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悪役vs悪役3

意識が戻った。

「!?」

狭い!なんだ、ここは?私は体を折り曲げられ横に転がされていた。縛られている訳でもないのに、寝返りも手足を伸ばす事もできない。そして、真っ暗で、背中に振動を感じる。この振動はたまに消えるが数分以内に復活する。…ここ、もしかして、車のトランクの中?

「痛い…」

私は頭を屋形に殴られた。そして、意識を失い、今にいたる。その事に気付いたと同時に頭の痛みが増していく。体勢もきつい。これって、かなりヤバイのでは?だって、屋形は反社会的勢力と繋がっているのだ。そして、この雰囲気。死亡フラグ立ってる!てか、殺したと思っていて死体隠蔽の為移動中って雰囲気じゃないか!?私は起き上がろうとして、頭をぶつけてしまう。ダメだ。どうにもならん。とりあえず、ここを開けて貰うのを待とう。…空気もつよね?私は努めて心を落ち着かせる。窒息死だけは勘弁だ。やがて、背中に感じる振動がかなり不規則なものになり、体が時節跳ね上がり、強か打って、悶えたりしていると、いきなり止まった。…着いたのか?私は解放の時を待つ。


ガチャリ

そんな音がしたようなしなかったような?

少し間をあき、光が目をやく。

「…!生きてたか」

「やっぱり、殺そうとしたのね。」

私はまぶしさにクラクラしながらも、屋形の声にこたえた。上半身を起こす。だんだん目が慣れる。周りは木々で覆われていた。森?林?山の中?

「もしかして、私を埋めようとした?」

私がある日突然消えたら見つかるまで文字通り草の根かき分け捜しだそうとするだろう。

「と、言うか、なんで殴られたのかな、私?」

煽った自覚はあるが、殺される程の事はしてないつもりだったんだが。

「…」

屋形はこたえない。ただ、じっと私を見ている。何を考えているのか、私にはわからなかった。

「生きてたか。」

再び同じ言葉を吐き出す屋形。心なしか、ほっとした雰囲気を感じる。殺すつもりはなかったのかもしれないな。

「今なら、何もなかった事にできるわよ」

「いや、戻れないだろう」

屋形は即答する。私を殺さなければいけないと思っているのか、それとも…。

「もう、戻れない。なんで、俺の天使に近づいた?なんで、彼女は俺を選ばなかった?」

屋形は私の首にその手をかける。

「せっかく捕まえたのに。俺から盗みやがって、あの男。」

「…!」

力がこもり息苦しくなる。私は屋形の手を掴み抵抗する。く、苦しぃ…視界がチカチカする。目眩がする。途端、走馬灯のように、いつかの出来事が頭をよぎる。嗚呼、一度聞いておけばよかったな。後悔のようなものが頭をよぎった。遠くで私の名前を呼ぶ懐かしい声が聞こえた。きっと気のせいだろう、私は目を閉じ、意識を手放した。



体が揺すぶられ、意識が戻る。目の前に石竜子がいた。

「ーーお嬢様!」

石竜子の声で覚醒する。どうやら、意識を手放した時間は一瞬だったらしい。

「な、なんで?」

「発信機を追ってきたのですよ!」

「屋形は!?」

私は屋形を探す。石竜子の後ろの方に彼は膝をついていた。その目の前には堂本とヒロイン!?

「ちょっと!なんでヒロインがいるのよ!」

「…まあ、隠し事が出来ない人だったというしか…」

堂本は正直者。きっと無駄に鋭いヒロインに見抜かれてしまったのだろう。

「だからって何も連れてこなくても…」

鈍い痛みを感じながら頭を押さえると何かがべとっと付着する。見てみると赤かった。

「決着をつけるのは、我々ではなく、彼らですから。彼女がいなければあの男は納得しないでしょう。」

「…で、ヒロインはどこまで知ってるの?」

「おそらく、全てを。」

私は天を仰いで目眩を無駄におこす。そうか、両親の借金も、雪平君の事故も、ドーピング事件の事も全部知ってしまったか。私は庇いたかったんだけどな。やっぱり彼女はヒロイン。彼女を無視して攻略対象をこっそり退場させる事など出来ないという事か?

「我々に出来るのは見守ることだけです。」

言われて私は頷いた。ドーピング事件から始まり今に至るまで私は首を突っ込みすぎたのかもしれない。だって、わかってた。堂本が没落したってヒロインは堂本から離れないって。互いを支え合っていけるってわかっていたのに、なまじ未来を知ってるせいで、少しでも悪い未来を回避しようと無駄に足掻いて結果がこれだ。こんなの悪役やモブの仕事じゃない。道化だ。しかも、気がついたらクライマックスってどうかと思う。私はふっと笑う。石竜子か眉をしかめた。笑ってる場合じゃないと言いたいのだろう。私は主役と悪役の舞台を観客の立場で見守る。屋形はヒロインの前で愛を乞うていて、ヒロインは拒否している。堂本はヒロインを庇うように間に立つ。ふいに、屋形が嫌な笑みを浮かべた。この笑み、私さっきもみた。私は石竜子を押しのけ車のトランクから飛び出し、まっすぐ屋形の所まで走った。

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