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覇王登場

年が明けた。

世間では一年で最も厳かな日ではないだろうか。

だが、我が家では違う。

一年で最も緊張感漂う日である。


主に使用人達に。


あの、石竜子ですら普段の余裕が一切無い。

他の使用人達に至っては死相すら見える。

まだ、何も知らないノエルが一番余裕だ。


自宅の掃除。

年末から始めた大掃除は、今も終わっていない。

去年と同じ家具は置けない。…かもしれない。

去年と同じ絵画は飾れない。…かもしれない。

流行りを追っている訳ではない。

…追わなくてはならないかもしれない。

食事の準備は当然御節にお餅、お屠蘇。

…ではダメかもしれない。


つまり、早い話が正解はあってないが如く。


唯一の例外は私である。



屋敷に存在する全ての使用人が一斉に玄関に向かった。それが合図だ。

使用人が一人でも遅れれば、正月早々地獄だが、

何も知らないノエルが遅れた事により、その地獄が展開していた。

更に間の悪い事に掃除がまだ一部終わっていない。

これが元々気の短い彼の怒りに火をつけた。


覇王と世間では呼ばれる男、我が父の帰還である。


「どういう事だ!私が帰ったというのに、使用人が揃っていないとは!」

ノエルはうちに来て日が浅い。最初は必ず出遅れるものだ。

「それに、家具が古い!しかも、うちが押してるデザイナーの物を使っていない!」

去年、うちが押してるデザイナーの家具を使用したら面白味がない、ライバル会社のを使えと言ったのは貴方だ。

「絵の趣味が悪すぎる!すぐに変えろ!今年の干支に合わせた絵にしろ!」

怒りに任せて叫ぶ。

使用人はただ頭を下げ、許しを乞うしかない。

ノエルは土下座を強要され、家具を選んだ使用人は持っていた杖で打たれていた。

「絵を選んだ奴は誰だ!?出てこい!」

言われて、絵を選んだ使用人がガタガタ震える。

去年の春に入った新人で、まだ若い彼女のセンスに期待しての抜擢だったのは、去年、干支に合わせた絵なんて古いと言われた為だ。

意を決して名乗りをあげようと使用人が一歩進み出ようとした時。

「おかえりなさい、お父様」

努めて明るく私は階段の上から声をかけた。

途端、杖が止まる。

にこやかに微笑む。

先程の怒りはどこへやら、親バカな顔になる。

「おお、良美!今帰ったぞ!」

「お父様、会えて嬉しいですわ!さあ、中に入りましょう。お屠蘇を注ぎますわ」

「おお、振袖姿のお前がお酌をしてくれるのか!

嬉しいのぅ。」

鼻の下を伸ばして荷物を適当な使用人に押し付け、階段から降りて近くへ寄った私の手を握りいそいそとリビングへ向かったのだった。




さて、北帝は歴史ある一族である。

しかし、常にその当主が優秀だったかと言えば必ずしもそうとは言えない。

我が北帝家の歴史上最低最悪の当主と言えば我が祖父である。

時代が悪かった、とも言えるが、それを差し引いても彼には経営者としての素質は皆無であったと言える。彼は自身が当主の座についている間に北帝の財産の三分の一程溶かしたのだ。

複数の会社が倒産し、日本経済の根幹さえ壊しかけたのだ。一説によれば、バブル崩壊は祖父が原因の一端を担っていたとの事。

そんな、祖父の唯一の功績は父を作った事にある。

祖父とは真逆で、彼は北帝家歴史上二番目に優秀と言われている。

父は祖父が溶かした財産以上の財産を築いた。

日本の発展の礎と言われている。

しかし、人柄に問題があった。

気まぐれで怒りやすい。

仕事が絡めばこの欠点は出てこないが、プライベートでは、この欠点しか表に出てこない。

長身で白髪交じりの髪をオールバックにした、鷹のような目を持つ男。

それが我が父である。


足が悪い為杖をつく彼の為に椅子をひき座らせる。すぐ隣に私も座りお屠蘇を注ぐ。

ニコニコと微笑みながら、お屠蘇をくいっと飲み干した。

「良美、去年はどうだった?」

「とても楽しい一年でしたわ」

「そうか、誘拐とかされてない?」

一瞬びくっとするが、平静を装いまさかと笑う。

「へぇ、どこぞの空手家とか、王国が私の可愛い娘を誘拐したかと思ったけど、違うんだね〜」

やべっ!知ってやがる。

考えてみれば、お父様はいつだって私の事を完璧に把握していた。

「学校の成績は?」

「優秀ですよ」

「学期末はギリギリ赤点回避だったみたいだね。」

テストの点まで知ってるらしい。

顔が引きつってきた。

「クリスマスパーティは楽しかった?」

「…はい」

「いい友達ができたみたいだね。」

にこやかにお父様は言う。

鷹のような目をしたお父様だけど、私にだけは優しく目尻を下げるのだ。この顔は可愛くて好きだ。

「長谷川匠君だっけ?佐倉家のお嬢さんと親しくしてるの。」

唐突に言われた。

「ええ、そうですね」

「同じ趣味で繋がるのは結構だけど、やりすぎはダメだよって伝えておいてね?」

目が笑ってない!さっきは可愛かったのに!!

「石竜子とは仲良くしてる?」

「まあ、ほどほどに。」

「毎年同じ答えだね。そろそろ、新しい反応が欲しいな。」

「そう言われても、ほどほどはほどほどなんですよ」

事実ほどほどだ。

「うん?じゃあ、可愛くなったのは石竜子の為じゃないの?」

「…?」

首をかしげる。

と、いうか

「私はこれでいいのでしょうか?」

問われたお父様が今度は首を傾げた

「良美は良美。なんでも好きにしていいんだよ。」

この一言で、遂に確信してしまった。

堂本との出会いから始まり、今まで綺麗になる努力をしてきた。しかし、その過程でひとつの仮説を私は立てていた。

即ち、お父様は私に醜くあれ、など命じてないのでは、という事。

そして、今、良美は好きにすればよいと言った。

仮説は事実だったのだ。

お父様にとって私は醜くても美しくても価値ある可愛い一人娘なのだ。どちらでも好きな姿でいてよいのだ。

それと同時に…

私は後ろに控える石竜子をちらりと見た。

「石竜子が気になる?」

「あ、いえ。」

楽しそうにお父様は笑う。

「そこは気にしなきゃダメだよ?」

何もかもお見通しなようだ。

お父様は石竜子のした事を知っていた上で黙っていたようだ。

何故だろう?

「まあ、そんな事はどうでもいいんだ。」

お父様は肩をすくめる。

「良美、今年の4月からは高校3年だ。」

…きた!

「この高校3年の間に正式な婚約者を定める。」

わかっていたけど、心が凍る。

「来月、婚約者候補を集めてパーティを開こう。良美はそこから気に入ったのを選べ。複数でもいい。一年かけて自分の伴侶を選べ。見つかるまでパーティは毎月開こう。もし、一年かけて見つからなければ。」

ここでお父様は言葉を切る

「僕が選んだ人と結婚してもらうよ。」



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