婚約者選定イベント 〜ノエル暗躍編〜
欲望のパーティが高らかに始まりを告げた。
数多集まる男達は未来の覇王を夢見る愚か者達。
皆、ゲームや漫画でメインヒーローを張れる程の美形揃い。しかも、確認するまでもなく、地位も家柄も良いのだから、俺からすれば殿上人に他ならない。
だが、そんな彼らを蹴散らし、良美の心を掴むのは二人の男。
彼らだけが、良美に触れる事ができるのだ。
ゲームでは。
パーティが始まり、暫しの間を開け、覇王が溺愛する娘を連れて会場に訪れた。
一目見ただけで仕立ての良さがわかる濃紺のドレスを優雅に纏い、ルビーで飾られた髪は思わず触れたくなる程艶やかだ。
ほんのりと化粧をのせた顔はゲームのスチルとは大違いの愛らしさを持つ。
ここにいる男達は全員彼女に釘付けだ。
中には一瞬で心を刈り取られた者もいるだろう。
だが、肝心の彼女に笑みはない。
どうせ、醜い自分に周りが驚き声もない、などと阿保な事を思っているに違いない。
彼女の目に自分はどのように映っているのだろうか?
いい加減、自分を知るべきだ。
良美と覇王は真正面の舞台に上がる。
皆、二人に注目する。
「皆の者、今夜はよく来た。我が娘に相応しいと我こそはと思う者がいれば、名乗り出るがよい。
娘の心を射止めた者に北帝をくれてやる。」
覇王の演説が終わると同時に、婚約者選定が始まった。
そこからは阿鼻叫喚の地獄絵図。
さながら、餌に群がる蟻のように良美の元へと男達が走りよる。
いや、良美、話が違う!みたいな目でこっちを見るな!
心なしか、覇王も一歩引いたように見える。
いや、貴方がトリガー引いたんですからね?
心底、自分が参加者でなくてよかったと思う。
「良美様、宜しければ私とファーストダンスを…」
「いや、私と…」
「宜しければ、ドリンクをどうぞ」
「お疲れでしたら、あちらでお休みになられたら?」
必死で良美の気をひこうとしている男達。
見ている分には滑稽だが、サポートキャラクターとして見ると非常によくない。
ゲームでは誰にも相手にされなかった良美が現実では、こんなにも愛されている。
このままでは、アランもこの滑稽な男達に埋もれてしまう。
良美はというと、適当な男とダンスを踊り、談笑をしていた。一見するとパーティを楽しんでいるようにも見える。
だが、彼女が浮かべる笑顔はよそ行き用の物であり、心の中では早く終われ!と念じているに違いない。
「さて、そろそろアランともう一人のあの男が来るのだが…」
俺は時計をちらりと見たあと、ホール正面扉を見て、こっそりと会場を後にする。
ゲームと大分様子が違ってきているのだ。
少しでも、アランを良美に向ける為、俺はサポートすべきだろう。
ゲームでの進行を参考に考えると、この時間辺りにあの男が来るはずだ。
そう考えた俺は正解だったようだ。
目の前にアジア大国の民族衣装を来た仮面の男が現れたのだ。
仮面の男が俺を見てその歩みを止める。
悪く思うな。
俺は心の中で、そっと謝る。
貴方を会場に行かす訳にはいかない。
俺は男に一礼して、そっと道を譲る。
仮面のせいで男が何を考えているのかわからない。
しかし、譲られた道を通らないという選択肢はなかったのだろう、彼は俺の横を通り過ぎて…
刹那
俺は男の首筋に手刀をいれる。
ゲーム画面ならクリティカルヒットと出るだろう。
そこらの男ならこの一撃で意識を刈り取れるのだが、どうやら、この男はそう上手くはいかなかった。
声も無く、男は振り向き、俺に正拳突きを繰り出して来る。
俺は辛うじてよけた…ようにみせる。
その動きに誘われて男は俺に追撃をいれてくる。
その追撃を軽くいなし、男の背後に周り俺は
そのゆったりとした作りの民族衣装の首元を掴み、腕を拘束する事に成功する。民族衣装でなければ、こうも上手く相手を捉える事は出来なかったであろう。
「悪いな。」
俺は男に謝り、すぐ近くにあった空き部屋に彼を押し込んだ。
この部屋の鍵は外からかかるが、中からはかからない。俺はかちゃりと鍵を閉めた。
どんどんとドアを叩く音がするが、ここに来る者はもういない。
遅れてパーティに来るのはアランとこの男だけ。
アランは今頃パーティで良美と踊っているはずだ。
その後に踊る仮面の男はここに閉じ込めた。
アランを邪魔する者はもういない。
俺は自分でも驚く程仄暗い笑みを浮かべ会場に戻った。