辿り着く未来は幸せか
普通なら馬鹿にして終わる言葉だった。
でも、私にはそれもあり得ると感じた。
だって、自分が転生者で、未来がわかると言えなくもないから。
でも、とりあえず、自分が転生者だって事は伏せて話を聞こう。
「未来?それって私の?」
「信じてくれるのか!?」
バッと顔をこちらに向ける。
「信じるというか、まずは話を聞こうかと。まずはそこからでしょ?」
「ああ、そうだな。」
ノエルは大きく息をつき、ソファにもたれかかる。
「俺にはあんたの未来がわかる。だけど、俺が知ってる未来は1つしかないが、未来とは複数あり、実際にあんたが辿り着く未来は俺の知ってるものとは限らない。」
「不確定要素が多いってこと?」
「そうだな。」
ノエルは頷く。
「で、貴方が知ってる未来ってのはどういう未来なの?」
「簡単に言えばアランと結婚して、会社が北帝の傘下に入り、一族は姻族となり、繁栄するというものだ。」
「随分、貴方達にとって都合のよい未来ね。」
私は小馬鹿にしたように言う。
「ああ、俺もそう思う。だが、未来とは常に複数あり、今言ったのはそのうちの1つにしかすぎない。実際あんたがその未来に辿り着くかは不明だ。」
「じゃあ、未来を知ってるって言うけど、証明する手段はないのね。」
「ああ、だから、言ったろ?誰も信じやしない。よしんば俺が言った未来に辿りついたとしても、充分想定可能な未来だから、偶然で片付けられるし、俺の知らない未来の数が多すぎて当たる事の方が稀だ。」
「それ、占いレベル。」
私は突っ込む。
「で、占い師さん。貴方の知ってる未来に私は行けそうなの?いや、行っていい未来なの?」
「占い師言うな。俺の知ってる未来に行けるかはわからない。既に俺の知ってる良美と実際の良美にはかなりずれがある。」
うっ!
危うく言葉に出るところだった。
「アランと結婚は…」
ここで言葉を切って視線を彷徨わせる。
「いいのかな?」
「え?私にきかないでよ。」
不安になるじゃないか!
「いや、俺の知ってる未来のアランと実際のアランもかなり違うんだ。俺の知ってる未来通りなら、良美はアランと仲睦まじい夫婦になって、可愛い子供にも恵まれて所謂ハッピーエンドだ。でも、実際の二人があまりにかけ離れていて…」
「ぐ、具体的にどう違うのよ?」
「まず、アランだが、俺の知ってる未来ではもう少し大人びた人間だった。」
大人びた?どこが??
「勿論、俺の知ってる未来通りの部分もあってな、それは良美への愛情の深さ。」
あれは仕様か!
「そして、お前だ。」
視線が私を捉える
「俺の知ってる良美は我儘で高飛車な醜い女。」
まんま、ゲームの私!
「だが、実際は違う。アランはあの通り子供ぽい
し、あんたは我儘でも高飛車でもまして醜くもない…寧ろ、綺麗な女性だ。」
いやいや、綺麗は言い過ぎ。
こんな所で世辞を言っても仕方ないよ?
「だから、俺の知ってる未来に辿りつけるかというと正直自信がない。」
「でしょうね。」
「だが、しかぁぁぁし!」
いきなり、立ち上がり彼は叫ぶ
握られた拳に力がこもりギリギリいってる
「良美にとっていい未来かは今となってはわからないが、少なくてもアランと結婚すれば会社と一族は安泰だ!」
「お、おう?」
「だから、アランと結婚するように良美を導く!」
「えっ?」
な、なんで、そうなる!?
「大丈夫、アランの愛情は本物だ。顔も悪くない、小国なれど貴族で身分は悪くない、会社だって北帝の傘下に入って見劣りしないレベルだ。だから、結婚考えてみない?」
結局、そこに話が行き着くのかよ。
でも、こいつの言った良美像はまんまゲームの良美だった。
未来がわかると言い出した時点で、ピンときた1つの仮説。
未来は複数ある、これはゲームエンドが複数あるってこと。
不確定要素、これはどの分岐ルートを選ぶか不明だということ。
導くってゲーム専門用語でいうところの…
「あなた、サポートキャラ?」
この言葉に彼は文字通り固まった。
大きく目を見開き、呼吸が荒くなる。
軽く震えている。
この反応、間違いない。
「あなた、転生者ね?」
「あ、あ、あ…」
ノエルはその瞳から大粒の涙を零しはじめた。
「ちょっと、泣かないで!」
慌てて私はハンカチ…は、もってなかったので、机の上に置いてあるティッシュを箱ごと手渡す。
彼は受け取り、涙を拭い、鼻をかむ。
「も、もしかして…」
「ええ、私もよ」
「お…」
「?」
「俺だけじゃなかった…」
彼は再び涙を零す。
少し、落ち着くのを待つか。
「すまん」
「いえ」
数分後、彼は語り始める。
「俺は生まれた時点で前世の記憶があった。」
まじか…
「そして、6歳になり、弟のアランが生まれて、ここ、乙女ゲームの世界だと気付いた。…乙女ゲームってわかるか?」
「ええ、ラブ&マネーでしょう」
「そうだ。気付いた時の衝撃と言ったら言葉にできないレベルだ。周りに乙女ゲームの世界だ、未来ではと話まくった結果心療内科に通い薬を処方された。」
「まあ、当たり前よね」
私は頷く。私が親なら入院させる。
「でも、アランなんてキャラでてこなかったわよね?」
「あんた、前世でどの程度プレイした?」
「全ルート試して、バッドエンド以外見れなかった。」
「ま、普通レベルのプレイヤーだな」
何故か勝ち誇っていってくる。
「ってか、前世で貴方女性だったの?」
「いや、男。」
「男なのに乙女ゲーム?」
「俺だって乙女ゲームなんてやりたくてやった訳じゃない。俺はゲーマーで、ありとあらゆるゲームをクリアする事に命かけてた隠れオタクだった。で、俺には姉がいたんだが、どうしても全然クリアできない、助けてと言われ手を貸す事にした。それがこのゲームとの出会いだ。」
「で?当然クリアしたのよね?」
「比較的チョロい屋形と匠ルートのみハッピーエンドをみた。」
「おー!」
「だが、あのゲーム、難易度高すぎだろ!ゲーム慣れしてないお嬢さんが手を出していいレベルじゃない。俺ですら屋形で16周、匠で18周でようやくハッピーエンドを迎えた。」
ぐっと過去を思い出し遠い目をする。
確かにあのゲーム、気楽にキュンキュンできない仕様だ。
てか、よく飽きずにそんな周回プレイできたな。
「で、匠ルートをプレイ中、偶然なんだが、隠しキャラ解放条件を踏んだ。」
「待って!あんなに難しいゲームでさらに隠しキャラがいるの!?」
「ああ、いた」
「つまり、それが、アランって訳ね」
「いや、」
トントン、ガチャ!
「兄上??」
話をぶった切ってアランが部屋に乱入してくる。
ちょっと、今いいところ!
「何、私の婚約者と二人で見つめあい話しているのですか?」
「いや、アラン?落ち着こう、な?」
ノエルが声を震わせ言う。
「落ち着いてますよ?すごく、ね?とりあえず、私の婚約者から離れて下さい。そして、私の部屋でゆっくり話を聞かせて下さい。」
怒りが透けて見える声でノエルに語りかけるアラン。
助けを求めるように私に視線を送るノエル。
視線を逸らす私。
すまん、関わりたくない。
私はアランに場所を譲る。
アランはノエルの腕を掴み、ずるずる引きずって部屋から出て行ったのだった。