次のイベントがやってくる
パーティが終わり、私は部屋に戻った。
着替えたりしたいが、その気力はない。
まさに精魂尽き果てたと言っていいだろう。
「疲れてんなー」
私の部屋まで勝手についてきて、ソファにどかりと座り軽口を叩くのは、ノエルだ。
「てか、あんた、ドラゴンになんかした?」
ベッドから体も顔も動かす事なく問いかける。
「まあ…」
歯切れが悪い。
「その…ちょっと、別室にいてもらったんだ。」
「なるほど。」
だから、あんな登場の仕方か。
助かったといえば助かった。
「ゲームとは違うけど、婚約者候補が二人になったわね。」
「ああ。」
苦々しげにノエルは頷く。
「てか、ドラゴンってなんなわけ?生まれを捨てた?事情?さっぱりわからないけど、お父様には気に入られているわ」
「俺はアランルートしかやってないって言ったろ?アランルートではそのあたりの事情は一切明かされずに終わる。」
「知りたきゃ、調べろってか。」
「アランを選べば、あんな不審者無視していいだろ?」
「そうなんだけどね…」
「まだ、アランと決めてないってことか。」
ため息混じりに言われる。
「アランに決めれば、幸せだぞ?ハッピーエンドに持ってく為のフラグも分岐も選択肢もわかってるんだ。安心安全なルートだぜ?」
「…考えておくわ」
チッと舌打ちするノエル。
「まあ、いいや。ゲームでもすぐにはアランルートに入れたわけじゃないし。それより次のイベントだな。」
「また、イベント!?」
私は思わずがばりと起き上がる。
「バレンタインデー!」
途端、体の力が抜ける。
婚約者選定イベントに対して余りに俗物的すぎる。
てか、乙女ゲームではかなりお約束なイベントではないか。坂上香織がヒロインのストーリーでもこのイベントは強制で…って
「坂上香織でもあったろ?あれが良美版でも流用されてる」
「まじか」
バレンタインデーイベント
ルートに入った攻略対象にチョコを渡して好感度を上げる、ただそれだけだ。
だが、ヒロインが誰のルートにも入っていない場合、このチョコを巡り攻略対象がバトルのだ。
前世ではヒロインのチョコを巡り男達が奮闘する様はものすごく萌えた。男達にとり合われる私。
逆ハーの良さがすごくわかるイベントだ。
だが、ここは現実だ。
頼むから、チョコを奪い合うなんて阿保なことしないでもらいたい。
「うん、チョコ作らない!」
「いや、作れや!買ってもいいけど!」
「だって、争いの火種になるってわかってる事するわけない!」
と、言われた。
が、諦める俺ではない。
だって俺はサポートキャラクター。
限定的とはいえ未来を知ってるのだ。
悪いが、このイベントははずせねぇ。
チョコを作らない?
なら、俺が作ってやるよ!
てなわけで、作りましたよ。
俺様特製、バレンタインデー本命チョコ!
これを良美がアランに渡せばいいのだ。
大丈夫。
邪魔は確実にはいる。
その邪魔さえも俺にはどういうものかわかってる。
逆に利用してやるよ。
俺がアランを幸せにしてやるんだ。