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屋形誠

俺の天使は俺といつ初めて出会ったか知らない。彼女は昔、コンビニでアルバイトをしていた。俺はたまたまそこを利用した。マニュアル通りの対応をされた。それが出会いだ。完全に一目惚れだった。世の中にそんな現象がある事は知っていたがまさか自分が体験するとは思わなかった。俺はすぐさま、彼女を調べた。名前から家族、生い立ちまであっという間に調べ上げた。あまり良い家族ではないようだったので、そこを利用して彼女を困窮させた。双子の弟も助け合っていかれては困るので、ちょっと車で撥ね飛ばしておいた。予定通り彼女は困窮し、俺の友達がやってる店に雇われて…まあ、後は簡単に自分の懐にしまいこめた。そう、ここまでは。


変わったのは学校に通いだしてからだ。同じクラスの男子が気になるのなんて言うから調べたら普通の男だった。こいつなら俺から彼女を奪わないと思ったから放置した。彼女は学校に行く度に楽しそうにしていた。どうも、恋のライバルがいるらしい。微笑ましかった。一年の終わりにどうやらその男子と付き合う事になったらしいが、あっという間に別れた。別に傷ついた様子もなかったので気にもとめなかった。


いつの間にか、恋のライバルとやらと友達になったらしい。元彼と共に楽しく学校生活を謳歌していた。そして、いつの間にか新しい恋を彼女はしていた。彼女自身名前も知らない相手との事なので調べようもなかったし、もう二度と会うこともないと思ったので、放置した。それが悪かったのか、なんと、付き合いはじめた。付き合い初めてから調べたら、そこそこの男だった。そいつは身の程知らずにも俺に挨拶をしてきた。俺の物に手を出した盗人が図々しい。速攻、潰そうと思い、金をかけて罠に嵌めるも、失敗する。何故か北帝が関わってきたのだ。どうやら、北帝は盗人に惚れているらしい。きっと男の気をひきたくて助けたのだろう。気に入らないが、女なんてそんなもんだ。


偶然を装い北帝と会った。噂と違い、普通の女だった。自分の見せ方を知らないだけの蕾だった。簡単に俺に惚れた。このまま、俺に惚れさせ俺に従順な女にしてしまおう。


天使にホテルのチケットを渡した。予想通り蕾も誘って遊びに行った。小芝居を打ってデートする。初心な女は楽しい。この楽しさは天使では味わえなかった。


蕾を食事に誘った。なんだか様子がおかしい。すぐにそう思った。もしかして、ばれたか?いや、まさか…。


予想通りばれたみたいだ。想像以上にこっちの事情を知っていた。北帝を舐めていた。そして、堂本と天使の仲を邪魔するなという。俺には天使は相応しくないとも言う。俺では天使を抱くには手が汚れすぎている…そう指摘された。天使は盗人の物だと?もう戻ってこない?いや、認めない。あの男が堕ちれば俺の所に戻ってくる。そうに決まっているのに、何をいっているんだこの女は?

おかしな女だったので、半ば衝動的に黙らせた。


少し強くやりすぎた。うっかり殺してしまったか?いや、この女は北帝だ。殴ってしまった以上最早生きていては、俺の今後を考えても都合が悪い。なかった事にしなくては。俺は女を車のトランクにしまい、よく、ゴミを捨てる所へ向かった。絶好の場所に着いたのでトランクを開けたら普通に起きてきた。生きていてよかったような、都合が悪いような。もう、面倒だし、この口はやっぱり俺を否定する。黙らせたくて首を絞める。女の首なんて簡単に締め上げる事ができるのだ。


だが、邪魔が入った。見知らぬバンが止まり、男がこちらにかけより、俺を殴り飛ばした。地面に転がる。男は女を揺すって起こそうとしていた。

「屋形さん!」

この世で一番好きで、今一番聞きたくない人の声がした。ああ、俺の天使。その後に続くように、憎い男、堂本が現れる。俺は立ち上がり、堂本の所へゆっくりと歩く。堂本は警戒して天使を背後に隠す。それは俺のだ。返せ。渾身の一撃が堂本の顔にヒットした。しかし、間髪いれずに、堂本の蹴りが俺の腹にはいり、俺は無様にも地面に伏した。だが、再び立ち上がろうとして、膝を立てた。


少し遠くで知らない男と蕾の声が聞こえた。どうやら、気がついたらしい。殺そうとしておいてなんだが、助かってよかった。このまま、殺さずに済むならそうしたい。


俺は立ち上がりたかった。でも立てなかった。武道家の蹴りをまともに食らったのだ。当たり前だ。俺は堂本の後ろにいる天使に声をかける。恥も外聞もない。

「香織、愛してる。その男より愛してる。大事にする。嫌なところがあるなら、全て直す。堂本がいいなら、堂本がいてもいい。俺にも香織の愛をほんの一欠片で構わないから貰いたい。愛してるんだ。香織、愛してる、愛してる…」

うわ言のように愛を乞うた。気づいたら涙がこぼれた。

「堂本、俺が悪かった。謝る。だから、頼む、香織を返してくれ。いや、違う、俺にも香織に触れる権利をくれ…下さい、俺は香織がいないと生きていけないんだ。」

俺は頭を下げた。額に土がつく。かっこ悪くてもいい。情けなくてもいい。香織が俺にも微笑んでくれるのならば。


しかし、俺の心は届かなかった。二人は俺の愛も謝罪も拒否した。…そうだと思った。俺は手を汚しすぎた。天使を求めてはいけない。ああ、もう、俺は生きていけない。


自然と笑みがこぼれた。ならせめて。一緒に逝こう、俺の天使。


俺が胸元から短刀を出すと同時に誰かが走る足音が聞こえた。そして、次の瞬間俺の横に想定外の衝撃が加わった。

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