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悪役令嬢、海に行く

か、可愛いすぎるっっっ!

思わず片手で口元を押さえ俯いてしまった私に罪はない。初めまして!と人懐こい笑顔を向けているのはヒロインの弟、雪平君だ。さすが、この世界の主人公の弟なだけあってめちゃんこ可愛いのだ。思えばゲームで雪平君は、顔どころか名前すら出てこない、モブキャラだった。ゲーム開始冒頭で双子の弟が入院したの一文で済まされ、以降出番がなかった。だから、私はゲーム中に弟が退院していたなんて知らなかったのだ。でも、何故出さなかった、神…いや、制作会社!彼をモブ扱いするくらいなら、私をモブにしろ!

「あ、あの?」

訝しげな顔で下から覗かれ思わず一歩引く。可愛いお顔がどアップでドキドキしてしまう。

「あ、いや、こちらこそ初めまして。」

慌てて挨拶をする。

「お嬢様、車へどうぞ。」

言われて、後部座席に入る。今日はいつもの車ではない。大人数での移動という事で、堂本がバンをレンタルしたのだ。運転席に堂本、助手席に石竜子。残りは後部座席だ。荷物はみんなトランクに入れて身軽な状態になっている。

「それにしても、良美、なかなか見れるようになったじゃない!」

改めて私をまじまじと見つめる英里佳様。つられてみんな私を見る。大人組までバックミラー使って見なくていい!そう、私は先日ヒロインに見繕って貰った服を着ているのだ。その姿を最初に見た石竜子の視線の冷たいこと、冷たいこと。だから、手持ちの服で行きたかったのだが、着てこなきゃ友達やめるという卑怯極まりないヒロインのセリフにより、恥を偲んでこの服で来たのだ。袖部分がシースルーになった白いシャツの上にギンガムチェックのキャミソール、ハイウェストのジーンズ、白のサンダル。私はこんな流行に乗った服なんて着たことないから、恥ずかしくて仕方ない。

「ちょっと露出度が低くてよ!」

「あんたじゃないんだから露出なんてしなくてよし!」

英里佳様はクリーム色のホットパンツに黒のロングTシャツ、黒とゴールドのサンダルだ。私は彼女みたいに足なんか出せない。

「露出はもう少し、ウェスト絞ってからでしょ?」

ヒロインはニヤリと言う。って、いつかは、するの!?

「我ながらいい絞らせ方をした。実際の体重より細く見える。なあ、石竜子、お嬢様は綺麗になったよな?」

車を走らせながら、堂本がニヤリと笑う。対して石竜子は無表情で黙秘を貫く。

「なんだよ、つまんねーの」

堂本は肩をすくめる。

「姉さん、お茶飲む?」

「ありがとう!良美も飲む?」

「あ、これ姉さんの為に買ったから一本しかないや。」

「じゃあ、二人で交代で飲もう!」

「いや、特に乾いてないからいいよ。」

「そう?欲しくなったら言ってね?」

ヒロインが缶のプルタブをかちゃりと開けながらいう。

「見てよ、この写真。」

「まあ!最高ね!どうやって撮ったの!?」

匠がデジカメのディスプレイを見せて何やら自慢している。デジカメと言ってもあれは安物じゃない。プロ仕様のやつだ。そういえば、トランクにつめた荷物やたら多かったな。あれ、カメラ関係?

「500メートル先のビルで撮った。それくらい離れるとさすがに気づかれない。」

野生動物でも撮っているのか?

「成る程、それくらいしないと、アイツの裏はかけないわけね。」

苦々しげに石竜子を見る英里佳様。って、被写体はなんなんだ!聞くのが怖い!!この二人の共通の話題が怖すぎる。ほのぼの会話の後に聞くと怖さもひとしおだ。でも、まぁ、楽しく車の中できゃっきゃウフフとしながら海につく。



熱海。一昔前なら寂れた温泉街のイメージしかないが、今は再開発がすすみ、おしゃれなスポットに生まれ変わっている。私達が泊まるホテルは去年オープンしたまだ新しいところだ。海辺にあり、なんと、プライベートビーチに指定してされておりホテル宿泊客しか使用できない。その海に私達は荷物を置いてすぐに繰り出したのだ。…眩しい。

眩しすぎるよ、ヒロイン、ついでにハイスペック悪役令嬢!二人とも、ビキニだ。ヒロインはライトブルーのビキニ。英里佳様は黒のビキニ。ちょっとこの子、紐パンなんだけどっ!匠君、あまりジロジロ見るのはマナー違反よ?堂本、あんたはもっと近くでヒロインを堪能しなさい。

「姉さん、可愛い!似合ってる!」

雪平君はヒロインをベタ褒めし、腕を絡めている。ああ、雪平君はちょっと、シスコンなのかな?それも微笑ましい。

「良美!なんであんたはパーカーなんて着てるのよー!ぬーぎーなーさーいー!」

「こらっ!引っ張るな!」

この日の為に太ももまで隠れるロングパーカーを買ったのだ。誰が脱ぐかっ!

「良美見せてみろやっ!」

堂本が悪ノリしてパーカーを引っ張ろうとして、石竜子に腕を掴まれ止められる。

「なんだよー、本当はお前もみたいだろう?」

堂本のニヤつきにブリザードを思わせる無表情で回答する石竜子。

「おまえみたいなのをムッツリすけべって言うって痛い痛い!」

堂本が叫び始めた。

「じゃあ、私は荷物見てるから遊んどいでー」

私は彼らを海に追い立て、自分は敷物の上に座った。隣に石竜子が当たり前のように立つ。

「石竜子は海にはいらないの?」

「水着を持ってきてません」

「何しに来たのよ。」

私はいつもと同じスーツ姿の石竜子を見てため息をついた。でも考えたら私も同じか。水着を着てるのに海に入らないって付き合い悪すぎだ。

「無理する必要はないのです。嫌ならそのままこちらにいればよろしいのです。」

心を読むかのように石竜子がこちらを見ずに言う。

「でもね、これこのメンバーじゃなかったら顰蹙もんよ?」

「お嬢様は北帝です。誰も何も言えません」

その通り。でも、心の中までは強制できない。笑顔で舌を出す人は驚く程多い。舌を出すなとは言わないが、出されたい訳じゃないので出来る限りまわりに合わせたい。そう思うのは、前世を思い出した影響か、それともゲームでは描かれる事のなかった良美の心情そのものか。最早確認する術はない。私は立ち上がった。

「どちらへ?」

「喉が渇いたから、ジュースでも買いに行くのよ。ついでにみんなの分も。」

「私も行きます。」

「二人で移動したら荷物番がいなくなるでしょ。石竜子はここにいて。」

「しかし…」

何か言いたげな石竜子に背を向け手をひらひらふる。美味しいトロピカルジュースを人数分。せめてそれくらい用意してご機嫌とったっていいじゃないか。

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