元悪役令嬢、喧嘩を売られる。
ゾッとした。
自分の未来は自分で決めたいのに、いつの間にかゲーム通りの展開を歩んでる。
それはゲーム補正より怖い事実だった。
「ぶっちゃけ、ドラゴンって誰だと思う?」
「さあな。でも、こういうのはお約束ってのがあるだろ。」
「お約束?」
「過去にあった事があるとか。」
「仮面をかぶるような知り合いはいないな。」
「素顔で知り合っていて、正体をしられたくない。」
「…」
自分の過去を振り返り、その可能性を考える。
男性の知り合いなんて数少ない。
その中で私と釣り合う地位や血筋を持つ人間なんていやしない。
「考えてもわからないわね。」
ドラゴンの正体。
ヒントは身長と髪の色。
茶色の髪。
高身長。
「因みにドラゴンを画面でみるとこんな感じ。」
紙を取り出しペンですらすらと書いていく。
…ってうまい!
思わず目を見張る。
「凄い!器用ね。」
「子供の頃は漫画家になりたかったからな。」
「へぇ。」
「現実はゲーム会社勤務だったけど。」
おや。
「へぇ。奇遇ね。私も前世じゃゲーム会社に勤めていたわ。」
「お前も?」
意外な共通点に花が咲く。
「だからって訳じゃないけど、ラブ&マネーも勉強って事でやりだしたのよ。」
このゲームはライバル会社から発売されていた。
私はゲーム会社では企画も開発も担当していなかったが、いつかはやりたかった。
だから、少しでも肥やしになればと手を出したのがこのゲームだった。
元々大好きだったから勉強にかこつけて経費で買ったんだけどな。
「へぇ、じゃあ、案外死因も同じだったりして。」
思わず私達は前世に思いをはせる。
やめよう、意味がない。
「まあ、死因はともかく。2次元に直すとこんな感じなのね。」
「色もつけよう。茶色のペンある?」
「ないわよ。黒ならあるけど。」
「とりあえず、黒でいいか。」
絵に色がつく。
髪は黒だけど、それ以外の色はあったので結構忠実だ。
「2次元に直すとかっこいいわね。」
「アランはもっとだぜ!」
調子にのって隣にアランも書く。
おー!
イケメンだぁ。
「ノエルはどうなる?」
楽しくなって聞く。
「俺はこんなキャラ。」
わぁー。
私は絵と本人を見比べる。
似てる似てる!!
「話が脱線した。
こうして絵に直せば前世の知識と合わさって何かがわかるかとも思ったが…。」
「さっぱりね。」
でも、楽しかった!
久しぶりに私は笑った気がした。
そんな話をした数日後。
私は床に伏していた。
その数秒前に私は階段の上にいて、背中に衝撃を感じたのだ。
要は階段から突き落とされたのだ。
最上階から最下階までいっきに。
よくさ、乙女ゲームで主人公が虐められるシーンで階段から突き落とされるってのがあるけど、気軽に再現とかやめてほしい。
最初にダメージを受けたのは顔。
次に腕。
腕で落下を止めようとしたが、追撃があり失敗に終わる。
転がるというより滑り落ちた。
一番強打したのが、顔面だ。
顔というより、頭か。
首も痛い。
腕も足も蹴られた背中も。
ここは社内。
犯人は限られてくる。
見つからない自信があったのか?
だとしたら、馬鹿だと思う。
それとも私が黙ってると思ったのだろうか?
だとしたら、私の性格を知らなすぎる。
言っとくけど、
ただじゃすませないよ?
階段から突き落とされるのはか弱い主人公と相場が決まっているんだ。
元悪役令嬢あがりの主人公は一味違う。
骨の髄までわからせてあげる。
床から立ち上がることさえ出来ない状態で私は
心に誓ったのだ。
売られた喧嘩は買ってやる。