悪役令嬢に助力を求める
学校は騒がしかった。何故なら文化祭が近いからだ。
文化祭!!やだ、高校生チック!
前世アラサーな私にはちょっと刺激が強いな。私が高校生の時は…うん、なんだろう、思い出したくない。
ゲームでも、文化祭はイベントとしてあった。匠ルートの時は強制、その他ルートの時は任意であったが、現実として生きている以上スキップする事はできない。
だから…
「坂下さん!今年こそはミスコンにでてよ!」
「長谷川くぅん!今年もミスターコンにでてね!二連覇だよ!」
私の前の席にも後ろの席にも人が集まり、私、自分の席にいるのに、ちょっと邪魔なんだけど、的な視線を浴びるのは仕方ない。うん、私にミスコン、ミスターコンは関係ない。
そう思っていた時期が私にもありました。
「な、な、何の用ですか!」
私は叫ぶように言う。
ここは、科学実験室。我が高校には3箇所あるが、うち1つ第三科学実験室…通称『開かずの間』にいた。…と、言うか引きずり込まれた。
いや、教室の前を通っただけなんだ。
そしたら、教室のドアが開いて、腕が私を掴んで、教室に引きずり込んだんだ!!
ホラーだよ!怖いって!!
でも、引きずり込んだ本人の方がビビっているので、どうすればよいのやら。
白衣を着た長身の黙っていればイケメン。本性は思い込みの激しい変態、後藤先生だった。
この教室が開かずの間などと呼ばれているのは、後藤先生の根城だからだ。この教室だけ、高校の実験室とは思えない高価な実験機材が所狭しと置いてある。初めて入ったけど、教室を私物化するのはどうかと思うぞ。
「助けてくれ!」
「…は?」
「いや、こんな事言えるギリではないのだが、助けてくれ!」
ガクガク揺すられながら叫ぶように言われる。
「俺は去年の二の舞にはなりたくないんだ!知り合いの生徒で、かろうじて声をかける事が出来るのは北帝しかいないんだよ!」
私に声かける事が出来るってどんだけ面の皮厚いんだ。私はため息をついた。
「…で?去年の二の舞ってなんですか?」
去年、私は普通に文化祭を堪能した。特にこれと言って事件なんてなかったと記憶しているが?
「ミスターコンの姫だよ。」
「…?」
去年のミスターコンの優勝者は匠だ。それは覚えてる。でも、姫ってなんだっけ?
「お前、マジで知らないのか??」
「なんの話よ?」
「ミスターコンで優勝者をミスターキングと言うのは知ってるよな?」
「うん。」
参加者全員王様ルックで壇上にあがるのだ。匠は似合ってたなぁ。
「で、キングが決まった後、姫と並んでキスするイベントがあるの知ってるよな?」
「なにそれ?」
「去年やったぞ!忘れたのか!」
全く記憶にございません。
「大体姫って何?ミスコンの優勝者?」
「ミスコンの優勝者はクイーンだ。姫じゃない。姫ってのは予めミスター・ミスコン実行委員により選ばれるエスコート役だ。因みに、ミスコンの場合は王子がやはり実行委員により選出される。」
「それがどうしたのよ」
「去年、やったんだよ。」
「王子を?」
「姫をだ!」
「…?」
ごめんなさい、何言ったのか理解出来ませんでした。
後藤は男性だ。そしてうちは共学だ。わざわざ男性のしかも教師を姫にする理由がないと思う。
「…で、今年はやりたくない!」
「やらなきゃいいじゃん」
「去年、大層受けてな。」
後藤が遠い目をする。
「やっぱ、女装とかすんの?」
「…」
無言の肯定が痛い。
「去年の仕掛け役が今年の実行委員長なんだ。俺はやりたくない!なんとか、奴を止めてくれ!!俺に平穏を!」
後藤は去年、女装して匠のエスコートとキスをしたらしい。確かにトラウマになるな、それ。
「ごめん、私も見てみたい。」
じゃっと、教室から出ようとしたが後藤が私を離さない。
「見捨てるな!第一お前も他人事ではない!」
「どういう事?」
「今年のミスコン優勝候補は坂下だ。」
坂下の名前を言いづらそうに言う。
「でしょうね。」
この世界の主人公が優勝候補に決まってる。てか、優勝する。
「その時のエスコート役にはお前の名前が挙がってるんだ。」
「何、それ?私が男装して王子ってこと?」
「そうだ。…やりたいか?」
言われて想像してみる。男装なんて似合わないと思うが、ヒロインと楽しく過ごせるならちょっとくらい、スポットライトに当たってちゅーするのも悪くない。
「因みに王子、姫に選ばれるとその後一ヶ月学校内で男装、女装を続けさせられる。」
「何それ!」
「学生のお前は制服が逆転する。しかも、一ヶ月の間に2年のお前らは修学旅行がある。その間ずっと男装だ。私服ならボーイッシュで通るが制服だぞ。いく先々で奇異の目で見られる。」
「そ、それは…」
何故、祭りの間で終わらないんだ!?
さすがに嫌だ!祭りの間のほんのギャグだから許せるのであって、その後一ヶ月もやるってバツゲームじゃん!
「バツゲームなんだよ。」
「は?」
私の心をよんだかのように後藤は言った。
「俺は仕事をしない罰。お前は…」
私は天を仰ぐ。
「北帝である事の罰」
「その通り」
後藤は肯定する
北帝に生まれたのは私のせいではない。
が、逆恨みというものに私はしょっちゅう晒される。中には私の我儘のとばっちりを受けた人の報復もあるだろう。逆恨み、報復がこの程度で済むなら安いとも言える。
が、できれば避けたい。
「で、どうすればいいわけ?」
私は不本意ながら、後藤に手を貸す事にした。




