君は誰?
プライベートジェットに乗ってるあいだに考える。隣の男について。
良美と昔何かあったのだろうか?
こんな、金髪青目の王子様ルックな人を忘れる訳ないだろう。どこで、どのタイミングで出会っても記憶に残せる自信がある。
なのに、全く覚えてない。
アランの勘違いじゃないのか??
それに、私には前世で培ったゲーム知識がある。
最も、どのルートも満遍なくやったが、ハッピーエンドは見ていない。
しかし、どのルートでも、こんな王子様キャラ出てこなかった。モブとしてすら、でてきてない。名前すら聞いてない。
でも、このイケメンぶり。
ゲームとは無関係と思えない。
スベルニア王国。
現在私が向かっている国の名前である。
ヨーロッパにある小国で、王国との名前通り、
王政が敷かれている。
貴族制度は現代ではお飾りだが、爵位と財産は代々受け継がれている。ちなみに、領地は第一次大戦以降没収されており、ノブリース家も子爵だからと言って遊んで暮らせる訳でなく、会社を経営している。社名を聞いてみたら、日本では皇室御用達の菓子メーカーであり、社交界ではかなり有名だった。私も好きでよく食べていたが、太る原因でしかなく、最近は口にしていない。
そこの跡取り候補っすか…。
この人と結婚したら毎日お菓子浸けになり、また太りそうだ。
「さて、我が国が見えてきましたよ」
アランの声に私は窓を覗く。
眼下に広がるのは緑が豊かで、立派な王城そびえる大地だった。
プライベートジェットから降りるとすぐにリムジンに乗り込み、1時間程。
日本から実に丸一日かけてアランの自宅に到着した。さすが、子爵家の邸宅と言える立派な屋敷だった。
来ちゃったよ、本当に…。
私、京都に行くはずだったのに、なんで外国にいるんだろ?
いや、我に帰ったら負けだ。
なんだか、すごく疲れた。フライトがながかったからだけじゃない。
精神的に疲れた。
「どうぞ、こちらです」
アランが私をエスコートする。
「すでに部屋は用意してあります。まずは、ゆっくりとお休みください。」
促されるままに、私は屋敷内に入り、部屋へ案内される。
立派な部屋の内部はロココ調の家具で統一されており、部屋付きのお風呂は猫足で、薔薇の花びらが浮いていた。
え?これに入れと?
私、自宅でもこれはやったことないわ。
主にビジュアル的に毒にしかならないと判断して。
でも、私はとても疲れている。
もう、これしかないなら、それでいい。
お前らが勝手に用意したんだ。
目が潰れても知らん。
私はバスタブに身を沈め、薔薇の香りがするシャンプーで髪を洗い、出た。
準備されていた、透け感抜群のネグリジェをきて、天蓋付きのベッドにダイブする。
そのまま、眠りについたのだった。
「アラン!」
俺は帰ってきたばかりの弟に声をかけた。
俺と違い、王子様のような容姿の彼はかなり、上機嫌だった。
もう、聞かなくてもわかる。
今、この屋敷内に、いるんだな。
良美が。
「連れてきたんだな…」
「ええ。」
浮かれた声で弟は答えた。
まさか、連れてこれるとは思わなかった。
と、思うと同時に、成功は予定調和だとも思う。
「で、良美は覚えていたか?」
「…いいえ…」
沈んだ声でアランは答えた
予定通り。
正確には覚えていないんじゃない。
思い出のアランと今のアランが一致してないだけだ。そして、すぐに一致するようになる。
「アラン!」
遅れて、兄上がやってきた。
黒髪、青目で右目に眼帯の美青年だ。
常々、遺伝的にこの髪と目の色の組み合わせはありえないはずだと思うのだが、まあ、そこはお約束の外見ってやつだ。
「本当に北帝の姫を連れてきてしまったのか?」
「ええ。勿論。」
「なんてことを!!今からでも遅くない、早く日本に帰してしまえ」
「何を言っているんですか!彼女は私の婚約者です!婚約者の国にいることがなんの問題でしょう!」
「北帝からは正式に断られているだろう!」
「どうやら、良美は私が結婚を申し込んだことをご存知なかったようです」
「どういうことだ?」
「使用人が一律で断りの返事をだしていたようです。でなければ、私が断られるはずがありません。」
「…」
兄上が助けを求めるように俺を見る。
見られても困ります。
「私と良美は幼き頃からの絆があります。大丈夫、すぐに私との婚約をうけいれてくれます」
若干性格がおかしなことになっているような気がしてならないが、気にしたら負けだ。
そう、間も無く、良美が目を覚ます。
そして、予定通り出発していれば、アレもそう遠くないうちにやってくる。
俺は俺の役割を果たす、それだけだ。
既に荷造りは終わっているし、問題ない。