悪役は攻略対象になりたい
石竜子に屋形誠について調べて貰う事にした。大体タイミングがよすぎるのだ。堂本没落イベント回避後に登場した攻略対象。そして、現在ヒロインの生活を見ている男である。
ゲーム開始後、ヒロインが最初に出会う攻略対象が屋形だ。出会い後、そのまま屋形ルートを突き進めば問題ないが、ヒロインはゲームが進めば屋形以上にセレブな攻略対象に出会い玉の輿にむけて動き出す。そして、他の攻略対象のルートに入ると、途端にゲームから姿を消す。つまり、モブへジョブチェンジするのだ。なんて羨ましい。いや、そうでなくて、ゲームなら違和感なく受け入れられるが、現実だとそうはいかない。自分が見つけて囲った女を横から掻っ攫われるのだ。屋形はその事実に耐えられず、モブでなく悪役にジョブチェンジしたのではないだろうか…。
結果、半分正解だった。屋形が空手連盟の汚職に関係している事がわかった。屋形は佐倉コーポレーションのフィナンシャル部門…平たく言えば金貸業をやってる子会社の社長だ。こういう会社をやってるとどうしても反社会的勢力と接触してしまう。屋形はその子飼いの連中を使い空手連盟を籠絡したようだ。ここまでは、想像通り。そして、此処からが斜め上の現実。なんと、屋形、ゲーム開始前からヒロインに目をつけていた。まず、ヒロインの両親。ゲームではクソの一言で片付けていたが、借金先は屋形だった。さらに、雪平君の入院。交通事故だが、どうも雪平君を轢いた車を運転していた人間は屋形の子飼いらしい。と、いうか、調べてわかったけど、結構ひどい事故のようだった。よく生きてたな、雪平君。多分、ガチで殺すつもりだったのだろう。人を殺す事を厭わない、人間を底辺まで落とす事を躊躇わない。そんな人間が堂本を見逃す訳がない。
恐らく。屋形が本当に欲しいのはヒロイン。堂本を没落させてヒロインを再び手元に戻す為にドーピング事件を引き起こした。しかし、私が潰してしまったせいで予定が狂う。屋形は堂本を助けた私を邪魔に思い、潰そうと思うが北帝は潰すより利用した方が美味しいと判断して接触をはかった…そんなところか。
「ところで、屋形から食事の誘いが来てるのよ。これを利用して、潰さない?」
私は堂本に言う。今日はヒロイン抜きで彼と食事をしている。北帝の出資先レストランの個室だ。今日は完全貸切にしており、フロアには私が顔を知っている店長のみが対応。食事も料理長のみに作らせた。個室に入る前に盗聴、盗撮防止の為部屋を石竜子に家探しさせた。これで密談内容がばれたらもう、仕方ない。
「屋形…ね。一度会った事あるわ。」
ワインを飲みながら堂本は言う。手元にはドーピング事件で調べた事がわかりやすくまとまっている資料とヒロインの裏事情の資料がある。
「会った事あるんだ。」
「当たり前だろ?俺の女が他の男の世話になってるなんてプライドが許せないしな。香織が高3になったら一緒に暮らすつもりだからその挨拶をしたんだ。」
「ど、同棲っすか?」
私の問いにニヤリと笑う堂本。幸せそうで何より。
「その時は普通に対応されて終わったんだけどな。」
「内心はらわた煮え繰り返っていたんだろうね。」
調べた内容に誤りがなければ、屋形の愛は歪んでいて危険だ。
「で、その飯食いに行くってやつ。危ないんじゃないか?」
「いや、屋形は私を利用したいんだから、口説く事はするけど、危害は加えないでしょう。」
「口説かれるのはいいのかよ?」
「手品の種程わかるとつまらなくなるものってないわよ。もう二度と心躍る事はないわね。」
鼻でわらいとばす。
「いや、後ろのやつとか…」
ちらりと堂本は石竜子を見る。私からは石竜子の表情は見えないが、どうせ無表情だろう。
「石竜子はともかく。」
私はジュースを飲み干す。
「食事後、ホテルの一室に彼をご案内して、堂本さんにオラオラしてもらい、洗いざらい吐かせるというのが計画の概要よ」
「ざっくりしすぎだろ!」
堂本が突っ込む。そう言われても、不確定要素が多くて決める事が出来ないのだ。
「わかってるわよ。とりあえず、ホテルの一室は私が彼を誘導するって事で。」
「出来るのか?」
「屋形は私を落としにかかってるのよ。多少怪しい誘導にも引っかかるわよ。念のため保険として私には発信機をつけたりするから。」
「なるほど。」
発信機さえあれば最悪私が行方不明になることはないだろう。そう考えて堂本は計画を了承する。ヒロインの近くに屋形を置いておくのは危険だ。一刻も早く引きはなしたい。出来ればヒロインの知らないところで解決してしまいたい。だって、ヒロインに初めて優しくしてくれた人が自分を不幸にしたなんて悲しい事実、知らなくていい。