うまくいかない時は気分転換
帰り道。
正門で石竜子が車を降りて待っていた。
私は軽く手を挙げながら、石竜子の側へ行く。
鞄を石竜子に渡して、石竜子に開けてもらったドアをくぐり、車の中に入ろうとして…
「先輩!」
棘のある声が聞こえた。
振り向けば、学食であった子がいた。
「なんでしょう?」
「先輩は校則をご存知ないんですか!?」
「はい?」
「校則では車通学は禁止です!」
「あ、そうなの?」
思わず石竜子を見る。
「許可は取っております。」
「また、北帝の力でごり押ししたのね!?」
石竜子の言葉に反発する。
石竜子、不快そうな顔をしない。
「まあ、とりあえず許可はあるみたいだし、問題あるなら、学校を通して貰える?」
「また、そういう風に高飛車に!そんなんだから、友達がいないんですよ!」
ずきっとする事を言ってくる。
私は愛想笑いを浮かべて車に乗り込み、石竜子に合図する。
石竜子も車に乗り込み、発車させた。
「あれはなんです?」
「後輩よ。」
「何かしたのですか?」
「特には…」
何かした覚えはないのだけど、なんか突っかかってくる。
まるで、悪役に抗議する主役のようだ。
「そうですか?まあ、あの者が何かしてくるようでしたら、遠慮なくお伝えください。」
「…そうするわ…」
言ったら大事になりそうだから、やめておこう。
私はそう誓い、鞄から会議資料を取り出したのだった。
会議なんてもの、高校生には辛いだけだ。
社長が部下に対して偉そうだ。
社長は私の機嫌をとる為に、自分が優秀と見せたいが為に、部下を叱りつけているように見える。
会議の内容より、社長のワンマンショーが気になる。
ため息を吐きながら廊下を歩くと給湯室から声が聞こえた。
「今日もきたよ、お嬢様。」
「またか。来ると社長がうざい。」
「会社は学校じゃないんだから、高校生がこられてもね。」
「扱いに困るよね。」
私はそっとその場を離れた。
やはり、高校生がいきなり見学とかありえないよね。
今日来た会社は北帝のグループ会社の下請けの下請けの下請けだ。零細企業でアットホームな雰囲気という事で、勉強によいと来た。
表向きは高校卒業後、この会社に入る予定の社長令嬢としてある。
だから、社員は私を無碍にできない。
でも、ストレスは溜まるわけで、こうやって愚痴ってる訳だ。
なんか、学校でも、会社でも身の置き場がないなぁ。
「映画に行かないか?」
家に帰ったらノエルが誘う。
「ノエルと?」
「俺と行ってどうすんだ。アランとだよ。」
ノエルがチケットを出す。
今話題のラブストーリーだ。
私は映画は好きだが、恋愛物は見ない。
「婚約者と行くんだから、恋愛物だろ?普段見なそうなのをあえて選んだんだ、気分転換にもなる。」
どうやら、最近うまくいかない事が多くて落ち込み気味なのをフォローしてくれているらしい。
「ありがとう、うん、行ってみるよ」
私はチケットを受け取った。