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朝霧裕人はかなり特殊な男子高校生だ。
裕人自身も普通とはかけ離れたスペックを持つが、何より特殊なのは裕人の周りの環境である。
その特殊な環境の一つとして、裕人の父親、考古科学者の朝霧ガブリエルが挙げられる。いじめられていたとしか思えない名前、考古学者としての能力、そして、どれだけ変人かということで、考古学者の間だけではなく、世間的にもかなりの有名人でもある。
そんな裕人の父親は、仕事柄の関係か色々な物を家に送ってくる。幸運を招く壺、呪いの仮面、必ず洗脳できる提灯などそれはもう怪しさオンパレードの物ばかりである。
しかし、その中でも、特に面倒な送りものがある。
「はぁ……。」
学校から家に帰り着き、リビングに辿り着いた時、裕人はため息をついた。
(くっそ…あのアホ親父…。送るときは連絡しろってあれほど言ったろ…。)
心の中で悪態をつく裕人。視界に、親父からの特に面倒な送りものが入ったからだ。
その送りものは眠っていた。身長は140cm程度。お姫様が来てそうな、見るからに豪華なピンク色のドレスに、腰まであるウェーブのかかったピンクの髪。そして、ものすごい美少女である……のだが、なぜか縄で縛られていた。
ここまで説明すれば分かるだろう。特に面倒な送りもの。そう…。
人間である。
★★★★★★★★★★★
このまま放置するのもアレだから起こすことにする裕人。
「おーい起きろー。」
「すぅ…すぅ…。」
声をかけてみるが全く反応しない。
「おーい。起きろー。」
今度は揺さぶってみるが結果は変わらず。全くの無反応だ。
「おーい。」
「ん……。にゃに……?」
今度は反応があった。頰をペシペシ叩きながら呼びかけた甲斐があったものだ。
「起きたな。今どんな状況か分かるか?」
「……強姦?」
「なんでだよ!!!!!!!」
縄で縛られた状態で、起きた先には見知らぬ男がいた。たしかに、強姦と間違えられてもおかしくない状況である。
「キャーーーーーーーーーーーー!!!!」
眠そうにしていた少女だが、意識がハッキリした途端、悲鳴をあげはじめた。
「助けてーーーーー!!!襲われーーーーーー!!!!」
「ちょ、おま……誤解だ!」
「何が誤解よ!!縄で縛ってる時点で説得力0よ!!誰かー!!」
裕人としては誤解としか言いようがないのだが、少女は聞く耳を持たず、悲鳴をあげつづける。
そんな状況が五分くらい続いた。
「はぁ……はぁ……。なんで………助けが来ないの……?」
五分間ずっと叫び続けていたので少女は息を切らしていた。
「この家かなり広いしなぁ…。近所に聞こえてないんだろ。」
「くっ!縄で縛ってるといい準備万端じゃない。よく誤解なんて言えたわね!」
キッと目つきを鋭くして睨んでくる少女に、裕人は困惑する。少女が何と言おうと、裕人にそんなことをする気はないのだから。
「落ち着けってーの。俺はお前に何かをするつもりはない。するつもりならとっくにしてる。」
「………………………それじゃあ、何で私はこんなことになってんのよ。」
裕人の言葉に、少しだけ納得したような顔を見せた。少しだけだが。
「知るか。俺が帰ってきたらそんな格好だったぞお前。逆にここに来るまでのことを覚えてないのか?」
「ここに来るまで……。」
そう言って少女は考えこむ。縄で縛られながら。
「…………ないわ。」
「え?」
少女は暗い表情で答えた。
「ユリル・フェミナス。名前以外、何も、覚えてないわ。」
少女の言葉を聞き、裕人は思い出す。父親からの送りものによって起こった出来事を。
(何事もない………なんてこと、あるわけないよなぁ。)
これからどんな問題が起きるのか。それを想像した裕人はため息をつくのであった。