バレンタインデーイベント〜ヒロインデート編〜
バレンタインデーにチョコで告白してok貰える子は勝ち組だ。
では、私はどうだろう?
私は前世と今世で一度ずつチョコを渡した事がある。
結果?
前世今世共にチョコはその場でゴミ箱へダンクされましたが?
だから、私は何が嫌いってバレンタインデーが大嫌いだ。
なのに。
何故、私の鞄の中にチョコが入ってるのだ?
私は登校中の車の中で気づき、図らずも前世から始まったバレンタインデーの因縁を思い出したのだ。
なんか、ビニール袋に無造作に入ったトリュフチョコ。大きさがばらばらなので、明らかに手作り。
ま、まさか。
これ、ノエルの手作り?
いや、まさか…
私が今年一番の動揺をしていると隣で一緒に登校している匠がじっとチョコを見る。
「それって…」
「なんか言った?」
私は今世で唯一チョコをあげた人を睨む。
昨年のバレンタインデーは血で血を争うバレンタインデーだった。
思い出しかけて、頭をふる。
「言っておくけど、貴方にはやらないよ。」
「うっ!」
さすがに去年の蛮行を覚えてるらしく、大人しくなった。
そこで、車が停まる。
どうやら学校に着いたようだ。
私達は車から降りる。
「お嬢様」
石竜子が声をかけてくる。
「何?」
石竜子は手を出す。
「?」
「勉学に不要な物は持ち込まないようお願いします。」
ああ、チョコを寄越せと。
私は躊躇わずチョコを渡す。
「…確かに」
「じゃあ、行ってくる」
「いってらっしゃいませ」
石竜子はお辞儀をして私達を見送った。
なのでノエルが何故私の鞄に渡す相手もいないチョコを入れたのか深く考えず、とにかく石竜子にとられた以上もう渡す事は出来ない。よって、イベント回避!と浮かれてしまった。
私は今この瞬間、バレンタインデーイベントの事を忘れた。
これが私の油断を誘うノエルの作戦だったと知るのは夜になってからだった。
教室に入った途端、ヒロインからチョコを貰った。
えっ!?
ま、まさか、こ、告白!?
あからさまにびびってるとヒロインは
「友チョコだよ!」
と、笑う。
と、友チョコ!?
こ、これが!?
友達に恵まれなかった私は人生初の友チョコをヒロインから貰った。
なのに、私にはチョコがない。
しまった、石竜子にチョコを渡さなければよかった。
「ご、ごめん、私はチョコを用意してないよ。すぐに、ベルギーの有名パティシエを呼んで作らせる!」
「いや、そこまでしなくていいから!」
スマホを取り出す私を慌てて止めるヒロイン。
「だってこれ、ヒロインの手作りでしょ?」
「うん、そうだけど。」
「私はそういうの無理だから、パティシエを呼ぶんだよ!」
「やめてぇ、そこまでの代物じゃない!」
「じゃあ、お返しはどうしたら…」
最早、半泣きだ。
「じゃあ、今日の帰りにデパート寄ってこ。そこで可愛いチョコを買って頂戴!」
「デパート?そんなんでいいの?」
「うん!」
「じゃあ、デパートのチョコを買い占めておくね!」
「一個を二人で選ぼう!」
ヒロインは何故か私を止める。
デパートのチョコを買い占めてもまだ、ヒロインの手作りチョコの価値には追いつかないというのに。
「そう?まあ、ヒロインがそれでいいというなら…」
そこで、視線を感じて、振り向く。
教室のドアにかじりつくようにしてこちらを見る美少年。
「…ねえ、堂本にチョコはあげたの?」
「うん!朝一番にチョコをあーんって食べさせてあげた!」
そうか。
「じゃあ、雪平君には?」
「雪平?余りを渡したよ。」
そうか…あの、恨みがましそうな目。
方やあーんで食べさせて貰った男。
方や余り物を適当に渡された男。
その対比が瞼にありありと浮かぶ。
まるで、怨霊のようにこちらを見るのも仕方ない。
私は彼に同情した。
「雪平君。」
チョイチョイと彼を呼ぶ。
呼ばれて彼はいかにも仕方なくと言った風を装いこちらにくる。
「なんだよ。」
「実は私達今日の帰りにデパートでチョコを買うんだけど、一緒にこない?」
「なんで、俺が…」
とか言いつつちらちらヒロインを見る。
「いや、お世話になってるし、友チョコをね。ヒロインと一緒に雪平君にあげるよ。」
雪平君はぴくりと反応を見せた。
「仕方ねぇな。一緒に行ってやる。」
「よし、決まりだね!」
こうして、美形双子と一緒にチョコを買いに行く事になった。
バレンタインデー当日のデパートチョコ特設会場はすごい人混みだった。
「うわ、初めて来たけど、すごいね。」
「うん?去年のチョコはどうしたの?」
「ベルギーのパティシエに…」
「あ、うん、もういいや。」
ヒロインは何故か話をぶった切った。
「で、どれにする?」
「あ、これパッケージ可愛い!」
「これなんて、動物の形のチョコだよ!」
「…」
所在なさげに立ちすくむ雪平君。
ここは女の子の戦場だ。
周りは皆女の人ばかりで、雪平君は浮いていた。
ヒロインからチョコを貰えるチャンスをあげようと思ったけど、これはこれで酷かもしれない。
そうは思うが、雪平君はヒロインからのチョコがどうしても欲しいらしく、静かに着いてまわる。
せめて、早めに決めるべきかもしれない。
私とヒロインはあーでもない、こーでもないといいつつ、遂にヒロイン好みのチョコを見つけた。
ハート型のケースに薔薇の形のチョコが5つ入ってるのだ。
私は早速購入する。
そして、その場でヒロインに手渡した。
「ありがとう!」
「こちらこそ、ありがとう!」
「来年も交換しようね!」
「うん!」
来年はちゃんと、有名パティシエのチョコを用意しなくては!
次は雪平君のだ。
「雪平君は甘いの平気なの?」
「俺はなんでも食べる。」
そうか、じゃあ、パッケージはあまり華美でないものを選ぼう。
そう思い、チョコを見ていると…
「あ。」
ひとつのチョコに目が止まる。
コーヒー味のチョコだ。
かなりシックなパッケージで、大人向きな感じもする。
「これ…」
「えー、雪平には大人っぽすぎない?」
「いや、雪平君にではなくて、石竜子に。」
「えっ!あげてんの!?」
「ううん、あげたことない。」
「じゃあ、なんで。」
「来年はもう一緒にいないから…」
少し沈む。
来年のバレンタインデーの頃には私は婚約者がいる。
婚約者のいる女性に異性の専属執事がつくのはありえない。だから、婚約者が決まれば石竜子は私の執事から外れる。そして、高校を卒業すれば結婚だから、私は家を出る。無論、石竜子は連れていけない。
石竜子が北帝家を辞めない限り結婚後も里帰りの度に会えるけど、それだけだ。今みたく常に影に日向にと支えてくれるわけじゃない。
私は素直な性格じゃないから、普段感謝の言葉なんて伝えてないけど、もう、私達に残された時間は短いのだ。チョコくらい渡しても罰は当たらないだろう。
「買ってく。」
私は生まれて初めて石竜子の為にチョコを買ったのだった。