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堂本要

蛇の様な女に出会った。

そう言うとクールビューティな艶めかしい女を想像するかもしれないが違う。その女は醜い。

俺なら死を選ぶ程に醜い。にきびだらけの肌。長いだけで手入れが行き届いていない髪。何より豚の様な体型。およそ蛇とは無縁の女だ。でも、蛇なのだ。その目が。獲物を捕らえたら喰らうまで離さないのと言わんばかりの鋭い視線。しかもしつこい性格のようだ。毎日毎日不必要に長時間運動させているが弱音を吐かず前を…俺を睨みつけてくる


最初はただの暇つぶしだった。


俺は普段は海外で活動している空手家だ。

と、言っても現役だったのは10年程前の話で今は世界中にある道場のオーナーだ。空手家としても経営者としても有能な俺は次世代を担う優秀な空手家を輩出し、「空手やるなら堂本道場へ!」と言われる程に世界中の道場を成長させていた。今回日本に来たのは久方ぶりに日本で空手の世界大会は開催される為である。勿論我が道場からも選手を送り堂本道場の名を知らしめる予定だ。選手も師範もやる気は充分、間違いなく好成績を収めるだろう。俺は道場の様子に満足し、友人に会うべくバーに来ていた。友人もかつては同じ道場で汗を流した中だが、今はスポーツジムの経営をして儲けているらしい。

「久しぶりだな。」

「うわ、堂本、久しぶり。日本にはいつ帰ってきたの?」

「先週だな。だが、もっと遅くてもよかったな。」

「なんで?暇なの?」

「ああ、暇だな。」

酒を酌み交わしながら話し込む。酒を飲むペースも話す内容も俺に合っていて心地よい。

「世界大会でしょ?オーナーが暇ってありえない」

「実際暇だな。師範も門下生も優秀で俺の出る幕がない。」

「まさか。騎士と言われた君が出る幕ないなんてたるんできたんじゃない?」

懐かしい渾名を呼ばれて心持ち顔が赤くなる。現役時代、俺の打ち込みの鋭さから騎士と呼ばれていたが最近じゃ揶揄いのネタ状態だ。だか、たるんでると言われると空手家としてむっと来る。

「失礼な。お前よりかは引き締めて生きてるよ。」

「あ、ジム経営楽だと思ってるでしょ?」

「思ってる」

きっぱり肯定する。

「失礼な。ライバル多くて差別化が大変。毎日帳簿とにらめっこしてるんだから。」

「ジムに差別化なんて無理だろ。」

「チッチッチ。うちのジムはそこらのジムとはわけが違う。」

「へぇ、どう違う?」

たいして興味があるわけではないが先を促す。

「うちはとにかく厳しくいく。」

「ジムってそういうものだろ?」

「いや、普通のジムはゆるい。お客様のペースでゆっくり運動して貰う。でもうちは違う。こちらがお客様の運動量、内容を決めやらせる。」

「鬼畜仕様だな。」

「そのおかげで痩せたお客様続出で儲けてるんだけど。」

「けど?」

「お客様は勿論コーチも厳しすぎて逃げていき人が中々いつかない。」

「ダメじゃん」

「だからCM流して宣伝してるんだよ。宣伝費用が高くてピーピー言ってる。」

「またまた、儲けてる癖に」

ニヤリと笑うと相手も笑う

「でも人がいつかないのは本当。特にコーチは真性サドじゃないときついってサイクルはやいよ。」

「じゃあ、俺にぴったりじゃん。」

笑いが口から漏れる。たるんだ体を持て余した連中に合法的に鞭をふるえるなんて最高だ。

「そうだ、堂本、日本にいる間だけでいいからコーチやってみない?」


…てなわけでコーチをやってる訳だが、俺が担当するデブ共は根性がないらしく2日と俺の顔を見た者がいない。友人ももうちょっとサドっ気抑えてと言うが無理だな。あの怯えた眼差し、癖になる。


だから意外だった。

あのにきびだらけのデブな女が二週間も俺の所に通い睨みつけてくるなんて。


三月末日。

今日も不必要にいびり倒して明日の約束を取り交わす。ああ、明日も会える。楽しみだ。別れて友人とジム併設のカフェに入る。そういえばここに入るのは初めてだが意外と食事も飲み物も充実している。全部低カロリーメニューだけど。

俺達はコーヒーを注文して話し込む。たいした話じゃない。最近どうよ、みたいな軽口だ。

ふと、目に止まる男がいた。デブでブスな女しかいないかと思ったら美形と言って差し支えない男がいた。

「なあ、あいつもここの生徒か?」

友人に視線で男を指して聞く。

「うん?いや、彼は違うね。誰かの付き添いじゃない?」

成る程そういうこともあるわけか。

「しかし、あんな美形がうちの化物を相手するのかね?」

「ブス専という専門職が世の中にはあるらしいよ」

ブス専って。俺もそうだがこいつも中々口が悪い。

「大体服装みてよ。ジムに来る服装じゃない。」

「確かに」

俺は素直に頷く。

スーツ着た生徒なんて普通いない。

その時、俺の横を蛇が這って行った。思わず蛇を目で追う。蛇は真っ直ぐに美形の所に行く。

…って待て。知り合いか?ありえないとは思うが彼氏か?自分でも驚くくらい体が震えた。

「堂本?」

友人が訝しげに声をかけるがそれどころではない。美形は蛇を見るとすぐに立ち上がり恭しく荷物を持つ。そして連れ立ってカフェから出て行った。俺はその様子をただ呆然と見つめる事しか出来なかった。

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