表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/134

婚約者選定イベント〜終焉と竜〜

私はアランを選んだ。

ゲーム通りと言えばそうだが、別にゲームを意識した訳ではない。

ここにいる他の男達に比べればまだ愛情を持って接してくれるのではと夢想したからだ。

他の人達は北帝が欲しいから仕方なく醜女に言い寄っているにすぎない。

皆、私と踊っても視線は合わないし、話していてもどこか上の空。

アランだけが、私と目を合わせて話してくれた。

子供の頃の約束とかは覚えてないに等しいし、修学旅行を台無しにしてくれた誘拐劇は未だに腹ただしいけど、それを差し引いてもアランは私に誠実だったといえるだろう。

二度続けてダンスを踊り、私はアランのエスコートでフロアから降りる。

アランは私の為にドリンクを取りに行った。

一人になった私に話しかけるものはいない。

…と、思ったら。

「あの男を選ぶの?」

「お父様!」

私は突然話しかけられて驚く。

お父様は少し不満げな顔をしていた。

「ダメでしたか?」

「ダメじゃないよ?良美が選んだなら文句なんてないさ。ましてや、一国の爵位持ち、あの会社の次期社長。見た目もまるで王子様。完璧だね。」

そうは言うが、やはり不満顔なお父様。

「僕が予想していた人じゃなかっただけなんだ。」

「誰を予想してましたの?」

あの俳優か?

「それが、さっきから探してもいないんだよね。」

「いない?」

言われて本来のゲーム展開を思い出す。

周りを見回してもいない。

通称ドラゴンが。

ふと、遠くにいたノエルと目があった。

ニヤリと意地悪そうに顔を歪める。

まさか、何かやった?

問いかけに行こうと動いた次の瞬間、ノエルは人混みに紛れ、その姿を消す。

「お父様、失礼します。」

私は一言断り、男達をかき分けて前に進むが、やはりいない。

…まあ、今すぐ聞かなくちゃいけないような事でもないし、合わずに済むならそれでいい。

面倒事はごめんだ。

私は少し疲れて、そっと会場から出る。

会場からは我が家自慢の園庭が広がるが、そちらにいたら、すぐに休んでいる事がバレそうなので、観賞用にはしていない、裏庭へとでる。

「あー。疲れた。」

私は蹲り、呟いた。

夜風が顔を撫で、私を癒す。

花ひとつ咲いていない寂れた裏庭。

だからこそ、私と似ていて表の園庭より落ち着くのだ。

「良美様」

不意に声をかけられビクっとする。

まさか、サボっているのがばれて連れ戻しに来た石竜子か!?

恐る恐る振り向いた先にいたのは、石竜子ではなかった。

そういえば、今夜は一度も見かけてないな。

ふと、その事実に気づくが、今はどうでもよい。

目の前の男。

今、日本で一番の役者は誰?と問われれば、10人いれば8人くらいは彼の名をあげるだろう。

アランの直前まで踊っていた男だ。

一体、何の用だろうか?

「あ、はい。」

私は立ち上がる。

「すみません、会場から出て行くのが見えたので、思わず追ってしまいました。」

「連れ戻しにきたんですね?」

努めて笑顔を作り言う。

男は途端に顔を赤くする。

「いえ、そうではなくて…先程のダンスで…」

ああ、恥をかかされて怒っているのかな?

「すみません、ア…彼とは顔見知りでして…」

「では、彼を婚約者として選んだ訳ではないと?」

「いえ…」

そういう訳では…

そう続けようと言葉を紡ぐより早く男が私との距離を詰める。

「あの場では彼に譲りましたが…。未だ、貴方の気持ちが確かなものでないならば、今一度、私の事を考えて頂けませんか?」

「…申し訳ありませんが…」

即答で断りの言葉を出すより早く。

男は左手で私の手を強く引き、右手で腰を抱く。

無理矢理体を密着させ、さながら、ダンスを踊るような体勢をとる。

「音楽も人目もないこの場所で、もう一度、貴方と踊りたい…と、申したら、迷惑でしょうか」

伏せ目がちに言われる。

本当は踊りたくないのに、己の野望の為に踊らなくてはならない彼が不憫だ。

「お離し下さい。」

「いえ、離せば貴方は逃げてしまうでしょう。」

正確には北帝がね。

男の手は力強く女の力では逃げ出せそうにない。

「離して!」

少し声を荒げたその時。

バリン!

この場に相応しくない音がして、男と私は互いのやり取りを暫し忘れて同時に音のした方を見る。裏庭に面したはめ殺し式の窓が割れた音だった。

粉々に割れたガラスが地面で鈍く光っている。

男と二人で息を飲み、様子を伺う。

すると、窓枠から靴先がみえた。

男物の靴だ…と、思う。

どこかの国の民族衣装はひらりとしていて、靴なんてあまりよく見えない。仮に見えても男物と断定出来るほどの知識がない。

次に手先が見えた。

どうやら、窓から人が出てこようとしているらしい。

なぜかはわからないが。

そして、頭が見えて…

その人物は窓から飛び出す事に成功して、私達と対峙した。

「な、なんだ…!?」

男は声を絞り出した。

私だって本当は同じように言うべき所だろう。

アジアの大国の民族衣装を着た仮面の男など、ゲームならともかく、現実ならただの不審者だ。

正直、ノエルからの事前通告がなければ、私はすぐさま人を呼んでいた。

「よ、良美様は逃げて…」

意外とこの男は男らしい。

私は感心する。

だが、逃げる訳にもいかない。

さりとて、どうしたものか。

私は思案する。

大体、なんでこんな所からこの男は出てきたのだろうか?ゲームでは普通に会場にいたんだろう?

私が何か言ったりする前に仮面の男が民族衣装を風にたなびかせながら動いた。

その動きは洗練されたもので、思わずため息が漏れる。

「…」

事前情報通り、仮面の男は無言で、私と男を引き離し、私の肩を抱いて会場に戻るよう促す。

私は驚きながら、後ろを振り向き、先程まで、密着していた男を見る。

男は呆然と私達を見ていた。

ぐっと肩に力がこもり、私は前を向く。仮面の男はこちらを向く事なく、私を会場へと連れて行く。

会場では私を探してアランがノエルと話していた。ノエルが私を見つけ…何故か隣の仮面の男を見て顔を強張らせる。

その一拍後、アランが私に気づき…予想通り、仮面の男を鋭く睨みつけ不機嫌そのものな足取りでこちらに来る。

「失礼、ミスター。こちらは私の婚約者だ。返して貰おう。」

アランは私の手を取る。

しかし、仮面の男は私の肩を抱いたまま離さない。

「離して貰えないか?」

苛つきを隠しもせず、アランは言う。

「…」

「何か言ったらどうだ」

無言を貫く仮面の男にアランは言う。

だが、事態は変わらない。

私は自分からアランの所に向かおうと体を動かす。私の肩を強く抱いていた手は意外な程簡単に私を逃し…たかと思うと、次の瞬間、私の手を掴む。

思わず振り向き、仮面の男を見る。

表情は仮面に隠れて見えないが、なんとなく笑ったように思えた。

そして、正面を向いた私の手の甲に唇を落とす。

既視感。

私は既視感を感じた。

不快感でも驚きでもなく、既視感。

それはとても不思議な感じだった。

だが、隣のアランにとっては、決して見過ごす事のできない行為だった。

「貴様…!」

アランが無理矢理私を仮面の男から引き離し、胸ぐらを掴む。

仮面の男は掴まれた腕を押さえて自分から引き離そうともがく。

一触即発。

まさに、その1秒前。

だが…

「そこまで」

会場に響いた声の主はお父様だった。

「北帝様…」

アランが何か言うのを制する。

「彼は僕の探し他人だ。」

ざわり

会場が揺らめく。

「あまり、乱暴な事はよしておくれ」

「しかし…」

「良美。」

不意に名を呼ばれる。

「彼はどう?」

「どう…とは?」

「ほら、1年後、婚約者を見つける事ができなければ、僕の決めた相手と結婚って言ったでしょ?」

優しくお父様は微笑む。

「彼が、その相手だよ。」

『!?』

私とアランは同時に息を飲む。

「ちょっと怪しすぎません?」

「確かにね。でも、事情があるんだ。」

「事情?」

「そう、でも、僕が問題ないって判断した事だから、良美は気にしなくてもいいんだ。」

いや、すっごい気になります。

「まあ、今回のパーティで良美と踊ってもらいたかったんだけど…何がわるかったのかな?」

ちらりとノエルを見たお父様。

やはり、何かやったんだな。

ノエルは冷や汗をダラダラかいてる。

「つまり、彼も婚約者候補という事ですか?」

「そうだね。」

アランの言葉に頷くお父様。

「しかし、顔をこのように隠しては名前もわからない。さすがに、良美様も戸惑っているご様子。」

お父様はふむと、顎に手を置き思案顔。

「彼は良美との結婚の為に生まれを捨てた人間だから、名前は便宜上のものを作るしかないね。」

「生まれを捨てた?」

アランは意味がわからないと眉をひそめる。

「良美、とりあえず、名前をつけてあげてよ」

「え、わ、私がですか?」

「この1年使う名前だよ。1年後、結婚が決まれば、名前も顔も良美に見せてあげる。」

言われて私はため息ひとつ。

名付けはゲームでもしていたらしい。

なら、つける名前もゲーム通りでよいだろう。

しいて、問題を言うなら、私は彼の背中を見てないので、本当に昇り竜が描かれているのか知らない事くらいか。

「では…ドラゴンと。」

ゲーム通りの通称名を仮面の男は得たのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ