくから。」

微笑む裕人を見て、からかわれたと思ったユリルがいじけたような顔を見せる。裕人は困ったように、でも優しい雰囲気を出しながら台所に向かっていった。

「…何か………不思議な感じね」

台所でご飯の準備をしてる裕人を見ながらそんな感想を抱くユリル。

記憶喪失で、起きた先には見知らぬ男がいて、しかも縛られていた。不安しかないはずなのに、

(何でこんなに安心するのかしら……。)

自分でもよく分からない。だけど、裕人()の側にいたらなぜか安心が出来た。見た目か、雰囲気によるものか、それは全く分からないが。

ピンポーン

突如、家中に鳴り響いたインターホンに、思考にふけっていたユリルがものすごく驚く。座っていた体を垂直にジャンプさせて。

「ゆ、裕人!今のは何っ!?敵襲!?」

台所で料理をしてる裕人のもとに急ぐユリル。

「あー………違う違う。インターホンって言ってな、誰かが家に着きましたよーって合図してくれるもんだ。」

少し間を空けたが、ユリルの疑問に答えた裕人は玄関に向かう。

「ふーん。便利な道具があるものねー。」

先ほどの焦った表情はなくなり、感心したように裕人についていくユリル。別についてきても問題はないのでそのままにしておく。

「おかえり(はな)。また鍵を忘れたのか?」

ガラガラ と横にスライドさせるタイプの玄関を開け、からかうように話しかける裕人。

「ただいまっすよ裕人さーん。それとまたってなんすか。まあ忘れたんすけど。」

玄関の先には、華と呼ばれた可愛らしい笑顔の少女が立っていた。

身長は155cmぐらい。金髪の髪をツインテールで結んでおり、ギャルという言葉が似合う可愛い系の女の子だ。

「あれ?そこの可愛い子は誰っすか?まさか彼女っすか!?弥生ちゃんや私を裏切るっすか!?」

「違えよ。しかも何でお前らを裏切るって言葉が出るんだ。親父からのだ。」

「さすが鈍感な枯れ男っすね。しかし、またガブさんっすかぁ。」

「おいこら。俺は枯れてねえし鈍感でもねえよ。」

裕人のツッコミを無視し、華はユリルの方を向く。

「華っす!よろしくっすよ!」

「ユリル・フェミナスよ。よろしく。」

嬉しそうに自己紹介をする華に対し、ユリルは素っ気なく返す。

「…んじゃ、2人はリビングでゆっくりしといてくれ。俺はご飯の準備しとくから。」

「了解っす!それじゃ行くっすよユリル。」

「っ、分かったから手を離しなさい。」

ーのコミュニケーションに戸惑いながらもリビングに2人仲良く向かっていき、裕人はキッチンに立つ。にしても……。

「俺ってそんな枯れてるように見えるか…?」

学校の友達にもよく言われる台詞に、裕人は眉をひそめるのであった。



「はぅ………。こんなに美味い料理は初めてだわ。」

「全くっすよー。裕人さんの料理はすごく美味しいっすー。」

リビングでくつろぐ3人。

家庭の環境場、自分で家事をすることが普通だったのだが、こうして純粋に褒められるのはもちろん嬉しい。

「ありがとな。ユリルはどんな料理を食べてたんだ?」

記憶喪失のユリルの出自を知るためにも聞いておく。

「ん?えっと……。基本肉とスープとパンだったわ。」

「肉の種類とかわからないか?」

「んーー……。……悪いわね。分からないわ。」

悪いわねと言いながら全く悪びれた様子もなく返してくる。

「別にいいっすよー。ただの記憶喪失とは思えないっすけどまあガブさん関連ですし?変わり者なんすよ。」

「お前それブーメランだからな?」

しかも、よく本人の前で変わり者って言えたなこいつ。

「というか記憶喪失って結構曖昧っすよね。ドラマで見たのでしたら、常識とかは覚えていたけど名前は覚えてなかったすし。」

あくまでフィクションっすけどねと付け加えるー。

「ねえ。聞きたいことがあるのだけど……。」

ユリルが困ったような顔をしてる。

「どうした?」

「えっと……一番最初に聞いた時から思ってたんだけど……。」

そして、ユリルは言いづらそうに答える。

「ガブリエルとかお父さんとか………………………誰のこと?」

「「……………………………え?」」

ユリルの言葉に固まる2人。

「会って……ないのか?右目に眼帯をしてて、腰ぐらいまである青色の髪の男に……?」

冷静に聞こうと努める裕人だが、動揺が顔に出てる。ちなみに、朝霧ガブリエルは見た目に関してもかなり有名だ。

「知らないわ。」

裕人は思い込んでいた。同じようなことが何回か会ったし、リビングで縄で縛られた状態で寝ているという特異性から、親父からの送りものと。

だが、華が送られてきた時も、親父はちゃんと説明をしていた。自分自身のことも、俺のことも、朝霧家の環境のことも。

気まぐれな人だが、そういった礼儀だけはちゃんとしてる人だ。

「…………………………謎が増えたっすね。」

「………今までより面倒ごとも増えるかもな。」

記憶喪失の、気づいたら朝霧家のリビングにいた少女(ユリル)を見て、これからのことを考える2人であった。



「とりあえずユリル。お前はどうしたいんだ?場合によっては警察に届け出ないといけないけど。」

親父と会ったことも忘れてしまったという可能性がないわけではないが、親父の関係者じゃなかった場合、誘拐犯と思われてもおかしくない状況なのだ。警察に保護を求めるのは当たり前である。

少しの間、考えこむユリル。

「そうね…。警察って兵士みたいなものかしら?」

「兵……まあ間違ってはないんじゃねえの?知らねえけど。」

「じゃあ嫌。私ここに住むわ。ご飯も美味しかったし。ダメかしら?」

ダメかしらと聞きながら、表情は住む気満々である。

「まあ……俺も少しは稼いでるし、多分親父にお願いしたらお金も問題ないとは思うが……。」

「あの人の行動原理はおもしろそうっすもんねー。」

事情を説明したら、あの男が面白そうという理由だけでお金を振り込んでくることは予想できる。その面白そうという理由で、今までものすごい危険な目に遭ってきたが。

「じゃあーー」

「だが1つ、条件がある。」

「えっ…………、何かしら?」

住んでいいと言われるかと思って笑みを浮かべていたら、条件と聞き不安になるユリル。

「安心しろ。そんな難しいことは言わねえから。」

そう言って人差し指を立てる裕人。

「勝手にいなくなったり、死んだりするな。それだけだ。」

「?……分かったわ。」

記憶喪失から戻ったからといって、勝手に家から出ていったりするのは失礼すぎるし、死にたいなんて思うわけもない。裕人の真剣な表情に、ユリルは答える。

ユリルの返答に、先ほどの真剣な表情が嘘のように優しい表情に戻る。

「このギャップは反則っすよ……。」

横で見ていた華が頰を赤く染めて呟く。

裕人の表情を目の前で見ていたユリルも頰を赤く染めていた。

「そんじゃ俺は親父に連絡しとくから。お前らは風呂にでも入っとけ。」

「分かったっす。一緒に風呂入るっすよユリル。」

「…別にいいわよ。」

2人は風呂に、裕人は父親に連絡するため専用の固定電話に向かった。



「いやーしかしスベスベっすねユリルの肌。羨ましいっすよ。胸以外は。」

「褒めたと思ったら貶すとはいい度胸ね華。殴るわよ。」

「ご、ごめんっす。だからその手を下ろすっす。」

浴槽に浸かり、気持ち良さそうな顔の2人。恐怖と怒りで満ちた顔になったが。ちなみに、家と同じで風呂もかなり広い。

「しかし、アレね。あの男はお人好しってやつかしら?初対面の人にここまでしてくれるなんて。あんたもだけど。」

「そうっすねー。私はそれほどでもないっすけど、裕人さんのお人好しっぷりは異常っすよ。…………………………こんな私を受け入れてくれましたし。」

「最後なんて言ったの?」

「な、何でもないっす!」

誤魔化すように話すが、のぼせたと勘違いしそうなほど、頰が紅潮している。

「それで、裕人ってどんな人なのかしら?なんか雰囲気というか……只者じゃないという感じ?」

「周りの環境が特殊なだけのちょっと変わった高校生……っていう自称っすよ。裕人さんのこと知ってる人はほとんどがちょっとじゃないって突っ込むっすけど。」

苦笑いしながら答える華。

「まあいつか分かるっすよ。裕人さんのことは。」

裕人にかなり興味を持つユリルだったが、これ以上話す気配がない華を見て質問するのをやめた。

「もう出るわ。あんたは?」

「私はまだ少し入っとくっす。着替えは左の棚に色々入ってるから好きなの選べばいいっすよ。」

「分かったわ。」

ユリルが風呂から出て、少し経ってから思い出す。

「服のサイズとか全く考えてなかったっすけど……大丈夫…………………っすよね?」



『何だよそんな面白そうな話!ずりーぞ!!』

ユリルのことを話した親父の反応は予想通りだった。

「うっせえバカ親父。で、どうだ?お金は?」

『そんな面白そうな話を断るわけねーだろ!!追加で一人分振り込んどいてやるよ!』

「サンキュー。んじゃ切るぞ。」

『おう!他にも色々しとくぜ!面白そうな話があったらまた連絡しろよ!』

そう言って裕人の父親、朝霧ガブリエルは電話を切った。久しぶりに話をした父親に、全く変わらないなぁ、少しは大人しくなっとけばよかったものの。と、思った裕人。

最後の、『他にも色々』が気になったが、面倒ごとは起こしても、悪いことは基本起こさないから信頼しても大丈夫だろう。………多分。

お金の心配もなくなり、無駄に広い家なので、部屋に関しても大丈夫だが、それでも問題は多い。

俺や華が学校に行ってる間の時間、常識などの知識。そして、あいつ自身が抱え込んでそうな問題など考えることはたくさんある。

「弥生と同じようにすればいっかな……。」

「ヤヨイって?」

「ああ、妹のことだよ。まあ妹といっても義理だけどな。というより、華とかここに住んでるやつは全員義理の家族ってことになってるな。」

「ふーん。それなら私も義理の家族になるのかしら?」

「可能性がないとは言わな………。」

そう言いながら振り向く。後ろから近づいてくる気配を感じていたので、急に話しかけてきたことには驚かない。が、格好がおかしかった。

その格好は俗にいう裸ワイシャツというやつだった。ものすごい美少女だが、ロリ体型ということもあったのでそういう目では見ていなかったが、裸ワイシャツという格好のせいで嫌でもそういう視線を向けてしまう。

「おまっ……!なんでそんな格好してんだよ!!」

「仕方ないでしょ!着替えのところから探しても全てブカブカでズボンとかは全部脱げるのよ!」

だから上の方しか着れなかった、と顔を染めて言うユリル。

「お、お前に合うやつ持ってくるからリビングで待ってろ!そんな格好で歩くなよ!」

「お願いするわ。この格好、さすがに恥ずかしいもの…。」

じゃあ着る前に聞けよ。と思ったが、世話になる身分ということもあって遠慮でもしたのかと考えると何も言えなくなる裕人であった。


★★★★★★★★★★


その日の夜、少女は夢を見ていた。

燃え盛る炎の中に私はいた。とても大変だったけど、何かのために私は頑張っていた。

今度はとても暗くて冷たいところにいた。なんでそんなところにいたのかは分からない。ただとても辛くて、嫌な気持ちだった。

そして今、私はとても暖かい何かに包まれていた。

初めての感覚だった。くすぐったいような、嬉しいような。

ただ、その暖かい何かは、とても安心出来るとこだった。

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