良美ちゃんビューティ計画始動
朝から車を走らせて向かった先は北帝医療センター。名前で分かる通り北帝家が経営している医療法人である。日本でも有数のセレブ病院で芸能人、政治家等の利用者が多い。私はそこの皮膚科の門扉を叩いた。
私を診察した医師は太った老医師だった。ゴツゴツとした手で私の顔を触る。何故か隣にいる石竜子が顔を歪める。
「うん、かなり酷いね」
みれば分かる。
「治ります?」
「薬を処方すれば今よりはマシになるよ」
「今よりは?」
「うん、自分で潰した所があるでしょ。これ痕になって消えない。にきびが治っても肌がクレーター状になってしまって綺麗とはいえないかもね。」
まぢか。
いきなり良美ちゃんビューティ計画が頓挫したぞ。肌が綺麗なら多少目鼻立が悪くても誤魔化せると思ったのだが。だが、とりあえず薬を処方して貰おう。肌のクレーター部分はもしかしたら化粧で誤魔化せるかもしれないし。老医師に薬を処方して貰い病院を後にした。
次に向かった先は美容院だ。
青山の一等地にある店で普段はここの美容院の店長を自宅に呼んで髪を切って貰っている。今日は思いつきで髪を切る為直接店に来たのだ。
「いらっしゃいませ、お嬢様」
私の顔に気づき、足早に私の所にやってくる店長。青山という高級地にある店に似合わずドレッドヘアの男だ。確か今年で40歳、妻子ありと言っていた。本当なのか疑わしい。他にお客さんがいるにもかかわらず私を最優先で席に座らせ接客を始める。
「お嬢様、本日はお店まで直接来て頂き誠にありがとうございます。本日はどのようにいたしましょう?」
「まかせる」
「はい?」
「貴方に任せる。どうすればよいか分からないから。」
しばし呆然とする店長。ちらりと入口近くで直立不動で待つ石竜子を見る。何故にそちらを見る?
「お嬢様の髪は真っ直ぐでお綺麗なので下手に染めたり巻いたりしない方がよいかと思います。切り揃えるくらいが一番かと思います。」
「…そうなの?」
本当だろうか?
どうみてもボリュームもないし、ツヤもない。この髪が綺麗?それとも私の髪は一流の美容師でもお手上げのダメ髪なのか?
「…じゃあ、いつものようにお願い」
「かしこまりました。」
ほっとしたように言われて若干へこむ。やっぱりダメ髪なんだなぁ。結局、数センチ切ってこの店を出る。
次に向かった先はスポーツジムだ。
だが、予想外のジムだった。
「ここって」
「はい、よくCMでやってる厳しいで有名な所です。」
しれっと言うのはダイエットとは無縁の男石竜子だ。
「お辞めになります?」
「なんの!厳しいくらいが丁度いい!」
そうだ、当初想定していた完全会員制ジムではだらけてしまい目標を達成できない可能性が高い。流石出来る執事。私の希望がわかっている。私はジムの中へと入って行った。
「初めまして。当ジムでは会員一人一人に専属トレーナーがつき指導を行い目標体重へ導きます。運動だけでなく、食生活指導も行いますので効率良く体重を落とせます。」
そう説明する男を私は知ってる。堂本要。攻略対象だ。だけど、彼の職業はスポーツジムのトレーナーなどではない。彼は空手家だ。日本だけでなかアメリカ、フランス、韓国、中国に道場を持ち海外で空手の普及を目指している侍だ。いや、なんであんたいるんだ?めっちゃ聞きたいが一般的に有名な訳でないので何故知ってると突っ込まれると困るので聞けない。
「で、都築様ですと身長150センチに対して体重が60キロ。ベスト体重ではないのは明らかです。目標は45キロ。問題ないでしょうか?」
「はい、大丈夫です。」
都築とは私の母方の苗字だ。北帝は目立つので一般的な施設では都築と名乗っている。
「では明日から毎日通ってください。」
「ま、毎日ですか?」
及び腰になった私を堂本は小馬鹿にした目で見る。
「はい、毎日です。ダイエットは継続です。最低毎日通い四時間は運動して頂きたい。」
「…はい…」
ぐうの音も出ない正論でやり込められ私は頷くしかできなかった。
「次はショッピングですか?」
「そう、痩せたら着たい服を選ぶ。」
ジム内を石竜子と移動しながら話す。痩せるにはモチベーションを維持する必要があるんだよ。
「あ、トイレ」
私は石竜子から離れてトイレに向かう。途中少し開いたドアから話し声が聞こえる。関係ないのでさっさと立ち去ろうとするが
「…さっきのにきび女みた?」
の、一言にぴたりと立ち止まる。
「見た。超ブス。生きてるの辛くないのね?」
「辛いからここに来たんだろ。てか、ここブスデブ多くてマジウケる。そしてブスの癖に俺見てぽーっとなってるのマジきもい。」
「そりゃイケメンに微笑まれるなんて経験ここくる女はないだろうからね。」
「でもじっと、見つめすぎ。男に飢えすぎ。」
「しばらくたのしめそうだろ?」
「ああ、今年は日本での活動が中心になるから暇つぶしに遊びにいくよ。超ビシバシやってブス共で遊ぶ。特にさっきのデブブス女ガンつけてきやがってマジムカついたからボコボコにする勢いでやる。」
「おいおい、うちの店から自殺者でたら困るから程々になぁ。」
…うわ、マジ殺したい。
ガンつけたって元々目つきが悪いだけですから。
しかし殺意が沸くってこう言う事か。
絶対この店で痩せてやる。
絶対堂本なんかに負けない。