約束
アランとノエルを見送り、私はソファに座る。
驚いた。
まずは、その一言だ。
自分以外の転生者に会うなんて想像もしてなかった。
しかも、自分よりはるかにゲームに詳しそうだった。
うん、このままじゃ、ゲーム知識に劣る私はいいように操られてアランと結婚させられてしまう。
と、いうか、アランは隠しキャラ、つまり攻略対象なんだよね?ヒロインとくっつかなくていいのか?
それとも、悪役令嬢の私と結婚エンドって事は攻略対象ではなく、悪役ってこと?
ダメだ、わからん。
と、いうか、改めてあのゲームの難易度の高さを思い知った気がする。どうせ転生するならもう少しぬるいゲームがよかった。
などと、考えていると
トントン
ドアをノックする音がして、ルイスが入ってくる。
「こちらに弟が…」
「いえ、アランはノエルと一緒に出ていきました。」
「ノエルと?」
ルイスは小首を傾げる。
「ええ、意外と話が合いまして。」
適当に流す。
「そうですか。いえ、改めて今回の件で謝罪したく…」
「いえ、私も普段はもう少し周りに気を配っているのですが、ちょっと油断してまして。私にも非があるので、今回は私の思いつきで観光に来たという事で」
私の言葉にあからさまにルイスはホッとする。
「そう言っていただけると助かります。所で私達3人が婚約者候補だというのはご存知だったのでしょうか?」
「すみません、お見合いの話しは全て使用人に一律断るようにと一任しておりまして、お三方が候補だったことは私、存知ておりませんでした。」
「そうだったのですね。いえ、弟から聞いた通りで驚きました。私達の資料も特に目を通さずに?」
「はい、申し訳ございません」
私は素直に謝罪する。
「では、実際に会ってみてどうでしたか?」
「どう、とは?」
「アランです。」
「コメントのしようが…」
私は困ったような雰囲気を醸し出す。
「いえ、アランは貴方と結婚するつもりで今日まで生きてきたも同然の男なのです。良美様には大変失礼な事をしたというのは重々承知しております。ですが、愛しい人に会うことすら許されずにいた哀れな男をそのお心の片隅に置いておく事を許しては頂けないでしょうか?」
「そんなに、彼は爵位と会社が欲しいのですか?」
「はい?」
ルイスが声をあげる。
「えっと、アランが私と結婚したいのは、そういうものが欲しいからですよね?」
「いえいえ!そんなことありません!!」
「まさか!」
「何故、そのように思うのです?」
そんな事、聞くまでもないだろうに。
「この外見ですよ?」
私は肩を竦めて言う
「…?とてもお綺麗で…」
「そういうお世辞は間に合ってますわ。」
にこりと笑う私に何故か慄くルイス。
笑顔も怖い悪役です。
「こんな醜い女と結婚なんて、北帝やご実家を継げるとか旨味がないとできないでしょ?」
「え?あの??」
「そういう、野心家な方は好きになれる自信がありません。」
「ちょっと待って下さい!」
ルイスがストップをかける。
「誰がそんな事を言ったのですか?ノエルですか?だとしたら、そんな戯言信じてはダメです!」
大声でルイスは言う。
「そもそも、爵位も会社もアランが継ぐ事で決定してます。」
「え?三男なのに?」
「私は体が弱いので、会社のトップや北帝の時期当主など務まりません。ノエルは精神科に通院歴があり、やはり会社や爵位を賜れる立場にありません。従ってアランが三男ではありますが、我がノブリース家を継ぐ人間です。北帝との婚姻等なくても、それは確定です。」
え?なんだって?
でも、ジェット機の中で聞いた時…あれ?
そういえば、肯定はしてなかったな。
「でも、北帝はノブリース家としては欲しいでしょう」
「私もノブリースの人間です。北帝の姻族となれば今後300年は我が一族は安泰でしょう。一族の人間としてそこは否定できません。しかし、アランは違います。私やノエルは打算込みで結婚を申し込みましたが、アランだけは違います。」
ここで、言葉をルイスはきる
「良美様は覚えてないのでしょうか?アランとの子供の頃に交わした約束を」
「約束?」
「アランは純粋にその約束を守る為に結婚を申し込み、そして断られても諦めず、貴方を浚うという暴挙にでたのです。」
…約束?
はて?
全く覚えてない。
考え込む私を見てルイスはため息をついた。
「どうか、アランの為に思い出して下さい。
北帝の一人娘たる貴方の元には幾多の求婚があったでしょうが、真実貴方を想っているのはアランだけと兄として自信を持っていえます。」
ここで、私の手をそっと包み込むようにして握る。
「…愛しているのです。深く、誰よりも。
どうか、その言葉に一度でよいので耳を傾けて下さいませんか」
その言葉に私は…
ガチャ
最早、ノックなし。
アラン、再登場だ。
先程より、怒りのオーラを強めルイスを見てる。
「…愛してる?」
アランが言う。
「兄上、良美は私の婚約者です。勝手に触り、しかも、愛を語るなど、例え兄上でも許せません」
「え?ちょっと待て、誤解だ。」
ルイスは慌てて手を放す。
でも、なんか遅い気がする。
アランが一歩一歩ルイスに近づく。
ルイスは恐怖で身を縮こまらせる。
助けを求め私を見るが、ノエルの時と同様私は視線を逸らす。
さっき以上に関わっちゃいけない。
ごめんよ、ルイス。
私は、ルイスがアランに引きずられていくのをそっと合掌しながら見送った。