お姫様と王子様
ランチが部屋に運ばれてきた。
運んで来たのはアランだった。
「兄上達が私達の邪魔をするので、ここで食べましょう。」
テーブルの上に手慣れた様子でセッティングしていく。美味しそうなポテト料理だ。
なんでも、この国の名産だそうな。
私とアランは向かい合って食事をとる。
「後で、庭を案内しましょう。丁度コスモスが満開なんですよ。」
「そうなんですかぁ」
適当に相槌を打ちつつアランを見る。
完璧なマナーで食事をしている。
さすが、爵位持ちだ。
食事が終わり、アランは食器を下げる為部屋を出て行った。
やはり、アランに見覚えはない。
従って約束なんて思い出せそうもない。
トントン
ノックと共に入ってきたのは、ノエルだった。
「無事だったんだ。」
「見捨てやがって。」
私の言葉に恨みがましくいってくる。
私は彼に隣の席を勧める。
「…で、思い出したか?」
「アランの事?全然」
「食事をしても?」
「全く思い出せなかった。てか、食事に何かあるの?」
「ゲームでは食事がきっかけで思い出すんだよ」
ノエルは肩を竦める。
「思い出せそうもないし、教えて頂戴。」
「そうだな…」
そう言ってノエルは語る、私とアランの過去を。
二人の出会いは5歳の時。
当時、良美は愛らしい5歳児だった。
数年後醜くその容貌を変えるなど誰も想像出来ない程可愛らしく、姫と呼ぶに相応しい幼女だった。
その日、良美は父親に連れられて、アジア圏にあるとある外国に来ていた。その国の王子様の誕生日パーティーに良美が招待されたからだ。
王子様と聞けばお伽話に出てくる眉目秀麗な男性を想像するかもしれないが、この国の王子様はこのパーティーで17歳になり、目だけがぎょろりと光る嫌な雰囲気の男だった。
容姿に難があるせいか、王子でありながら、未だ婚約者の一人もおらず、さらには悪い噂がある為社交界からも遠巻きにされていた。
さて、そんな事情などついぞ知らない良美は、王子様に声をかけられる。
良美に対して大変優しくしてくれたので、単純な5歳良美は速攻懐く。
ニヤリと笑う王子様。王子様は良美をパーティー会場から連れ出してしまう。
これが王子様につきまとう悪い噂。
王子様はロリコン。
良美はその毒牙にかかろうとしていた。
「おい!何している?」
人がいないはずの通りにある部屋に少女を連れ込む大人をみかけ、声をかけた勇敢な少年がいた。
金髪青目のこの少年、そこだけ見れば彼こそ王子そのものである。
しかし、残念ながら彼を王子のようだと言う人間は世界のどこを探してもいない。何故ならば。
「なんだ、醜い少年。お前はスベルニアから来た子爵の息子ではないか?」
王子様は自分を棚にあげて少年をあざ笑う。
そう、この少年、とても醜い容姿をしていた。
金髪はくすみ、べたついている。
白い肌は荒れていてボロボロ。
何より、肥満体型だった。
ぽっちゃりというレベルを超えている。
豚の方が痩せている。
気味の悪いスライムのようなぶよぶよ体型だった。
彼と王子様なら、まだ王子様の方が容姿が優れていると言えるだろう。
彼は自分が醜い事を重々承知していて、普段このような華やかなパーティーにはいかない。
だが、大国の王子様の誕生日パーティーに行かないという選択肢はなく、渋々来ていた。案の定、パーティーでは美形の兄二人に挟まれ比べられ逃げるようにこの人気のない場所に来たのだ。
そしたら、王子様が目の覚めるような美少女を部屋に連れ込もうとしているのだ。醜い少年は心まで醜くはないのでその正義感から声をかけたのだ。
「彼女は僕と遊ぶ約束をしていたのです。」
「遊ぶ約束?そのようなものは後にしろ。今は私と過ごすのだ。」
王子様は良美を部屋の奥に誘おうとする。
ここでようやく、王子様の目や手つきが不快なものと感じた良美は抵抗を試みる。
逃がさぬと留めようとする王子様。
しかし、醜い少年が良美を守るように動き、ついに良美を奪還する事に成功する。
「っち!仕方ない、この場は諦めるが、必ず私の物にする。」
分が悪いと思ったか、王子様は舌打ちと捨て台詞を残してその場を去った。
「あ、ありがとう!」
良美は礼を述べる。
しかし、少年はすぐにその場を離れようとする。
慌てて追う良美。
良美が追いかけてくるのをみて、醜い少年はパーティー会場に向かう事にする。
良美は醜い少年の後を追い、会場に戻る事ができた。すぐに、大人が良美を取り囲む。
やれ、大丈夫か、とか、心配したぞ、とか。
何やら言うが、良美は先程の少年が気になりそれどころではない。
困った良美を助けてくれたと少年を紹介すれば、何故か少年が悪者のように扱われてしまう。
少年にとってそれは慣れた現象であったが、良美にとっては理解し難いことだった。
「大人は貴方が悪い、私に構うなというけど、違うって私は知ってる。だから、あそぼ!」
「嫌だよ、あっちいけ。」
良美といると大人が醜い少年に辛くあたるので良美を遠ざけようとする。
「ダメ!だって、私と遊ぶ約束してたんでしょ?」
先程の言い訳を持ち出し、醜い少年にべったりの良美。
何故か醜い少年の兄二人は止めにはいらない。
そこに、良美の父親がやってきて、醜い少年を追い払おうとする。
ここで、良美がギャン泣きして、所謂切れた状態となる。
醜い少年にすがりつき、怖い人から助けてくれたのに何故辛くあたるのか、そんなお父様嫌い!
良美の父親が良美を溺愛しているのは有名な話。
嫌いなんて言われた父親は良美の機嫌をとるために醜い少年に謝罪し、良美と遊ぶように頼む。
醜い少年は渋々頷く。喜ぶ良美。
パーティー会場の片隅で二人はご飯を食べて遊ぶ。
大人は社交だが、話題の中心は良美と醜い少年の事になる。
良美があんなに誰かに懐くなんて!
大人にとっては衝撃だった。まさか、あの少年が未来の覇王?いや、良美の父親が許すはずもない!
そんな大人の思惑をよそに子供同士打ち解けて遊ぶ。醜い少年は兄二人以外と遊ぶのは初めてで新鮮で楽しく感じた。また、良美は醜い少年の美しい食事の仕方に深く感心する。同い年とは思えない程、彼のマナーは完璧であり、遊びの所作も美しかった。
だが、良美の心をよそに大人の心無い言葉が醜い少年の心を抉る。
「良美ちゃん、やっぱり、僕と遊ぶのはよした方がいいよ」
「なんで?」
「だって、僕と君とじゃ釣り合わないもの」
外見も身分もあまりに違う。
醜い少年は賢い故に理解していた。
爵位も会社も継ぐ予定のない少年では良美の遊び相手として不足なのだと。
「は?なにそれ?私は私が遊びたい子と遊ぶの。」
良美はこの頃から良美様である。
「貴方は私をあの嫌な男の人から助けてくれた。王子様みたいでカッコよかった。だから一緒に遊ぶの」
言われて醜い少年は驚いた。
生まれて初めて王子様と言われたからだ。
「どこが?僕は全然王子様じゃないよ?」
「金色の髪も青い目も、ご飯食べるその姿も。良美を助けてくれた時も、全部王子様だよ?」
なに言ってんの?
と、言わんばかりに良美は言う。
「でも、この体だよ?」
「?」
良美は首をかしげる。
その姿で、醜い少年の言いたい事がまるで伝わっていないことがわかる。
ここで、パーティーが終わる。
皆が帰る中、良美と醜い少年の別れの時が来た。
「じゃあね、良美ちゃん」
もう、会うこともないだろうけど。
そう、思いながら、寂しさを押し殺し挨拶する。
「王子様はお姫様と結婚するって知ってる?」
「う、うん?」
父親と手を繋いだ良美は別れの挨拶とは思えないことを言い出す。
「私の事、お姫様ってお父様は言うんだよ!」
チラっとお父様を見る良美。微笑むお父様。
「だから、王子様と結婚するからね!」
「なっ!」
醜い少年は顔が赤くなるのを理解する。
心臓が異常に早く動く。
「約束だよ!」
言って、良美は一瞬お父様の手を振りほどき醜い少年の頬にキスをした。
パーティー会場は騒然とし、お父様は凍りつく。
「じゃあね、アラン!」
しかし、当の本人である良美は笑顔でバイバイしたのだったーーー




