見えぬ敵
気づいたら夏休みになった。期末テストも補習も何も考える間も無く終わった。これも全ては奴のせいだが、当の本人は飄々としており、普段通りだ。毎日毎日飽きる事なく考えてしまっている私がおかしいのだろうか?そんな中、堂本から電話が入り、呼び出された。
「わざわざ悪いな…ってどうした?元気ないぞ?飯、ちゃんと食ってるか?」
ここは、堂本の自宅マンション。高級マンションのリビングに私と堂本、ヒロインがいる。後ろに控える石竜子については考えない事にする。
「…別にいつも通りだし、ご飯は食べてる」
「…?そうか?まあ、例の件なんだがな」
そう言いつつ、堂本は書類を渡してくる。
例のドーピング事件前に選手らが口にした食事を提供していた業者一覧である。原材料仕入先から加工、調理、提供業者一同余す事なく調べたらしく載っている。…けど…
「結果はシロか」
「ああ。」
彼らが口にした食べ物には特に問題無しだったようだ。私は書類を石竜子に渡す。迷宮入の匂いがしてきた。個人的には堂本さえ没落しなければ、どうでもいいのだが、今後同じ事が起きないとも限らない。大会の度にこんな事やってられないのだ。
「こちらも独自に調べておりました。こちらの書類に載っていない業者一覧です。」
石竜子が書類を堂本に渡す。
「載ってない業者?」
堂本が訝しげに書類を見る。
「これは…」
「そうです、堂本様のところだけでなく、全ての道場に出入りしていた業者の全てです。」
「いや、彼らは…」
堂本は口ごもる。堂本道場以外にも出入りしていた業者。しかもよく見ると飲食に限ってない上に堂本道場に出入りしていない業者も含んでいる。これらを一つ一つ調べたら莫大な時間とお金がかかるだろう。何故なら軽く千を超えるのだから。
「さらに、こちらも」
さらに書類を上乗せする。
「これは!まさか!」
堂本は目を見張る。
「連盟関係者、検査局、検査キット作成業者の一覧です。」
「これは無いと信じたい。」
食事に薬を混ぜて陽性反応を出すなんて面倒な事させなくても、彼らを抱き込めば書類上は陽性でアウトにする事が出来るだろう。だが、万一そうなら連盟が裏で誰かと繋がり特定の道場を潰しに動いた事になる。それは連盟の腐敗、乗っ取りでしか無い。そんな信用できない連盟に加入していたくない。堂本は動揺し…息をひとつ吐き
「調べてみる」
書類を受け取ったのだ。