悪役令嬢の憂鬱
私が通っている会社は北帝の商品を作る上で必要なネジを作成している。
北帝以外にも取引先はあり、社内は主に
営業、営業事務、工事勤務の三形態に分かれている。
私は営業事務にあたる業務の触りをやっている。
最近の私のスケジュールはこうだ。
朝5時起床
6時マラソン
8時登校
13時早退
14時出勤
18時退社
19時帰宅
20時筋トレ
21時勉強
23時就寝
中々の充実ぶり。
頑張ってる!
自画自賛していたら、どうもアランは婚約者候補という事で北帝関係の会社を回っているらしい。
と、いう事はドラゴンも回っているのだろう。
仮面つけてんのかな?
アランと一緒に回っている訳ではないとの事なのでそこは不明だ。
皆頑張ってるという事だ。
だからね。
今日も私のおやつがなくてへこんでる場合じゃないんだよね。
毎日3時になると営業事務の子が交代で社内にいる社員にお茶とお菓子を配る習慣がある。
お茶もお菓子も経費で人数分買ってるはずなんだけどな。
いつも、一個足らないんだよね。
私は仕事で大きなミスはしていない。
電話で失礼な日本語を使ったりしてない。
ビジネスマナーも覚えたからお茶の出し順とかも間違えてない。コピーも取り慣れたし、詰まっても直せるようになった!
正社員じゃないから情報漏洩の観点でデータ入力とかメイン業務は出来ないけど、できる事はやってるつもりだ。
少なくても怒られてはいない。
な、の、に、
おやつがでない!
給湯室に行くとそれまで楽しげに話していた女子社員が静かになって出て行ってしまう。
原因として思い当たるのは社長が私がいる時限定でやたらと社員を叱る事くらいか。
女性、男性、関係なく、叱りつける。
私が来てから、営業成績表なるものが張り出されるようになり、しょっちゅう男性社員は社長に叱られている。
女性に対しては、掃除が行き届いてないだの、花を飾れだの、お茶はもっと早く出せだの、小さい事をわざわざ大きな声で叱る。
営業成績がすこぶる悪いなら、叱られるのもわかる。
しかし、決してそんな事はないと思う。
まあ、目標値がわからない私はあくまで主観だが。
掃除だ花だお茶出しのタイミングだ、このあたりは言いがかりだとすら私は思う。
掃除は業務に含まれてない。
花は経費で落ちない。
お茶出しのタイミングに至っては来客があった事を営業さんに伝えてもらってから入れるのだから、座ってすぐに出すのは不可能だ。
社長は私がいると無茶苦茶な事を言って威張りちらし、社員を困惑させている。
私がいないと、気の優しい良い社長らしい。
最初は良美ちゃんがいるから社長も張り切っているのね!と苦笑していた社員も今じゃ私に冷たくなった。
私は勿論、社員をかばう。
なんの効果もない、逆に火に油を注ぐ結果を生む事もあるので、何も言うなとオブラートに包まれて言われてしまった。
私の調べによると優秀な社員は転職を考えているらしい。
まあ、社員は私の事を社長の娘だと思っていて、高校卒業後はこの会社の正社員になると思っているのだ。
そりゃ、逃げ出すわ。
寧ろ、おやつ配らない程度で済ませる彼らは優しい。
私が社長に苦言を呈するのはどうか?
目を覚ますだろうか?
なんか、無理くさい。
二人きりになると、超へり下るからね。
その場では調子の良いことを言っても、理解はしてもらえない気がする。
このまま、ほおっておいてよいのかな。
「…どう思う?」
私はアランが泊まっているホテルのラウンジでお茶をしている。
偶には、ホテルでティータイムも悪くない。
もしかしたら、仮面を被った怪しい人物を見つける事ができるかもだし。
「よくあるよね。自分を大きく見せる為に部下を叱りつける人。」
「よくあるんだ。」
「うん。僕もよくそういう場面にでくわす。」
「アランも?」
「うん。でも、僕は長くても一週間で他社に行くからダメージは少ない」
「そうかぁ。」
私のダメージはいいんだ。
これが原因で優秀な社員が他社に流出して万が一にも会社が潰れたらどうしよう。
よく言えばアットホーム、悪く言えば零細企業なこの会社なら可能性は0じゃない。
「良美が心配だよ。学校でも嫌な思いをして、会社でも嫌な思いして…せめて、今くらい心を休めてほしいな。」
言ってアランは私のとなりに移動して、手を握る。
「お離し下さい、アラン様。」
途端、後ろに控えていたはずの石竜子がするりと横にやってきて、アランに注意する。
「呼んだ覚えがないんだけど?」
「良美様の身に危険がせまれば自主判断で行動します」
「僕は婚約者だよ?手くらい握るでしょ?」
「候補ですよ、良美様のお手に触れるなど恐れ多い」
「仲を深める必要があるんだけど?」
「候補で終わる方が仲を深める必要ありません。」
おや?
石竜子はドラゴンよりなのかな?
アランの事嫌いだからね。
でも、仮面の不審者押しってどうよ。
私は、いまだお互いに言い合っている二人を見つつため息をつくのだった