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第一発見者は探偵と化す

彼女とは挨拶位しかした事がなかった。

彼女の事は何一つ知らない。

そして、給湯室の横には例の階段。

体が強張るのを止められなかったのは仕方ないと思う。

そんな私の状況に気付かず、彼女は給湯室内にダンボール箱を運び入れた。

中身はコーヒー粉、お茶っぱ。

どうやら、補充に来たらしい。

「そこ、開けたいんだけど。」

「あ、すみません」

私は慌てて、場所をかわる。

彼女は棚を開けてダンボールの中身をどんどん詰めていく。

詰め終わるとダンボールを潰す。

その一連の動作を見ていた。

彼女と目があう。

「…大丈夫だった?」

「へ?」

「階段から落ちたって聞いたけど。」

ああ。

聞いたのか。

私はまさかその件で心配して貰えるとはおもわず驚く。

「大丈夫でしたよ。」

「入院したって聞いたよ?」

「検査入院ですよ。」

へらっと笑う。

「倒れて気を失った貴方を見つけた時は息が止まるかと思ったわ。」

「もしかして?」

「私が第一発見者よ。」

なんと!

「その節はお世話になりました。」

「いいのよ、別に。でも、不思議よね。」

「何がです?」

「貴方、誰かに突き落とされたのよね?」

顔が強張る。

「何故、そう思うのですか?」

「倒れた貴方の背中に足跡がくっきりと…」

「…」

「それなのに警察はすぐに事故扱いで帰っていくし…」

背中に足跡が残っていたのは初めて知った。

目が覚めて見た事件時着ていた服はクリーニング済みだったからだ。

「…どんな足跡だったんですかね?」

「どんなって…」

彼女は困ったような顔をする。

余りに抽象的な、そして答えにくい質問だからだ。

「大きいとか、女の足跡くさいとか…」

言われて彼女は考える。

「…うーん、多分、男性の足跡だと思うよ。」

「なんでそう思うのですか?」

「私達女性はハイヒールを履くでしょ?」

言って彼女は足を指差す。

指の先にはハイヒール。

彼女だけじゃない、この会社に勤めていてハイヒールを履いていない女性は私だけである。

「私は探偵でも警察でもないから絶対じゃないけど、さすがにハイヒールと男のシューズの足跡の違いはわかるというか…」

確かにあそこまで形態の違う靴だ。

残った足跡もだいぶ差があるだろう。

「成る程」

「ねえ、やっぱり貴方誰かに突き落とされたのよね?」

「うーん、ちょっと記憶に曖昧なんですよね」

適当に話を濁す。

「もし、突き落とされたとしたら犯人の動機はなんなのかしら?」

彼女は探偵モードに突入した。

「父じゃないですか?」

「そうかしら?」

彼女はそれを否定する。

「確かに社長の社員への当たりは強くなって気に入らないとは思うけど、いくらなんでも階段から突き落とすのはやりすぎな気がするのよ。」

私もそう思います。

でも、実際やられたからね。

「と、いうことはプラスで何かあるのよ!」

「何かってなんですか。」

「私、わかったの。」

ニヤリと彼女は探偵らしからぬ笑みを浮かべる。

「ズバリ、男よ!」

「…はい?」

「私、見たのよ、会社前で彼氏に送迎して貰っていたでしょう?」

…はっ!

退院した日を言ってるのか。

「で、今日はその彼氏と出社。」

彼女から威圧を感じる。

「犯人は貴方の事が好きだった。にも関わらず、貴方には彼氏がいる。…手に入らないならいっそ死ね!と思い犯行に及んだ…」

「いや、無理ありますよね?」

「やっぱり?」

彼女はてへっと笑う。

「でも、あの彼氏、本当は彼氏じゃないよね?」

びくっ!

何この人!?

「な、なんでそう思うのですか?」

「言ったでしょ、送迎の現場を見たって。」

彼女は肩をすくめる。

「彼氏彼女の関係なら後部座席じゃなくて助手席に乗るよね。」

た、し、か、に。

「まるで、使用人とご主人様みたいだった。

でも、うちの会社の規模を考えると使用人を雇うなんて経済力あるわけない。」

彼女は人差し指をぴっと立てる。

「そして、改めて社長と貴方の様子を思い返すと、社長が貴方にへりくだっているようにも見える。」

ここで彼女はびしっと人差し指を私に向ける。

「ズバリ、貴方と社長は親子関係にはない!

むしろ、社長より貴方は目上の存在!

取引先の娘さんとみた!」

何この人!!

ほぼ、正解じゃねーか!

たった一度石竜子に送迎されているのを見ただけでそこまでわかるの?

「い、いやだな。私と石竜子は…」

「婚約者ですよ?」

ふいに石竜子の声がする

後ろから抱きしめられている事に一瞬遅れて気がついた。

「な、何故にここに!?」

「何故って帰ってこないから心配してきたのですよ。まだ、お茶出してないんですか?」

はっ!!

「やばい、忘れてた!」

私は慌てて石竜子の腕から逃れると、お茶を用意し会議室へと急いだのだった。


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