サポートキャラはお持ち帰り
私の顔色は酷く悪い。
当たり前だ。
お前がヒロインなんて言われたら誰だって顔色くらい悪くなる。
おかしいだろう?
そもそも私は悪役令嬢だったのだ。
役目を終えてさあ、モブろうと思ったらヒロインになってたなんて…。
思わず頭を抱えてノォォォと叫んだ私は悪くない。丁度そのタイミングでルイスが部屋に来て怪訝そうな顔をされた。
さすがにちょっと恥ずかしかったが、何食わぬ顔をして話を聞くと石竜子が来てるとの事。
どうやら迎えが来たようだ。
私はノエルとルイスに案内されて応接室に入った。
『良美(様)!』
二人が同時に私の名前を呼ぶ。
「お嬢様、迎えに参りました。お顔色がすぐれませんが、体調に問題でも?」
「…大丈夫よ」
私はため息混じりに伝える。
「私は元気よ。さあ、日本に帰りましょう。」
その言葉に石竜子はアランをちらりと見て意地悪な笑みを浮かべる。悪役執事そのものだ。
アランはその笑みに舌打ちする。
「良美!何故帰るのです?もう暫くこの国で私と過ごしましょう。婚約者同士でありながら、長い時間離れ離れだったのです。もっと私達には共に過ごす時間が必要です。」
「そのようなもの不要です。そもそも良美様は貴方の婚約者ではありません。何度も言わせないでいただきたい。」
私が答えるより早く石竜子がイラついたように言った。
「良美!私達は子供の頃将来を誓い合った仲なんです!覚えてないのは重々承知しております。しかし、それは事実であり、私は貴方の隣に立つものとして相応しくあるよう今日まで努力して参りました。どうか、今一度、私と将来を誓っては頂けませんか?」
「クドイ!」
石竜子が怒りの声をあげる。
こんな声、初めて聞いた。
「お嬢様、行きましょう。」
私の手を引き部屋から出ようとする石竜子。
それを制して私はアランと向き合う。
「アラン、子供の頃の話はノエルから聞いたわ。」
『!!』
アランと石竜子は息をのむ
「聞いてもいまいちピンとこなくて、正直、婚約者だと言われても困るの。まして、誘拐までされては…ね?」
ぐっと俯き唇を噛むアラン。
ちらりとノエルを見る。
ノエルは石竜子を見ていた。
「アラン、私は日本に帰るわ。」
きっぱり言い切った私をアランは今にも泣きそうな顔で見る。
もしかして、私が抱く感情も、紡ぐ言葉も結局はゲーム通りのものなのかもね。でも、そうとわかっていても、言わない訳にもいかない。
子供の頃に気まぐれで交わした約束を律儀に信じ努力した彼に不義理をすることはできないから。
「…だから、今度は日本で会いましょう。」
「お嬢様!?」
石竜子が叫び、アランの目が大きく見開かれる。
「私はお父様の命令で日本の学校に通ってるのよ?あまり長く外国に留まることはできないの。
だから、時間が欲しいなら貴方が日本に来なさい。」
北帝に生まれた私に残された時間は少ない。
だから、日本に来なさい、アラン、私が本当に欲しいのならば。
私はふっと笑う。
思えば、この国に来てアランに微笑んだのは初めてだ。
アランの頬はみるみる朱色に染まっていく。
「石竜子!帰るわよ!」
「は、はい!」
言われて石竜子は慌てて私に付き従い、部屋を出た。
「車の準備はできております。」
石竜子はすでに慌てていない、いつもの石竜子だった。
「しかし、よくここまでこの短時間でこれたわね。」
車に乗り込みながら言う。
「私はお嬢様専属執事です。例え、世界の果てでも、異世界でも、探し出してみせましょう」
運転席に乗り込みながら石竜子は言う。
本当、そんな感じだ。
「あ、出発は待って。」
「?」
「手土産があるの。」
「…土産?」
多分、来る。
だって彼は…
「おーい!」
ガラガラとトランクを引きずりながら手を振るのは予想どおり、ノエルだ。
「俺も行く。」
「知ってる」
「なんで、知ってんだ!?」
問われて私は肩をすくめる
「私が貴方の立場ならくっついて来るだろうなって思ったの」
ノエルはアラン攻略専用サポートキャラ。
アランはそう遠くないうちに日本に来る。
それまでに日本での受け入れ体制を作る必要があるのと、私を取り巻く現状の確認、攻略準備。
ノエルの立場ならのんびりしている暇などないだろう。私は後部座席のドアをあける
「お嬢様!このものは…」
「うん、手土産。この国に来て一番の収穫かな。」
「!?」
石竜子はノエルを胡散臭げに睨む。
ノエルは全く意に返さない。
いつの間にか車のトランクを開けて荷物をしまい後部座席に乗り込む。
「いや、話が早くて助かる!正直、どうやって付いて行くかが悩みだったからな。」
「まあ、私にも貴方が必要だからね。」
「アラン攻略する気になった?」
「それは追々考える。」
「今はそれで充分だな」
楽しげに言うノエルに諦めたように車を走らせる石竜子。
「やっと、俺の出番だな。」
ポツリと言った彼の言葉に私は気づく。
…こいつ、ゲームに参加したかったんだな…と。