ダッシュボードの中身とアランからのお誘い
バタン。
うん、私は何も見なかった。
幸い石竜子は私がダッシュボードを弄った事に気づいていない。
大丈夫。
落ち着け。
「…お嬢様?」
ドアが開いても反応しない私に石竜子が声をかける。
びくっとしてしまう私。
落ち着け!私!!
私は平静を装い車から出た。
「…通り。」
石竜子が何か言いながら後ろからいつもより私を見ている気がするがきっと気のせいだと思うので敢えて振り返らない。
逃げるように家に入る。
これから、宿題やって課題やって筋トレして…あ、筋トレはダメだってお医者様から言われてた。
あー、とにかく、やらなくてはならない事がたくさんあるのに心がざわめく!
私は自室に入りベットにダイブした。
頭を整理しよう。
階段から突き落としてくれた犯人を捜す。
これ、マスト。
でも、捜すあてが今のところないのでとりあえず保留。
それより、先程見てしまったアレだ。
ダッシュボードに入っていたアレ。
アレを見てから改めて石竜子の顔を思い出す。
…なんで気づかなかったのだろう。
しっくりきすぎる。
思えば、彼は私に近すぎた。
私に触れる事に一片の躊躇いもない。
それも全ては…。
顔が、いや、彼が触れた場所全てが熱くなる。
思い出すのはあの時の…
自然と口元に手がいく。
ふと、頭にノエルの顔が浮かぶ。
これ、話したらどうするんだろう?
どうするかはわからないが、話すのを躊躇う私は少しおかしいのだろうか?
…♪
ふいにスマホが私を呼ぶ。
私はディスプレイにアランの名前を確認して出る。
「良美?今、大丈夫?」
「…ええ、大丈夫よ。」
「良美、学校がもう少しで夏休みなんでしょ?
休みになったらバカンスに僕の国へおいでよ。」
私はアランルートを知らない。
知らないが乙女ゲーマーとしての勘が囁く。
イベントだよ、と。
勿論、断るという選択肢も与えられている。
でも、それをノエルが許さないだろう。
それに、私も気分転換にバカンスしたい。
そういえば去年買ったが披露する事なくおわった水着があったな。
「…いいよ、綺麗な海希望」
「勿論!海辺のコテージを用意するよ!」
電話越しでもわかるハイテンションなアラン。
私の心情など知る由もない。
「じゃあ、日時は改めて知らせるね」
言って電話が切れた。
私はスマホを放り投げる。
顔を両手で覆う。
考えたくない。
婚約者を選ぶ事も階段突き落としの犯人の行方も
見てしまった石竜子のアレも。
いっそ逃げ出したい。
できるはずもない事が頭をよぎり、私は自嘲した。
私はダッシュボードから取り出す。
今日、このタイミングで、お嬢様がこれを見る事は分かっていた。
次はトランクの中身だ。
その次は…
そして、私は選ばれる。
手に入れてみせる。
初めて会ってから何年経つでしょう?
指折り数えてあまりの年数に立ち眩む。
…もう少し。
…あと少し。
手に入れる。
アラン。あの時は邪魔されたけど、もうそんな真似はさせない。
手に入れる為なら手段は選ばない。
私はアランのように優しい人間ではないからね。
今頃愛しいお嬢様は…。